知りたい情報
水澤小隊の部屋にて、玲奈は仁からホープのバトルサポートを使用する上での基本を習っていた。淡々とした口調の仁だが、丁寧に分かりやすく説明しようと、イメージ図を用いて説明していたが、肝心の玲奈は上の空だった。
そんな玲奈の状態を察した仁は、説明を中断して玲奈に話しかける。
「玲奈……今は集中して俺の話を聞いてくれ」
玲奈が集中して話を聞けなくなったのは、数十分前のことだった。
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『はあぁ!? あの人が世界最強!?』
最強と謳われる伊澄真里の戦歴を聞いた玲奈たちは目を見開いて仁に目を向けた。
「最強って、仁が最強じゃないの? ランク戦で連戦連勝だって……」
玲奈の言葉に仁は残念そうな表情を浮かべて言葉を返す。
「掲示板の情報か……間違いじゃないが、あくまでも俺はAAAランクの近距離のブレーダー部門での連勝だ。自慢じゃないが、AAAランクのブレーダーでは一番強いと思っている」
以前ほどの嫌みを感じない仁の言葉だが、玲奈と遼は少し苛立った。2人の表情を見て、少し不敵な笑みを浮かべる仁だが、話を進める。
「だがブレーダー部門だけで最強を語るのはまだ早い。中距離のシューティング部門、遠距離のスナイプ部門でも上位の成績を残して、選ばれた人だけが参加できる、オールラウンダー部門で1位をもぎ取って、初めて最強と呼ばれるんだ」
玲奈たちは仁から視線を逸らすことなく、静かに説明を聞いていた。
「そして伊澄さんは全ての部門を無敗で制覇して、歴代2人目のホープ最強隊員の2つ名を貰ったが、ここで話は終わらなかった」
仁は玲奈のために用意していたメモ用紙一枚に、ホープに存在するランクを書き出した。
「以前、師匠から話を聞いたと思うけど、Cランク・Bランク・Aランク・AAランク・AAAランクと5つのランクがあって、実力や功績が認められるとAAやAAAに昇格することがある。だけど、本当はもう一つランクがあって、AAAランクが最高のランクじゃないんだ」
「AAAの上? どういうこと? 本部長や優一さんは最高がAAAランクだって……」
全てを知らない玲奈たちは不安そうな顔で仁を見つめる。
「……本当は話してはいけないことだ。ホープ関係者以外には話しちゃいけない。それだけは約束してくれるか?」
仁は真剣な眼差しで、聞きに回っている玲奈たちを見る。玲奈たちは静かに頷き、話の続きを促した。
「AAAランクを超えるランク、レジェンドランク隊員に伊澄さんはなったんだ」
『レジェンドランク?』
口を揃えて玲奈たちは仁の言葉を復唱した。
「レジェンド……伝説。AAAでは力を持て余すと認められた者だけが与えられるランク。ランク戦の殿堂入りや、ホープの切り札とも呼ばれている。現在レジェンドのランクを持つのは、伊澄さんを含めて7人。その7人の中でも実力は抜けていると言われている」
「選りすぐりの中でも最強……でも、なんでレジェンドランクを隠すの?」
玲奈は疑問に思ったことを仁にぶつけた。仁は少し俯いて、言葉を返した。
「残念ながら秘密にする理由は俺にも分からない。ただ単に切り札として隠しておきたいだけなのか、他に理由があるのかは、レジェンド7人と本部長しか知らない」
玲奈たちは黙り込み、仁もそれ以上は話そうとしなかった。
「……レジェンド……最強……」
玲奈はブツブツと呟き、何かを考え始めた。一方で詩織があることを思い出し、口にする。
「じゃあ、玲奈ちゃんの特別入隊試験を見ていた人たちって……」
仁は軽く微笑んで、詩織と遼の周りにいた人物たちの正体を明かした。
「本部長と師匠と穂香さん以外は全員レジェンドだ」
詩織と遼が感じていた、場違いな雰囲気の原因が判明した。玲奈は相変わらず、何かを考えているようで反応を見せない。
「レジェンド……AAAよりも強いのか……」
遼が顎に手を当てて興味深そうな顔をする。その様子を見た仁が微笑みながら、遼に耳寄りな情報を教える。
「そうだ……ランク戦ではレジェンドは戦うことは出来ないが、レジェンド同士の模擬戦や、上半期と下半期の最後に行われる『ホープ杯』と、年に一度のAAAランクの隊員がレジェンドに挑む時だけ、彼らの戦う姿を見られる。次に見られるのは上半期のホープ杯だ。興味があるなら楽しみにしてろ」
その時、仁のアラームサポートが発動し、現時刻を確認した。
「時間になった。訓練を再開するぞ、玲奈」
話が面白くなってきたところで、無情にも玲奈の休憩が終わる。しかし、仁の声が聞こえていないのか、玲奈は仁と目を合わせず、考え事をしていた。そんな玲奈に構うことなく、仁は資料やメモ用紙などを机の上に広げた。
遼は自分の個室に戻り、詩織は以前住んでいた場所から荷物を移すためブースを後にした。
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そして今に至る。
「おい、玲奈。いい加減にしてくれ。話を聞け」
仁が真剣な眼差しで玲奈の瞳を見つめる。視界に仁の顔が見えたことによって玲奈は我に返る。
「ん? 何か言った?」
「何か言ったじゃない。数分前から説明を始めているぞ」
「伊澄さんの?」
「その話は大分前に終わっている! お前は小学生か」
呆れた表情で仁は玲奈を見つめる。玲奈はどうしても気になることを仁に尋ねる。
「ねえ、どうして隠すようなランクを作ったの?」
「だからそれは俺にも分からないって言っただろ?」
「それに実力があるんなら戦場に出てもらった方が良いんじゃない?」
仁はため息をついて玲奈を睨む。
「これ以上話を聞かないのなら、もう一度ゴースト100体と10本先取の訓練をするぞ?」
思ってた以上に辛く、厳しかったあの訓練を思い出した玲奈は顔を青くして、仁の話を真面目に聞き始めた。
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真里は鼻歌を歌いながら、自分の小隊部屋の個室にて、宏大たちから押収した資料に目を通していた。そして宏大たちが握っていた情報と照らし合わせて確認していた。
(ん~。宏大くんたちの言っていたとおり、お母さんが怪しそうね。明日、玲奈ちゃんに会って少し話を聞いてみようかな? それにしても予想通り可愛い子だったな~)
「あんた何してるの?」
背後から話しかけられた真里は、跳びはねて驚き、咄嗟に資料を天井に向かって投げた。
「うあぁ!! って抄ちゃん! 勝手に人の部屋に入ってこないでって何度も言っているよね?」
話しかけてきた人物は友人であり、仲間の西原抄だった。
「別に良いじゃん。減るもんじゃないし」
「私の寿命が減ったよ!」
真里は少し目を細めて、抄に目を向ける。抄は真里が投げつけた資料を見て拾い上げる。
「あ! それは!」
「何々? もしかしてラブレター? モテる女は辛いね~」
「違うって! って言うか見ちゃダメだよ!」
必死に取り返そうとするが、真里の顔に手を押しつけて、近づけないことを確認し、資料に目を通す。資料の内容が水澤玲奈に関するものだと分かった抄は真里に目を向けた。
「あんた、ルーキーの情報なんて見て何する気だったの?」
「何もしないよ。仮に企んでても言わないよ」
真里は抄から目を逸らして資料を取り上げた。抄は少しニヤリと笑い、玲奈の脇腹に触れた。
「って、きゃあぁぁ!! 抄ちゃんどこ触ってるの!? くすぐったい~」
真里の脇腹を懸命にくすぐる抄は、真里の口を割ろうとしていた。
「さあ言え! 何企んでた?」
必死に笑いをこらえて、黙秘を続けようとする真里だが、真里の笑いのツボを知っている抄は、その手を止めることはなかった。
「喋らないと、このままずっとくすぐるよ~」
「わ……分かったよ!! 話す!! 話すからやめて!!」
真里の言葉を信用した抄は脇腹から手を離して、真里の息が整うのを待った。笑い涙を拭き取った真里は思っていることを口にした。
「ただ単に水澤ちゃんと仲良くなりたいだけだよ。さっきも小隊部屋に行ってきたし」
「本当にそれだけ? そんなことのために個人情報を持ち出す?」
真里は凜とした顔で「それだけ」と言葉を返した。しかし、裏があることは抄は知っていた。なぜなら。
「じゃあ、宏大たちが真里ちゃんをなんとかしてくれって、私に泣きついてきたのは?」
真里は頭を抱えて、自分の甘さを悔やんだ。
(喋ったな~宏大くん……ちゃんと口止めしたんだけどな~)
「他に何か隠していない?」
真里はポリポリと頬を掻き、宏大たちに関することを話した。
「優一くんに頼まれてたの。宏大くんたちが色々探り回っているのをやめさせてくれって」
「どうして?」
抄は真里を問い詰める。
「なんか訳ありみたい」
真里はニッコリと微笑み、抄の耳元で囁く。重みのある言葉に抄は鳥肌を立たせていた。
「抄ちゃん、納得してくれた?」
「な、納得した……」
「そう? じゃあ、このことは他言無用ね」
本当は納得しがたいが、真里の言葉の威圧は抄の心を完全に折り、言及させなかった。しかし、散らばっている資料の中で、あるものを見てしまった抄は固まった。
「ん? あの~抄ちゃん? 聞こえている?」
真里の声は抄には届いていなかった。鋭い目つきをする抄は声を低くして真里に尋ねる。
「ねえ? 真里?」
真里は怯むことなく、話を聞く。
「明日、一緒に水澤小隊の部屋に行かない?」
真里は首を傾げながら理由を聞いた。
「どうして?」
「私も……会いたい人がいてね」
そう呟くと、抄は真里の個室から出て行った。ちゃんとした理由を話さない抄に、真里は再び首を傾げた。
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真面目に話を聞く気になった玲奈を見て、仁は改めてバトルサポートを使用する上での基本を教え始めた。
「コホン……最初から説明するからよく聞けよ」
仁はバトルサポートの教科書を開き、玲奈に見せた。
「今からお前に教えるのは、バトルサポートを介した霊力の使い方だ」




