第七話 朝待ち橋と夕の盾
十八本の矢と一日分の食べ物を背に、レノルは辺境門を出た。
空は晴れていた。城壁の影はまだ門前の道を半ば覆い、その先では朝露を含んだ畑が白く光っている。早い荷車が影から日向へ出るたび、車輪の縁だけが一度明るくなった。遠い山裾には薄い靄がかかり、鉄舐め谷へ向かう道は、その下へ細く沈んでいた。
朝の冷え込みは日ごとに浅くなっていた。門の影を抜けると、袖越しにも日の温かさが届いた。
朝待ち橋のたもとで、レノルはいつもの点検を済ませた。
弦輪は上下とも正しく収まっている。矢袋の紐にも緩みはなく、腰の小袋は歩いても腿へ当たらない。水袋の口を押しても漏れはなかった。
十八本のうち、前の狩りで使った一本も、ほかの十七本と同じ矢袋に収まっている。町へ戻った夜のうちに、肉と皮と角を加工街へ渡し、宿の井戸で鏃の血と脂を落とした。解体用の刃物も洗い、弓身は乾いた布で拭いて弦を外した。矢と刃物は、それぞれ矢袋と鞘へ戻さず、小部屋に広げた布の上で夜を越した。
昨日の朝、窓から差す光に乾いた矢をかざした。箆を回しても曲がりはなく、矢羽を留める糸も締まっていた。刃物は研ぎ面に欠けがないことを見てから、皮を引く丸い腹だけを砥石へ短く当てた。食べ物と予備の糸を買い足したあとは町の外へ出ず、日が暮れるまで身体を休めた。
いま、腰の鞘には油を引いた刃物が収まり、肩と腿にも、半頭分の荷を運んだ張りは残っていない。
空の籠を背負った採集者が二人、橋を渡って西の畑道へ折れた。鍬を担いだ者たちは橋の手前から低い畦へ下りる。
橋のたもとに、大盾の男の姿はなかった。レノルは橋を渡り、鉄舐め谷への道へ入った。
畑道の低いところに朝露が残るあいだは、ぬかるみと轍を避け、いつもの歩調で進んだ。
道が乾き、見通しの利く直線へ出ると、レノルは背負い紐を引いて荷の揺れを止めた。左右の足首には、長く走る獣の腱を編んだ足輪が巻いてある。
息をひとつ長く吐き、そのあいだに同じ間で三歩を刻む。三歩目の着地へ、短い呪句の終わりを重ねた。
巻き直していない左右の足輪が、同時に張った。
次の一歩から、脚と腰と呼吸へ、獣から借りた長い歩調が重なった。無理に地を蹴ってはいないのに、畦と水路がいつもより速く後ろへ流れる。レノルは荷を暴れさせない調子を保ち、開けた畑道を走った。
山裾が近づき、路面へ石が増える前に、歩調を外した。足輪の張りがほどけ、身体は自分の速さへ戻る。走った熱は腿の奥に残り、荷の重さも肩から消えてはいなかった。
その先では、いつもの歩調へ戻った。
崩れた路肩では、自分で先の足場を選ぶ。低い枝の下を通る時は、長弓を立てたまま左肩を入れる。痕跡を見るために立ち止まれば、道の先と背後も同じ目で確かめた。
振り返ると、ラネダルはもう遠い。河岸段丘の城壁が盆地の畑を長く区切り、その下を流れるラネムが、ところどころで白い光を返している。道へ出た人々は畦と林の間へ散り、荷車だけが土煙を引いて南西へ向かっていた。そのさらに先では、盆地の低い縁が淡く霞み、内地へ続く道も空の明るさへ溶けていた。
レノルは山裾へ向き直った。
鉄舐め谷へ着いた時には、日は東の斜面を越え、谷底の流れまで細く照らしていた。
谷へ入って間もなく、硬いものを続けて打つ音がした。
レノルは岩の陰で足を止めた。
採集路の上に、二体の苔運びがいた。
人の膝ほどまでしかない低い身体が、六本の脚で乾いた石へ張りついている。灰色がかった前甲には淡い筋が走り、頭と前胸の下へ続く硬い縁が、岩から灰緑の苔をこそげ取っていた。前の二対の脚で砂の混じった苔を抱え、残る一対で身体ごと押し込む。もう一体は少し外に立ち、ときおり甲を短く鳴らして周囲へ触角を向けた。
二体の間では、脚と胴の継ぎ目が互いの前甲に隠れている。
一体なら、距離を保って射る場所はある。二体でも、倒せない相手ではなかった。だが一体へ矢を通したあと、残る一体は傷ついた相手から離れるより先に、矢を放ったレノルへ向きを変える。低い甲を避けてもう一度脚の付け根を狙うには、位置を替えるか、弓を下げて足を止める術を使うことになる。
その後には二体分を処理し、運ぶ仕事が残る。
前には大盾の男が二度、盾で押しを受けた。今日はそれを自分の足と矢で受け持たなければならない。
レノルは矢へ手を伸ばさなかった。
採集路へ入らず、風下の低い棚を回る。二体の苔運びは苔を抱えたまま触角をこちらへ向けたが、レノルが外へ離れると追ってこなかった。甲を打つ音が一度だけ谷へ残り、やがて苔をこそげる乾いた音へ戻った。
別の獲物を探すことにした。
鉱泉の細い流れに沿って上ると、薄い石肌を剥いだ跡があった。縁はまだ濡れ、白い粉の上へ朝の水がにじんでいる。その脇に、短く締まった蹄の跡が一頭分だけ続いていた。
レノルは屈んで、跡の深さを見た。
大きな成熟雄ほど重くない。歩幅には乱れがなく、片脚をかばった跡もない。新しく剥いだ石の高さと、灌木に残った短い毛から見ても、若い雄だった。
水場を離れるのが群れより遅れたらしい。跡は泉から乾いた段へ上り、途中で何度も風上へ向きを変えている。ほかの蹄跡は重ならない。
レノルは水を飲み、幅広の矢が抜きやすいよう矢袋の口を直した。
一頭なら、運べる。
残った日中で、処理まで終えられる。
足跡を追って、泉上の段へ上がった。
乾いた棚には、低い草と裸の岩が斑に続いていた。雨の流れた細い窪みには湿った土が残るが、外へ張り出したところは石ばかりで、靴底の下に砂が鳴った。
若い雄の岩剥ぎは、二つ先の棚にいた。
肩と胸はよく張っているが、角の根元はまだ太くなりきっていない。外へ開いて後ろへ寝た二本の角には、白い石粉が筋になっていた。若芽を噛みながらも、耳は一度も同じ向きに止まらない。
レノルは風下の岩陰へ伏せた。
獲物の下には泉へ戻る低い道がある。上には細い岩棚が一段、その外に草の開けた棚が続いていた。驚けば風上へ顔を向け、低い道から斜面を上るはずだった。上り口へ横腹を向けたところなら、前脚の後ろを射てる。
レノルは幅広の矢を抜き、弓へつがえた。
すぐには引かない。
一人では、下から獲物の向きを変えてくれる者はいない。石を投げれば、音の方角も自分の位置も知らせる。風が動くまで待ち、若い雄が自分から身体を開く瞬間を待つしかなかった。
日差しが岩の上をゆっくり進んだ。
若い雄が若芽を離した。鼻先を上げ、風上へ顔を向ける。前脚が一歩動き、肩の後ろが見えた。
レノルは立ち上がりながら弓を引いた。
獲物も動いた。
引ききる前に身体が斜めになり、狙っていた前脚のすぐ後ろが肩に隠れる。レノルは弦を戻さなかった。前脚が着く先へ鏃を下げ、横腹が残っている間に放った。
幅広の鏃は前脚の後ろへ入った。
だが浅い。
矢柄の大半を外へ残したまま、若い雄が跳ねた。血は散ったが、前脚は止まらない。予想していた低い上り口へ向かわず、角を振って一段高い岩棚へ駆け上がった。
その棚は、レノルの岩陰へ回り込むように続いている。
獲物は逃げながら近づいてきた。
レノルは二本目へ右手を伸ばし、すぐ止めた。
長弓を立て、耳近くまで引く空間がない。ここで半ばまで引いて射っても、厚い肩か角へ当てるだけになる。若い雄は上の棚でレノルを見つけた。首を低くし、外へ開く角をこちらへ向ける。
レノルは岩陰から下がった。
背後には、棚から細く突き出した裸の岩がある。人の胴より厚く、外側へ回れば草の開けた棚へ抜けられる。若い雄が角を向けたまま追うには、岩の端で一度身体を振らなければならない。
レノルはその岩の反対側へ回った。
蹄が石を打つ。
最初の一歩は遠い。次は近い。硬い呼気が岩越しに聞こえ、角の先が上端から一度だけ見えた。
左手には大弓がある。右手を弦へ置けば、矢を抜くところから始めなければならない。引ききる前に、若い雄は岩を回り終える。
腰の種莢袋へ、指先が触れた。
足もとにも、岩の先にも、根を取れる土がない。乾いた石を指して種莢を割っても、茨は獲物の脚を止める高さまで育たない。前に涸れた石の流れで失った一莢を、レノルは覚えていた。
指を一つ隣の小袋へ移した。
炭と樹脂を練り合わせた小粒を、一つ取り出す。
若い雄の鼻先が岩の端から現れた。次に角、肩が出る。レノルは左手の弓を身体の脇へ伏せ、右の指革を掌の外へ逃がした。
小粒を親指で押し潰す。
炭の欠片が掌へ広がり、樹脂の匂いが立った。レノルは短い呪句を唱え始めた。
若い雄は止まらない。
角が岩の端を越え、傷ついた側の前脚が見えた。掌と前脚のあいだにあるのは、裸の石だけだった。レノルはその脚の外側から目を離さず、黒く汚れた右掌を向ける。呪句を重ねるあいだにも蹄は二度石を打ち、肩が視界を塞ぐほど近づく。開けた場所なら、矢を抜いて一射を放ち終えるほどの間が過ぎた。
最後の音を口から放した時、掌の炭が内側から赤く光った。
細い火が、手を焼かずに立ち上がった。
それは風に散らず、レノルの掌から若い雄の前脚へ、まっすぐに岩の間を走った。動く脚の先を追って曲がりはしない。レノルが見定めた外側の毛へ届き、橙の火がひと息だけ膨らんだ。
毛が縮れ、焦げた匂いが弾けた。
若い雄が前脚を強く振った。踏み込むはずの蹄が石を擦り、身体が外へ揺れる。倒れはしない。低い首も、こちらへ向いた角も残っている。
レノルは、その一歩だけを使った。
岩の外へ走り、草のある開けた棚へ出る。三歩、四歩と離れ、振り返る。若い雄は焼けた脚を石へつき直し、岩を越えて追ってきた。
今度は、弓を立てられる。
レノルは矢袋から二本目を抜いた。つがえ、左足を前へ置き、身体ごと弓を上げる。若い雄が角を振って向きを変えた。焼けた前脚をかばった一歩で、反対側の肩の後ろが開いた。
耳の近くまで弦を引き、放す。
二本目の幅広の矢が、開いた肩の後ろへ深く入った。
若い雄は勢いのまま数歩走った。踏み出すたび胸が沈み、角の先が下がった。低い草を押し倒して横へ崩れ、そのまま動かなくなった。
レノルは三本目を抜き、つがえずに手へ持った。
岩の向こう、上の棚、来た道を順に見る。ほかの蹄音はない。苔運びの甲を打つ音も、ここまでは届かなかった。風だけが乾いた草を撫で、焦げた毛の匂いを岩の方へ押し戻している。
少し待ってから、レノルは石を一つ投げた。
石が後脚へ当たっても反応はなかった。
三本目を矢袋へ戻し、弓を持ったまま頭側へ回る。角の届かない外から胸を見て、息が止まっていることを確かめた。
焼けた毛の端に、まだ赤いものが残っていた。
レノルは流れの近くまで戻り、湿った土を両手にすくった。火の残る前脚へかぶせ、靴底で軽く押す。毛を分けても熱が残っていないところまで確かめ、周囲の草と岩の陰も見直した。掌から前脚までの直線には、乾いた枝や枯草はなかった。土から煙は上がらない。
腰の小袋を開くと、炭と樹脂の小粒は一つ残っていた。背負い具の予備は二つある。合わせて三つだ。レノルは袋の口を閉じ、ほかの袋の結びも指で確かめた。蜂房の薄片も、種莢も、治癒の葉も減っていない。
二本の矢を抜く。
最初の矢は浅く、鏃の後ろまでしか血が付いていなかった。二本目は入った角度へ沿ってゆっくり戻す。どちらも鏃に欠けはなく、箆を指の上で転がしても曲がりはなかった。布で拭い、二本をまとめてほかの十六本とは別に包んだ。
日差しは、もう岩の両側へ回っていた。
狩りを始めた時には東側に残っていた影が、細く獲物の下へ縮んでいる。正午は過ぎていた。ここから一頭を冷まし、運べる形にし、門まで戻らなければならない。
レノルは獲物の後脚をまとめ、流れと道から外れた浅い窪みへ引いた。
後脚を引けば、前の角までは支えられない。角が岩へ掛かるたびにいったん戻り、身体を横へずらしてからまた引く。わずかな距離を動かすだけで、肩と背が熱くなった。
日陰の残るところへ下ろし、周囲を一度見た。
背負い具の定位置から解体用の刃物を取り、鞘から抜く。緩く落ちた刃先から丸い腹へ、昨日研いだ光が細く沿った。
腹の皮へ刃先を短く入れた。
腹を開くところまで進めると、刃を抜いて布へ置く。血のついた手を草で拭い、弓を取り上げた。上の棚、岩、谷底を見る。何も動かない。
弓を手の届く石へ戻し、また刃を持った。
熱のこもるものを外す。食べられるものを布へ分け、残すものを窪みの下側へ置く。片脚の腱を切り、関節を外したところで、もう一度手を止めた。今度は血の匂いへ寄る羽虫の向こうまで目を凝らす。
誰も周りを見てはいなかった。
レノルが刃を使えば、その間だけ道も上の棚も見られない。弓を持って周囲を確かめれば、獲物の熱は抜けても、皮を剥ぐ手は進まない。
前は、皮を引く手と刃を持つ手が別にあり、片方が包みを整える間にも、もう片方が外を見られた。今日は皮の端を膝で押さえ、左手で張りを作り、右手の刃を少しずつ滑らせる。皮が戻れば、また押さえ直した。
短い仕事のたびに、刃を置き、弓へ手を戻した。
空は晴れたままだった。谷の上を渡る風が少しずつ西へ向きを変え、遠い斜面の林は、朝より濃い緑を見せている。頭上の雲の影が山腹をゆっくり渡り、レノルのいる岩棚へ届く前に形を崩した。その間にも、盆地の方から聞こえる荷車の音は、何度か途切れてはまた細く戻った。
大きな部位を外し終えた時、日はすでに西へ傾き始めていた。
レノルは飲み場より下流で手と刃を洗った。血のついた水が飲み場へ戻らない位置を選び、土と草で指の脂を落とす。刃は水気を拭いて別布へ包んだ。
固いパンを食べ、水を飲む。座っている間も長弓は膝から離さなかった。
荷は一つに組んだ。
肉の包みを背へ近く置き、その外へ皮を巻く。角は一本ずつ向きをずらし、歩いても弓や脚へ触れない側へ括る。食べられる部位は小さな包みに分け、空いた隙間へ入れた。
背負い具を起こすだけで、前の半荷とは違う重さが腕へ来た。
一度では背負えなかった。平たい岩へ荷を立て掛け、そこへ背を向けてしゃがむ。両腕を通し、脚で押して立ち上がった。肩紐が服へ沈み、身体が後ろへ引かれる。
レノルは長弓を上げた。弦は荷紐へ触れない。矢袋には十六本があり、血を拭った二本は別布の中にある。右手を伸ばせば、次の矢を抜けた。
残したものを水場と人の通る棚から外し、血の濃い土へ乾いた土をかけた。
それから、谷を下った。
一頭分の荷は、急な下りのたびに背中を押した。足を置く前に石を選び、身体をやや後ろへ残す。道が細くなるところでは、角の先が岩へ当たらないよう腰から向きを変えた。
前に二人で休んだ平たい石まで来ると、レノルは荷を下ろした。
肩には紐の跡が赤く残っている。水を飲み、包みへ手を当てて熱が戻っていないか確かめる。緩んだ括りを締め直している間、道の両側を見る者はいない。レノルは作業を止めて弓を取り、枝道と草の揺れを確かめてから、また荷へ戻った。
休みは一度では足りなかった。
谷口を離れたあとにも、影のある岩へ荷を下ろした。次に立ち上がる頃には、山裾の影が盆地の側へ長く伸びていた。門までの道は見える。急がず歩いても、閉じる前には着く。ただし加工街へ荷を渡す頃には、夕方の仕事が重なるだろう。
低い帰路へ出ると、モセラン盆地が目の前に開いた。
午後の光を受けた畑が南西へ幾重にも続き、畦の線は林や集落の屋根を挟むたびに細くなる。ラネムは河岸段丘の下で何度も曲がり、遠ざかるほど空の色を深く映していた。ラネダルの城壁はその上に長く伸び、まだ西日を受けている。城門へ戻る人と荷は、広い盆地の中では蟻の列より細かった。
山の側へ目を移せば、登ってきた谷はもう斜面の重なりへ隠れていた。その奥には、今日も行かなかった棚と枝谷があり、さらに高い峰の向こうへ、レノルの知らない土地が続いている。雲の影だけがその斜面を越え、盆地より先に遠くへ進んでいた。
レノルは荷を背負い直し、城壁へ向かった。
畑へ入る頃には、朝に外へ出た者たちが戻り始めていた。草を束ねた者、空の籠を揺らす者、泥のついた鍬を肩へ担ぐ者が、枝道から一人ずつ合流する。レノルは荷をぶつけないよう道の端へ寄り、ときおり足を止めて先へ通した。
朝待ち橋の手前で、車輪の連なる音が聞こえた。
小さな商隊が、レノルの後ろから橋へ近づいてきた。
荷車は幾台かあった。布を掛けた荷が夕日に赤く染まり、車輪と馬の脚には乾いた土が白く付いている。御者のほかにも、槍を持って荷車の脇を歩く者がいた。門へ近づいても列は崩れず、橋へ一台ずつ入ってくる。
二台目の荷車の脇に、背の高い男がいた。
赤みのある茶色の髪を襟足で結んでいる。荷の横には、円い木枠へ皮を張った楽器と、武器らしい細長い包みが一緒に括られていた。男の手は荷綱にあり、橋板へ乗る車輪と、道の外にいる人の位置を交互に見ていた。
列の最後に、大盾の上端が見えた。
使い込まれた木の面が夕日を受け、荷車の後ろで人の肩より高く動いている。下部の板当ても、灰褐色の皮を巻いた縁も、土埃で白くなっていた。大盾の男は槍を低く持ち、列との間を空けずに歩いている。
レノルは自分の荷を道の端へ寄せ、商隊が橋を渡るのを待った。
大盾の男も、レノルを見つけた。
視線が長弓から一頭分の荷へ動く。男は歩みを緩めず、顎をわずかに引いて頷いた。
レノルも同じだけ返した。
二人は頷きだけを交わした。
大盾の男は商隊の最後尾を離れず、橋を渡って門へ向かう。レノルも列の後ろへ入り、一頭分の荷を背負ったまま橋板を踏んだ。
門をくぐると、商隊は上の通りへ進み、レノルは加工街へ下る坂へ向かった。




