9.犯人はあの中にいる!?
「……犯人を、見つけなきゃ」
拳を握りしめたまま、私はゆっくりと顔を上げた。教室は相変わらず、退屈な日常を繰り返している。黒板には数学の公式が並び、窓の外では風が木々を揺らしている。けれど、私の中では何かが決定的に変わってしまった。
同担虚無。
あの言葉を口にしたのは、誰だ。
耳を澄ませば、さっきの会話をした二人の声はもう別の話題に移っている。片方は栗色のボブヘアの女子。もう片方は黒髪をきれいにまとめた、少しクールな顔立ちの子。どちらも、前世の記憶の中にある顔ぶれとは一致しない。少なくとも、すぐには思い出せない。
でも、言葉は嘘をつかない。
「同担拒否」ならまだしも、「同担虚無」。あの独特の響きを、あの温度感で使う人間は限られている。私たちだけの、狭いサークルの中でしか通用しなかった、ある種の合言葉みたいなものだった。
私は机の上に広げた教科書を、指でなぞるふりをしながら、記憶を掘り起こそうとした。
誰だっけ。
私を含めて、四、五人だったはずだ。
名前が……出てこない。顔も、ぼやけている。前世の記憶は、転生した瞬間からところどころ欠けているのだ。特に個人的な情報ほど、霧の中に沈んでいる。それでも、雰囲気だけは残っている。誰かが、誰かのことを「推し」と呼んで笑い、誰かが「原作が許せない」と愚痴を言い、誰かが「だったら自分で書けばいいじゃん」と煽って——
そうだ。
「書く」やつがいた。
誰かが、確かに、二次創作を書いていた。それも、かなり本気で。原作の設定を尊重しつつ、ほんの少しだけ、世界の「隙間」を埋めるような書き方をする奴が。
私は息を呑んだ。
もし、その「書く奴」がこの世界に転生していて、しかも原作の世界そのものに手を加えているのだとしたら——
ガルド様とユリウスの、あのキス。
公式ではあり得なかったはずの関係性。台詞の端々に感じた、微妙な「違和感」。あれは偶然じゃない。誰かが、意図的に「きっかけ」を差し込んだんだ。
心臓がまた、大きく跳ねた。
私はそっと席を立ち、教室の後方へ視線を走らせる。誰も、こちらを見ていない。みんな、それぞれの日常に没頭している。でも、その中に、必ず「彼女」がいるはずだ。
名前は思い出せなくてもいい。
言葉が、証明してくれる。
放課後。
私は図書室に向かった。学園で一番静かで、かつ、誰かが「物語」に手を加えるのに適した場所だ。もし彼女が本当に「書いている」のなら、きっとここにいる。あるいは、少なくとも、ここに痕跡を残している。
長い廊下を歩きながら、私は小さく呟いた。
「……待ってろよ」
声は、誰にも届かなかった。
でも、この世界のどこかにいるはずの、前世の仲間にだけは、届いてほしいと思った。
私は、必ず見つける。
そして——
絶対に言ってやるんだ。
お前、何してんだよ!って
『ガル×ユリ』は解釈違いだろ!!って




