6.自分でもよく分からなくなる
放課後の訓練場に、剣が空を切る音だけが響いていた。
フロレンティアは、もう何度目かも分からない素振りを繰り返していた。腕はとうに悲鳴を上げているが、止まる気にはなれない。
「……フロレンティア嬢」
声をかけられて、はっと顔を上げる。
レオニダス・アルヴェントゥス殿下が、そこに立っていた。
「殿下……? どうか、なさいましたか」
殿下は、少し気まずそうに視線を彷徨わせてから、口を開いた。
「その、な。見ていた。一人で、えっと、供給過多?違う、随分と……」
言葉が、そこで止まる。
「その、頑張って、いや、無理を……」
眉根が寄る。何かを言おうとして、うまく形にならない、そんな様子だった。
「討伐の……いや、森の件は、本来なら、公式最大手?の私が……いや、そうではなく」
「殿下?」
「……すまない。何が言いたいのか、自分でもよく分からなくなった」
殿下は、疲れたように小さく笑った。自嘲するような、諦めたような笑みだった。
「最近、こういうことが多い。言いたいことがあるはずなのに、途中で何かに邪魔されるみたいに、わけのわからない言葉が浮かんできて、上手く言葉にならない」
フロレンティアは、何と返せばいいか分からず、ただ黙って殿下を見つめた。
「情けない話だ。お前が一人で無理をしているのを見ていて、何か力になりたいと、そう思ったのに……こんな体たらくでは、何の役にも立てそうにない」
殿下は自嘲気味にそう言うと、軽く頭を下げて、その場を立ち去ろうとした。
「あの」
フロレンティアが、思わず声をかける。
殿下が振り返る。
「……何を仰りたかったのか、私には分かりません。でも」
言葉を選びながら、フロレンティアは続けた。
「見ていてくださった、というだけで。今は、それだけで、十分です」
殿下は、驚いたように目を見開いて、それから、ほんの少しだけ、口元を緩めた。
「……そうか」
短く、そう応えて、殿下は今度こそ、訓練場を後にした。
一人残されたフロレンティアは、殿下が去っていった方向をしばらく見つめてから、再び剣を構え直した。
――言葉には、ならなかったけれど。
何か、大事なことを言おうとしてくれていたのは、伝わった気がする。
その感触だけを、胸にそっとしまって。
フロレンティアは、また剣を振り始めた。




