4.ガルドは攻めであって受けじゃない
「ねぇ、美味しいって噂の"タルト"食べられました?」
クラスメートの一人が、そう声をかけてくる。
……えっ、ガルドが食べられた!?
いや違う。落ち着け、私。ガルドは"攻め"であって"受け"じゃない。
ってそれも違う。今のは、タルトの話。お菓子の。食べ物の。
「あ、あー……タルト、まだ食べてない、かな……」
引きつった笑顔でどうにか返す。危ない、危なかった。
「そうなんですか? すっごく美味しいって評判で……」
会話は続いているはずなのに、頭の芯だけがずっと別の場所にある。中庭で見た光景、訓練場での呟き。ガルド様の震える手。あれは一体、なんだったのか。
『ガル×ユリ』カプ?『ユリ×ガル』はないはず…ってそうじゃない。そこが問題なんじゃない。
「そういえば、来月の合同演習、剣術科と魔導科の"ダブル担当"らしいですよ」
――ダブル? まさか、二人一緒に……!?
いや、担当が二人ってだけの話でしょ、これ。落ち着け。落ち着け私。
「へ、へぇ……ダブル、なんですね……」
我ながら、変な食いつき方をしてしまった。クラスメートが一瞬きょとんとしたが、すぐに話を続けてくれたので事なきを得る。
危ない。私の脳、完全に誤作動を起こしている。
「それより聞きました? Aランク冒険者が、傷だらけで帰ってきたって話」
――えっ、ユリウスが襲われた!?
いやいや、待って、なんでユリウス変換されるの、私。落ち着いて。今のは冒険者の話。ギルドの。この学園と関係ない、遠い街の話。
「い、Aランク……そう、なんですか……」
自分でも分かるくらい、声が上ずっている。
「いつもなら余裕で対処できるはずの魔獣に、まったく攻撃が効かなかったらしくて」
……攻撃が、効かない?
さすがにそれは、聞き流せなかった。私はやっと会話に意識を戻す。
「え、それって、どういう……」
「なんか、魔獣が急に強くなってるみたいなんですよね。討伐隊も何度か出てるらしいんですけど、いまいち手応えがないというか」
「森のあたりの様子もおかしいって、うちのお父様も言ってました。花の咲きが悪いとか、獣道が変わってるとか」
クラスメートたちは軽い調子でそんな話をして、また別の話題――今度こそ本当にタルトの話――に移っていく。
私は相槌を打ちながら、心の中だけで盛大に頭を抱えていた。
ガルド様のこと、ユリウスのこと、それだけでも十分すぎるほど混乱しているのに。
森が、おかしい?
魔獣が、強くなっている?
……まさか、ね。関係ないよね。ただの、偶然だよね。
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥で、何かがざわついて離れなかった。




