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大好きなゲームに転生したら、推しも世界も腐りかけてて困るんですが…私が元に戻します!  作者: 藤紫
第三章 世界の危機編

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19.戦力、集結

ヒメラが行なった書き換えの大部分は消し去った。

それにより、世界は本来のベクトルを取り戻しつつある。

全てが元通りになったわけではない。森の異変はゲームの中のそれとは異なってより禍々しくなっている。

それぞれの心に灯った想いも、また…。


森へ向かう小道に集うのは、本来の力を取り戻した面々。

私は、学園の裏門近くの木陰に身を潜めて、その光景を見ていた。

モブの特権だ。邪魔はしない。でも、見届けずにはいられなかった。


最初に現れたのは、フロレンティアだった。

剣を携え、表情は厳しい。でも、先日のあの消耗しきった顔ではない。肩の力が、きちんと入っている。聖魔導の光が、剣の刃に淡く宿っていた。


「待たせたね」


次に現れたのは、レオニダス・アルヴェントゥス殿下だった。

声に、ノイズはない。言葉が、クリアに届く。


「森の異変の核心は、おそらく『精霊の宿る大樹』だ。あそこが蝕まれている以上、周辺の魔獣を倒しても根本的な解決にはならない」


的確な指示。

以前のように、途中で言葉が迷子になることはなかった。


「承知しました」


フロレンティアが、短く頷く。

二人の間に、以前のようなぎこちなさはもうなかった。


そして……


後ろから、急いだ足音が近づいてきた。

ガルド・グラディウスと、ユリウス・セラフィヌス。

二人は、並んで走っていた。

距離は、近い。でも、以前のような「引き寄せられる」感じではない。意識して、半歩だけ離しているようにも見えた。


「遅れ…ました。すみません」


ユリウスが、眼鏡をクイッと上げながら息を整える。

その仕草に、ガルドの視線が、一瞬だけ絡んだ。


「……息が切れてる。ゆっくり整えろ…」


ガルドの声は、いつもの粗さがあった。

でも、ユリウスの方を見る目だけは、少しだけ柔らかかった。

殿下は、二人を見て、軽く顎を引いた。


「丁度いい。ガルド、前衛を頼む。ユリウスは、魔導で後方支援を。フロレンティアと私で、大樹への道を切り開く」


「了解」

「承知しました」


短い返事。

なのに、ガルドとユリウスの声が、妙に重なった。

二人は、顔を見合わせた。

短い沈黙。


「……お前、無理すんなよ」


ガルドが、ぼそりと言った。


「そちらこそ、です。前衛は、特に危険ですから」


ユリウスが、静かに返す。

その言葉に、感情は乗せていない。乗せないように、しているように見えた。


でも……


出発の直前、ガルドがユリウスの袖を、ほんの一瞬だけ摘まんだ。

ユリウスは、それを振り払わなかった。

ただ、小さく息を吐いて、袖を戻した。


私は、木陰で、その一部始終を見ていた。


きっかけは、消えた。

ヒメラが巻物から消したちょっとした改変は、もうない。

なのに、二人の間には、まだ何かが残っている。

消されなかった、二人自身が育んだもの。


「……行こう」


殿下の声で、四人が動き出した。

フロレンティアが先頭に立ち、殿下が並ぶ。ガルドが右前方を、ユリウスが左後方を固める。

完璧な配置。

本来あるべき、攻略対象たちとヒロインの連携。

私は、彼らが森の入り口に消えていくのを、黙って見送った。


これで、いい。

世界は、少しずつ、元に戻り始めている。

そして、戻りきらなかったものも、ちゃんと、そこにあった。


私は、木陰を離れて、来た道を戻った。

ヒメラが、学園の中で待っている。

あの子に、伝えなきゃいけないことが、まだある。


……あの子が消したのは、きっかけだけだ。

その先で二人が何を残したかは、もう、私達の手を離れている。

そして、私は、あの子が「何もない人間」にならないように、ちゃんと、ここにいる。


森の方から、低く、魔獣の遠吠えが聞こえた。

すぐに、剣戟の音と、魔導の光が、夜の帳を割った。

戦いが、始まった。


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