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大好きなゲームに転生したら、推しも世界も腐りかけてて困るんですが…私が元に戻します!  作者: 藤紫
第二章 推理編

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13/21

13.モブ×モブ

放課後、私はヒメラを探して、渡り廊下を歩いていた。

もう、確信は固まっている。あとは、本人に問いただすだけだ。

……そう思って、角を曲がった時だった。

庭の方から、話し声が聞こえてきた。


「レイスさん、……この花、名前は何ていうんですか」


ヒメラの声だ。いつもより、少しだけ、柔らかい響きがある。


「これですか? 特に名前はないですよ。名もない野花です」


答えたのは、庭師見習いの制服を着た青年だった。土のついた手で、丁寧に花壇を整えている。彼の顔には、確か見覚えがある。名前は、たしか……レイス。

名簿か何かで見たような、まぁなんでもいいや。二人の観察を続けよう。


「名前がない花なんて、寂しいですね」


「そうですかね。俺は、名前がなくても、ちゃんと咲いてるならそれでいいと思いますけど」


ヒメラが、小さく笑った。

見たことのない、柔らかい表情だった。

私は、その光景を、物陰からじっと見つめていた。


……モブ、だ。


彼は、ゲームの中では、名前すら与えられなかった背景の一部。庭の手入れをしているだけの、通行人以下の存在。


そして、そのモブに向かって、ヒメラは、あんな顔で笑っている。

頭の奥で、何かが弾けた。


……モブ×モブ。


そうだ。思い出した。

前世で、あの子は、いつも言っていた。「攻略対象同士より、名前もないような脇役同士が、静かに想い合う話が好き」だと。誰も見ていない場所で、誰にも気づかれずに育つ想いが、一番尊いのだと。


ヒメラ・ヴェラータ。


ヴェラータ――ヴェールに隠された。

ヒメラ――ひめか。


「……ひめか」


声に出した瞬間、全部が繋がった。輪の外側にいた、あの大人しい子。ノートに何かを書き続けていた、あの子。誰にも見せない物語を、そっと胸に抱えていた、あの子。


自分の名前にすら、その願いを忍ばせていたなんて。

……そこまでして、隠したかったんだ。



胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる感覚があった。怒りとも、驚きとも違う、もっと複雑な何か。

私は、物陰から、そっと視線を戻す。

ヒメラとレイスは、まだ庭で、他愛のない会話を続けていた。


「あの、レイスさんは、いつからここで働いて……」


「ん、もう三年くらいですかね。地味な仕事ですけど、性に合ってて」


「地味、なんかじゃ、ないと思います」


ヒメラの声が、少し震えていた。


「誰も見てないところで、ちゃんと綺麗な庭を作ってる。それは、地味なんかじゃ、ないです」


レイスが、驚いたように顔を上げた。


「……変わったこと言いますね、あなた」


「よく、言われます」


また、笑う。

その笑顔を見ながら、私は、拳をきつく握りしめていた。

――名前は、思い出した。

これで、もう、逃げ場はない。


「ひめか」


もう一度、今度ははっきりと、口の中で、その名前を転がした。

次に会った時は、絶対に。

私は、静かに、その場を後にした。


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