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大好きなゲームに転生したら、推しも世界も腐りかけてて困るんですが…私が元に戻します!  作者: 藤紫
第二章 推理編

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12/22

12.静かなる観察

次の日から、私はヒメラを観察し始めた。


といっても、露骨に尾行するわけではない。モブの真骨頂は「そこにいるのに、いない」ことだ。授業中は同じ教室にいるわけでもないので、休み時間と放課後だけを狙う。距離を保ち、視線を直接合わせず、あくまで「たまたま同じ場所にいる」ように振る舞う。


最初の発見は、すぐに訪れた。


ヒメラは、ほとんど人と話さない。

クラスメートと最低限の挨拶はする。必要な質問には答える。でも、自分から話題を振ることはないし、誰かの輪に加わることもない。昼休みは、だいたい一人で中庭の端か、図書室の奥の席にいる。ノートを開いていることが多い。 ペンを走らせている姿を、私は何度か見た。


……書いてる。


やっぱり、書いてる。


心臓が小さく跳ねるのを、意識して抑え込む。まだ証拠にはならない。日記かもしれないし、授業の復習かもしれない。でも、あの抱き方。胸にノートを抱えるとき、まるで宝物を守るみたいに腕に力が入っている。



二日目。

放課後、ヒメラはいつものように図書室へ向かった。私は少し遅れて後を追う。直接隣に座るのは危険だ。数席離れた場所に陣取り、再び魔導辞典を開く。

ヒメラは奥の席に座り、ノートを広げた。


ペンを持つ手が、止まっている。

時々、窓の外を見る。表情は変わらない。ただ、目だけが、少し遠くを見ている気がした。


……何を書いているんだろう。



三日目。

思い切って、距離を詰めてみた。

昼休み、ヒメラが中庭のベンチに座っているのを見つけて、私はわざとらしく近くを通りかかった。手には、わざと「解釈違い」と大きく書いたメモを持っている。落として、彼女の足元に転がす。


「あ、すみません」


拾いながら、さりげなく顔を上げる。ヒメラはメモを一瞥した。


一瞬だけ、視線が止まった。


「……どうぞ」


静かにメモを差し出してくる。声は小さく、感情が乗っていない。でも、指先が、またわずかに強張っていた。


「ありがとうございます。これ、本に挟まってたみたいで……『解釈違い』って、変な言葉ですよね」


私は、わざとらしく笑ってみせた。

ヒメラは、少しだけ目を細めた。


「……そう、ですね」


それだけ言って、彼女はベンチから立ち上がった。逃げるように、ではない。ただ、静かに、その場を離れる。背中が、いつもより少しだけ速い気がした。


……反応した。

また、反応した。


四日目。


決定的なものを、探しに行った。


ヒメラが授業中の間に、彼女の荷物を直接漁るのは流石にやりすぎだ。モブとして生きる私のポリシーにも反する。だから、間接的に行く。


彼女がよく座る図書室の席の周辺を、徹底的に調べた。引き出しの奥、棚の隙間、椅子の下。何もない。当然だ。彼女は慎重だ。


でも、一つだけ、引っかかった。

窓際の棚の、一番下の段。誰も手に取らなそうな、古びた歴史書の後ろに、小さく折りたたまれた紙片が挟まっていた。


広げてみる。


そこには、走り書きがあった。

『ガルドがユリウスの腕を掴む。距離が近い。吐息が——』


続きは、擦れて読めない。

でも、充分。

私は、紙片を慎重に元の位置に戻した。指が、少し震えていた。


……これだ。


これは、ただの感想文じゃない。

シーンの、草稿だ。


誰かが、物語を「書いている」。

しかも、ガルドとユリウスの、あの関係を。

机の下で、拳を握りしめる。


ヒメラ。


いや——

名前が、また喉の奥まで出かかった。

それでも、まだ届かない。


いい。


今は、名前なんてどうでもいい。

私は、ゆっくりと息を吐いた。


次は、直接、聞く番だ。


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