第六話
「やっと退院か」
「そうだねぇ。この後すぐ鑑定しに行くかい?」
「そうだな。さっさと行こう」
呪いの指輪とかだったら怖いしな。
「ちょうど近くにあるし」
俺たちが向かったのは日本で最も有名な鑑定士が営んでいる店だ。
店の前に着くと
「コタロー、今日は諦めるかい?」
扉には完全紹介制の看板が掛かっていた。
「紹介制?前にテレビで見た時は人が自由に出入りしてたぞ」
スマホで調べた所によると、俺がテレビで見た時は一般にまで有名になっておらず上位層だけ知る隠れ家的な店だったらしい。
しかしテレビなどのメディアに取り上げられた事で一気に知名度が広がり、客が押し寄せたそうだ。
店主が常連の客が来れなくなるのは困るという事で、紹介制にしたらしい。
クソッ。諦めるしかないのか
「どうする?」
「いや、諦めない。何も鑑定屋はここだけじゃないからな」
とりあえず俺は近場の鑑定屋を調べまくった。
すると一件ヒットがあった。
この場所から徒歩で十五分ほどの場所だ。
名前は…聞いた事ないな。
しかも地図だと完全に裏路地だし。
レビューには
「店の中が薄暗い」「店主が怪しい」「不気味」
などなど。
今の所悪評しか見つからない。
若干不安だが、このレビューのほとんどは主観だからな。
鑑定士の腕や質、料金に関しての悪評はない。
鑑定してもらう前に店を出た可能性が高いが。
行ってみるか
ナビに従い歩いて向かうと、ナビはどんどん路地の方へと進んでいく。
そして店の前に辿り着いた。
「ここかい?随分とまぁ、怪しい店を選んだね」
アルトが軽口を言う。
「なんだ?嫌味か?仕方ないだろ。近くの店がここだけだったんだから」
しかし、アルトの言う通り店は入る前から怪しい雰囲気が醸し出ている。
レビューが酷評だらけなのも頷ける店構えだ。
「…入るか」
———カランカラン
扉の鐘が静かな店内へと響き
「いらっしゃい」
店主らしき男の声が聞こえてくる。
「おおう。本当に不気味だな」
「失礼だよコタロー」
店の中には棚が並んでおり、棚には様々な形をしたガラクタらしきものが置かれている。
「ここは遺物も売ってるんだね。それとも展示品かな?」
「遺物?」
「君がなんて思ったかは想像つくけど、ここにあるのは全部遺物だよ」
このガラクタにしか見えのない物が全部遺物なのか。
確かに魔力を感じる。
「まぁいい。本題は指輪だ」
奥に進むと四十代ぐらいの男が肘をつき新聞を読んでいた。
…確かに怪しい。
でも、このおっさんどっかで見たことがある様な、ない様な
「あのー、すいません。鑑定をお願いしたいんですけど」
「お?なんだ本当に客か。こりゃまた物好きな」
店主が悪態を吐きながら返事をした。
悪評つけるぞおっさん。さっき挨拶してただろ
「品は?」
「これです」
差し出された指輪をおっさんはまじまじと見つめ
右目に片眼鏡の様な小さな魔法陣が浮かび上がる。
【鑑定】の異能を発動した証拠だ。
しばらく後、鑑定を終えたのかおっさんが口を開く。
「コイツの名前は『災運の指輪』。効果は…簡単に言えば災い転じて福となすって感じだな」
なんだその曖昧な説明は。
俺が首を傾げるとおっさんは呆れた様に説明を始めた。
「この指輪をつけた奴は不幸に襲われる。だが、乗り越えた先に幸運が待ってるってことだ」
「なるほどな。理解した」
鑑定しといて良かったな。最後に幸運が来るとは言え、付けてたらどんな事になってたか。
「コイツは売るか?五十万で買い取るぞ」
「五十⁉︎高くね?」
「元々遺物なんてそんなもんだ。この指輪単体の価値はまぁ三十って所だろうが、この手の遺物は買い手がつきやすい」
呪いの指輪みたいなやつがか…
「物好きは何処にでもいるもんだ」
アルトに何か意見はないかと横を向くと、
目の前のおっさんがいた。
いや、こう言うとおかしいが。
アルトが鑑定屋のおっさんの姿へ変わっており、右目には同じく魔法陣が浮かび上がっている。
泥棒みたいで嫌だとか言ってたくせになんなんだ?
話しかけたいが話しかけられない。
おっさんの前でいきなり話したら異常者にしか見えないからな。
「コタローこの指輪は売らずに持っておこう」
売らずに?
幸運が来るって言ってもどれくらいなのかわからないこの指輪をか?
正直、未来の幸運より目の前の五十万の方が欲しいが。
確かに俺は宝くじを当てて金持ちだが、心根は庶民だ。
大金を見逃せるほど心は豊かじゃないぞ
「理由は後で言うよ」
仕方ない。
「指輪は売らずに自分で使います」
「そうか。じゃあ気を付けることだ。それと鑑定代一万な」
「一万?高くないですか」
「こっちだってリスクを負ってる。こんなもんだ。中には見ただけで影響を受ける遺物だってあるんだからな」
ただ見てるだけじゃなかったのか。
「分かりましたよ。はい一万」
俺達は代金を払い店を後にした。
その後は特に用もなかったので、自宅へと帰った。
自室に入ると早速、指輪の件をアルトに尋ねる。
「で、この指輪を売らなかったのはなんでなんだ?」
「あの店主が言った言葉が本当かどうか確かめるために、僕は店主を模倣したわけだけど。僕も指輪を鑑定した時に見つけたんだ」
「何をだ?」
「【鑑定】を発動させると遺物の名称や効果の説明文が現れるんだ。鑑定士はそれを読み取ってお客に伝えてるってわけだね。模倣した【鑑定】では全部を読み取ることはできなかったけど、気になる一文を見つけてね。神運が訪れる。って言う一文を」
「しんうん?神の運ってことか?」
「そう。訪れるのは単なる幸運じゃない。神運なのさ。だから手放すのはおしいと思ってね」
最後が神運って、もしかして訪れる不幸もとんでもないんじゃないだろうな。
「あのおっさんが嘘をついてたって事か?」
「嘘、とは違う気がするね。彼からは君から騙し取ろうと言う感じは見受けられなかったし。君が売らないと言った時もあっさり引き下がったろう?もしかしたら言葉のあやということもあるしね」
まぁ、確かに怪しいおっさんだったけど。代金も帰り道で調べた限りでは妥当な値段だった。
「それともう一つ。効果回数が二分の一となっていてね。もしかしたらあのゴブリンもどき、いやゴブリンキングはこの指輪で進化したのかもね」
この指輪で進化した、か。
確か探索者協会の職員の話では俺たちが入るまでゴブリンキングどころかホブゴブリンすらいなかったそうだ。
何故かと言えば俺たちの様な新人が来るとわかれば事前に危険な魔物は倒して回るかららしい。
もしかしたら仲間のゴブリン達が倒されたことがゴブリンもどきにとっての不幸で、指輪による効果だったのかもしれない。
「僕の説明を聞いて納得したかい?そして君はこの指輪をつけるかい?」
「俺は…」
この指輪がおそらくゴブリンもどきを強くした。
だが、それに伴う不幸も想像できる。
それでも
「俺はこの指輪をつけよう」
「そんなに意気込む事でもないと思うけどね」
俺は笑うアルトから指輪を受け取り嵌める。
「…付けても何も起きないな」
「まぁ、付けたばっかりだしね。気にしても仕方ないし、次の探索の話でもしようか」
次の探索か。
「とりあえず、コタローは体を鍛えた方がいいね。【身体能力向上】の異能の獲得を目指そうか」
「まぁ、そうだな。俺が持ってるのは【銃術】と固有異能だけだから、後衛をやるにしてもアルトについてけなきゃ、意味ないしな」
「あ、その事だけれどね。今後はコタローが前衛、僕が後衛で行こう」
「俺が前衛?」
コイツはこの間のことを忘れたんじゃないだろうな。
「ああそうさ。僕は能力的に万能型だから、どのポジションだってできるけど、コタローは前衛の方がいい。
前衛なら今からでも十分目指せる。もちろん才能がある人には敵わないけど。それに単純に君にはサポート、補助役なんてのは似合わないからね」
珍しく褒められた気がするぞ。
「協調性ないしね、君」
「おい!」
「じゃあ【身体能力向上】異能獲得の目標は一週間でいこう。今なら探索者になったばかりだし、成長の方向性を定めやすいからね。多分、一日十時間ぐらい筋トレとかすれば一週間以内に取れると思うよ」
一日十時間の筋トレって何だよ。
それはもう、拷問だろ。
「一日にそんなに長くやってられるかよ、つい最近までニートだぞ」
「そんなに言うほど誇らしいことではないけどね。…まぁ大丈夫だよ。筋トレっていっても腹筋やスクワットをしろって言うわけじゃない。単純に一日境界を探索するだけでも今の君には十分だよ」
確かに、探索中は周りに気を張らないといけないし、魔物との戦闘もあるからな。
それに目的は筋肉をつけることじゃない。
あくまで、身体を鍛えて体力をつけ、異能を獲得するためだからな。
「わかったかい?」
「ああ。わかったよ」
「それじゃあ、明日は君の装備を整えに行こうか。
今のままだと、異能獲得より前に死んじゃうからね」
さらっと怖いことを言いやがるな、コイツ




