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モブ系探索者、異常の深部へ辿り着く 〜空想の友人と歩む英雄譚〜  作者: POG


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第四話

 いざ戦うって思うとやっぱり緊張するな。

 それにしても、冷静になってから見ても、このゴブリンもどき怖すぎだろ。

 国見さんの警報も鳴ってたし、本来ならここらに居ない魔物なんだろ?

 そんな奴と一体どうやって戦うって言うんだ——


 あ、


「て言うか、俺武器ないんだが?アルトが持ってる銃を俺が元々持ってたからな」


「ん?あぁそうだね。忘れていたよ。じゃ、これはコタローに返すよ」


 そう言ってアルトは俺に銃を投げ渡してきた。


「おう。…て、お前はどうやって戦うんだよ」


「僕は大丈夫。気づかないかい?ほら、あっちの方」


 アルトはゴブリンもどきの方に指をさした。

 いや正確にはゴブリンもどきではない。そのさらに後方だ。


 そこには一本の斧が落ちていた。


「ありゃあ…斧か?なんでこんなとこにって、あぁそうか」


「そうさ。あの落ちてる斧は君と一緒に逃げていた参加者が落として行ったものだ。僕はあの斧を使う」


「取れるか?」


 斧は今いる場所から見える距離にある。

 遠いと言うほどではないが決して近くもない。


 更にゴブリンもどきと対峙している状況を鑑みると少し無理がある。


 だが


「大丈夫さ。戦いながら斧の位置まであのゴブリンを誘導していく」


「おいおい。だいぶ無茶じゃないか?こちとら素人だぞ」


「コタローなら出来るさ」


 これまたいい笑顔で答えた。道を歩けば十人中十人が振り向くであろう顔だ。

 少しムカつくが


「信頼厚すぎだろ」


「当然さ。ではコタロー援護は任せるよ。前衛は僕が勤めよう」


「あぁ。任せろ」


 って、前衛?

 コイツ武器も持ってないのに何をするんだ?


 そんな事を考えているうちに再びゴブリンもどきが攻撃を開始した。

 今度は剣による攻撃だ。


 だが、ゴブリンもどきの剣の扱いは俺から見ても明らかに素人だ。

 一応狙いは付けているが力任せで技術などまるでない一撃だ。


「来たね。僕もコタローの期待に応えるとしようか。【幼な子の守り手(ドッペル)】」


 その言葉を発した瞬間、アルトの姿が変わり始めた。


 長身の身体はそのままに髪は黒く短くなり顔や服装を含め全てが変わっていった。


 数秒後、そこにはアルトの姿はなく、代わりに俺の知っている人物が立っていた。


 長身の黒髪、主人公感溢れるミステリアスなイケメン。


 神代器がアルトの代わりに立っていた。


 神代はそのまま、向かってくるゴブリンもどきの剣の横腹を殴り弾き、そのままゴブリンもどきに向け拳を振るう。

 神代の一撃によりまたもやゴブリンもどきはよろめいた。

 よく見ると神代の両手は黒い何かで覆われている。


「はぁ⁉︎」


 なんで神代がいる?と言うかアルトは何処に行った。


「おい、神代。お前なんでここにアルト…金髪の男は何処に行った?」


 俺は動揺しながらも神代に確認をとった。

 アルトは何をした?


「酷いなぁ。少し考えれば分かるはずだろう?変わる姿を見ていたんだから」


 神代の顔で、声で、アルトと全く同じ口調で話している。


「お前が、アルトなんだな?」


「そうだよ。正真正銘アルトだよ。それにしても、このセリフ二度目じゃないかな?」


「はぁぁ。それで、なんで神代に変わったんだ?て言うかお前のそれ、明らかに異能だよな?なんで俺の異能で生まれた奴が、また違う異能を使ってるんだよ」


「質問が多いよ。まぁそうだね。この彼を選んだ理由は彼の固有異能がこの状況で使えるから。それと後者だけど…異能に理屈を求めたって意味はないよ」


 説明になってない気がするが。

 確かにコイツの言うとおり異能を完全に理解することなんて無理だ。


「まぁいい。とりあえず異能の効果を教えろ」


「言い方がキツイよ。僕の固有異能【幼な子の守り手(ドッペル)】は見た相手を模倣する。それこそ顔、声、身体、異能に至るまでね。まぁ模倣した異能の性能は10分の1まで落ちるけどね。こんな風、に!」


 アルトはゴブリンもどきと戦闘しながら俺の質問に答えていた。

 緊張感がまるでないな。話しながらとはずいぶん器用な奴だ。

 それとアルトの拳にはよく見ると黒いガントレットの様なもので覆われている。おそらく神代の異能だ。


 それにコイツの異能、何気に固有異能じゃねえか。

 それにしても模倣って強いな。いくら性能が落ちるとはいえ使い道は山ほどある。

 物語でもコピー系は定番の能力だ。


「こんな風って言われたって元々の性能を知らないんだから評価のしようがないだろ」


 アルトはゴブリンもどきの剣をあしらい見事に攻撃をかわし、拳による一撃を喰らわせていた。

 しかし、威力が低いのか、ゴブリンもどきはそのまま突っ込んでいた。


 て言うか、あのゴブリンもどきおかしくないか?

 相変わらず剣の扱いは素人だが、明らかにそれ以前の問題だ。

 目の前にいるアルトと戦っているはずなのにゴブリンもどきの剣は前方に大きく振り回されている。まるで子供だ。

 しかも何故か目線は目の前で攻撃を仕掛けているアルトを無視して

 俺だけに集中している。

 正直睨まれると怖いんだが。


「元々は——」


「いや、それより別の質問だ。何でかこのゴブリンもどきはずっと俺を見てくるんだが、理由は分かるか?」


 まさか本能的に俺が異能でアルトを出してるとわかっているのか?


「それはそうだろうね。だってこのゴブリンもどきには僕の姿は見えていないんだから」


「はぁ?どう言う事だ」


「僕は君の異能だよ?しかも元となったのは空想の友達、イマジナリーフレンドだ。

 だから僕は君以外の人間、魔物から姿も、声も認識されないのさ。

 だから側から見たら君は一人で話してる異常者さ」


「はぁ⁉︎おい、ふざけんな」

 確かに俺以外に見えないのは利点だが、最後のは余計だろうが。


「まぁ相手から見えないと言っても攻撃を喰らったらちゃんとダメージを負うから、別に無敵じゃないけどね」


「そんな大事なことはもっと早く言え!」


「ハハッ。ごめんね」

 相変わらずアルトは緊張感を持たず戦っていた。

 あの戦闘センスも異能か?


 いや今はいい。


「それで、話を戻すが元はどんな異能なんだ?」


「元々この異能は全身鎧と武器を創造する異能なのさ。僕が使うとガントレットぐらいしか作れないけどね」


 ガントレットのみでも十分に見える。

 アルトが使用しているからだろうか


「それで神代の異能を全部模倣できたのか?て言うかお前神代と接点ないだろ」


「接点ならある。君が彼を見たそれで十分さ。僕の大元は君なのだから。それと僕が模倣できたの異能は一つ。彼の固有異能だけさ。何しろ君が一回見ただけで話もしないし無駄に妬むだけだったからね。それだけじゃ一つ模倣するのがせいぜいだよ」


 俺が見ても、発動できんのかよ。

 それとさっきから余計な一言が多い。


 …さっきから俺何もしてないな。援護って言われたけど、アルト一人で十分じゃないか?

 俺いる意味ないだろ。

 わざわざ斧を拾いにいく必要もないだろ


「アルトがそのまま倒せるんじゃないか?」


「それは無理さ。確かにゴブリンもどきの動きを抑えてはいるけど僕には決定打が足りない。見てごらんよ」


 アルトは地面を蹴りゴブリンもどきから離れた。

 見るとゴブリンもどきの身体はアルトにより付けられた傷は多くできていたが、そのどれもが浅くゴブリンもどきの厚い筋肉を抜けてはいなかった。

 しかしそれでも着実にダメージは蓄積されていた。


「分かってくれたかい?」


「そうだな…わかったよ」


「じゃあコタロー。ゴブリンもどきの相手は任せたよ」


「は?」


 …今なんて、言った?


「おい、アル——って、速!」

 アルトは既に斧の元へ向かっていた。


「三十秒で戻るから〜」


「おい、ふざけんな!ってうわっ!」


 アルトが一時離れたからかゴブリンもどきは自由を得て真っ直ぐ俺に向かっていた。


「おいおい。速すぎるだろ」


 銃を構えた。

 …落ち着け、銃を、持ってゴブリンもどきを撃つことだけに集中しろ。


 すると不思議なことに段々と心が落ちいてきた。

 これも【銃術】の異能の効果だろうか。


 今は有難いが、少し怖いな。


 だが、今はコイツに頼る他ない。

 俺には他の異能も武器も持ってないからな。


 ゴブリンもどきは今も着実に俺に近づいている。

 まだまだだ。


 ほんの数秒の時間が数分に思えるほどの集中の中、ゴブリンもどきの急所を捉えた。


 今!


 ——バァン!


 一発の銃弾が放たれる。ゴブリンもどきの急所を正確に捉え

 急所———眼球へと命中する。


 この銃は初心者向けで威力も大したことはないが、どんな生物でも鍛えることのできない部位。

 眼球を潰す程度は可能だった。


「—っしゃ!命中だ!」


 俺は初めて狙った箇所に当てられた事に驚いた。

 そして、油断した。


 次の瞬間には顔を怒りに染めたゴブリンもどきが眼前に迫っていた。


「あ、死んだ——」

 俺の目にはゴブリンもどきが一杯に映った。

 そして端から迫るもう一つの影も


「ハッ。終わりだクソ野郎」

 俺は全力でゴブリンもどきを嘲笑った。


 俺の言葉に応える様に一言。アルトが告げる。

「ああ。終わりにしよう」

 アルトはゴブリンもどきの背後から斧を上げ


 脳天に全力で振り下ろした。


 ゴブリンもどきは派手に血を撒き散らしその場に倒れた。

 目からは光が失われ、絶命していた。


「ハ、ハハッアハハッ」

 俺は笑った。

 人生で一番と言うほどに、他の魔物が笑い声に誘われ寄って来ることも構わずに。


 アルトはいつの間にか神代の姿から元に戻っていた。


「全く。君ってやつは。…銃を借りるよ」

 アルトは呆れながら俺の手から銃をとった。

 アルトはやってくる魔物を淡々と処理している。

 銃で撃ち、斧で薙ぎ倒しながら。


「はぁ…俺、生きてるんだな。本当に」


「ああ。これも、もう何度言ったか分からないけれど紛れもない現実さ」


「アル——」

 俺はアルトへ声を掛けようとしたが、掛けられなかった。


「あ?なん、だ。急に眠気、が」


「…アドレナリンが切れたんだろう。君は今日何度も死にかけたからね。あのゴブリンもどきを倒した事で緊張が解けたんだ」


「ま、だ」

 こんな所で寝ていたら魔物に襲われる。そんな考えがよぎった。

 さっきまで高笑いをして魔物を呼び寄せていた男の発言とは思えないが。


「君は何も気にせず、眠るといい。僕も君を守るし。それに…どうやらお迎えも来た様だしね」


 アルトの視線の先にはこちらに走り寄ってくる国見の姿が見えていた。



 ——————


「おーい!大丈夫か!」

 国見は少し遠くから上級探索者としての優れた目で小太郎を発見した。


「おい!おい!」

 国見はすぐさま駆け寄り、小太郎を起こそうとした。

 しかし、小太郎は起きない。

 人生で最もと言っていい程、壮絶な経験をした小太郎は疲労からだけでなく心労も加わり気絶したように眠っている。


 国見は小太郎の状態を見て焦ったが、すぐさま落ち着きを取り戻し冷静に観察した。


 そして小太郎の命に別状がない事に気がついた。


「はぁ…焦らせやがって。よく生き残ってくれた」


 そして、小太郎の安否を確認した事で国見はやっと視線が別の場所に移った。


 倒れ伏すゴブリンキングの死体だ。


「—っ!コイツは、ゴブリンキングじゃないか。あの警報はコイツだったのか」

 国見は納得が行った様に頷いた。


「…まさか。お前が倒したのか?」

 国見が小太郎の顔を覗き込む。

 常識的に考えれば今日異能を獲得したばかりの者が倒せる相手ではない。

 例え命を投げ打つ覚悟をしてもだ。

 誰か他の探索者が助けに入った。そう考えるのが自然だ。


 しかし国見は、小太郎が倒したと、そう思わずにはいられなかった。


「いや、今はいい。とりあえず探索者協会に戻ろう」


 国見は小太郎を持ち上げおんぶした。

 上級探索者にとって小太郎の様な鍛えていない男を抱える事など苦ではない。


 こうして日下小太郎の長い一日が終わり、探索者としての人生が幕を開けた。

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