第25話 全てを乗り越えた二人
【side希美】
そしてそれから更に月日は経ち、私達は結婚式を行なった。
この頃になると私達の中では肉体の条件によるトラウマは二人にとってすっかり過去の事になっていた。
もちろん、罪を犯した意識を忘れたわけじゃない。
囚われることがなくなったという意味で。
私達は裁判を乗り切り、遺恨のあった元友人と正式に友人関係を解消することにした。
私も同じ罪人ではあるし、彼女も気持ちも分かってしまう。
自分が同じ立場だったら……、彼女と違う選択を取れただろうか。
当時の私に、それができただろうか。
それを考えると、彼女を憎むことは出来なかった。
でも、昭久君の気持ちを考えれば、彼女は決して許すことができない人の一人だろう。
だからこそ、彼女とはもう会うべきではない。
救いたいと思うのは私のエゴだし、昭久君の心情を無視することになってしまう。
そばにいることは、結局傷のなめ合いにしかならないし、辛い過去を乗り越えるために、袂を分かつことも必要だと思い、慰謝料を請求してケジメを付けた。
全ての感情を断ち切って、彼女とは完全に縁を切った。
彼は今日も仕事を頑張っている。
玄関先でキスをして、彼を送り出した。
自信を付け、心に巣食った悪魔を完全に追い出した私達。
精神的にも肉体的にも逞しくなった昭久君に、私はもうメロメロにされてしまうことになる。
大好きな昭久君が私のために出来る事を全部やろうとしてくれるのが嬉しい。
だからこそ、私も彼の為にできることはなんでもしたい。
当然、簡単な問題じゃなかったからギクシャクしてしまった時期もあった。
そんな時は話し合って、常に関係を修繕してきた。
以前よりも、私達の心の距離は近くなった気がする。
私は自分しか見えていなかった。
彼の優しさがなかったら、きっと今日という日がこなかった。
肉体の条件はもはや問題ではなくなった。
仮に更に体の大きな人が現れてセックスしたとしても、私がその人になびくことはないし、彼が劣等感にさいなまれる事は、もう二度と無いだろう。
時間の経過と共に分かってきたのは、私はあの男の大きさに狂ったのではなく、むしろ精神をグチャグチャにすり潰すような陵辱に心を折られてしまったのであって、陰茎の大きさ長さは単なる条件に過ぎなかった事を理解した。
だから昭久君がそこに気がつき、条件すら超えて過去のトラウマを全部克服したのをきっかけに、大きいか小さいかにこだわることそのものに意味が無い事に気がついたのだ。
そして何より、私が自分の事ばかり考えて、弱さを超えられなかった事こそ、最大の原因だったのだ。
自分の快楽や幸せなんて二の次にして、相手に幸せになってもらう為に最大限努力をする。
それこそがもっとも幸福な道だと気がついた。
利他こそが最大の自利だったことに、昭久君が気付かせてくれたんだ。
二人の中には、既に悪魔の影は存在しない。
誰にもおびえる必要が無いくらい、二人で強くなることができた。
結婚した後も、私は仕事を辞めていない。二人でマイホームを購入するため、そして将来生まれてくる私たちの子供達のために、お金は稼ぎ続けると話し合った。
え? じゃあどうして昭久君を送り出しているのか?
一緒に仕事にいくんじゃないのか?
それは……。
◇◇◇
あれから彼の本格的な昇進が決まり、自信を付けた昭久君の大躍進が始まった。
仕事はもの凄く大変で、苦労の絶えない日々が続いている。
だから私は、彼の食事を準備して帰りを待っている。
彼の心の支えになりたかった。
私はもう救ってもらえた。
今度は私が昭久君を助けるお手伝いをしなくっちゃ……。
彼が私にそう言ってくれたのと同じように、昭久君を世界で一番幸せにするのは、私であり続けると誓ったのだから。
◇◇◇
【side昭久】
夫婦となった俺達。裁判を戦った月日も中々に大変だったが、希美はもの凄く精神的に成長したと思う。
他人に流される心の弱さを克服しようと、何が最善かを常に考えるようになった。
傷付きたくないから問題を先送りにしていた昔の自分を恥じ、失敗を恐れずに挑戦する姿は魅力的に映る。
当然うまくいくことばかりじゃなかった。
判断ミスもするし、周りに迷惑をかけることだってある。
だけど以前と明らかに違うのは、どうやったら同じ失敗を繰り返さないか、反省と改善をすることに躊躇しなくなったことだ。
そんな希美に感化されて、俺も自分を成長させなければと思わされたほどだ。
これまでの数年間、俺達は以前よりもお互いを尊重し、そして刺激し合える仲に成長できたと思う。
それは、苦しみの原因となったセックスにおいても同じだった。
結局俺は、手術で陰茎を大きくするという手段を執らなかった。
なぜならありのままの俺で希美を上書きしなければ、俺は一生「肉体の条件」という呪縛から逃れることができなくなってしまうからだ。
だから俺たちは、二人で歩み寄り、大きな陰茎などなくてもレイプ野郎を圧倒的に凌駕する性的満足を与え合えるようになった。
こうなったのにも理由がある。希美がそうであったように、俺自身もトラウマのフラッシュバックが酷くて彼女に激しい八つ当たりをしてしまった。
一時は中折れしてEDになってしまったほどだった。
これ以上俺のエゴで八つ当たりして希美を苦しめるのは、彼氏の資格なんてないと、諦めそうになった時もある。
意地を張ってないでさっさと手術してしまった方が楽になるだろうし、そうした方がいいと思う側面もある。
結局どちらも心の問題でしかないのだから。
だけど、肉体の条件で奪われた俺が、それを補うために手術という手段を使うのは、やはり乗り越えられた気がしない。
俺自身も、自分で思っていた以上に心の弱い人間だった。
だけど、そんな俺を支えてくれたのが希美自身だった。
あれから希美は、ますます自分自身を磨く事に努力していった。
心も体も、本当に綺麗になっていった。
あれから俺は、自分自身に巣くったレイプ魔の影を克服するために、手術を受けたくなる心を律して自分の力だけで腕を磨いた。
体を鍛え、精力を強くし、全身全霊の愛でもって希美を愛し抜く。
いつしか俺の中には自信が満ちあふれ、劣等感を克服することができた。
俺のために沢山努力してくれた希美の頑張りに応えるために、やはり俺は自分の力だけでレイプ野郎の影を克服する必要があると感じたのだ。
心からの奉仕、心からの言葉、心からの愛。
己の全てを明け渡して営む愛の密事に、希美はかつてないほどの幸せを味わっているのだ。
彼女が支えてくれなければ、俺は過去に囚われたままだったかもしれない。
だからこそ、あそこで希美と別れる選択をしなかったことが正解だったと言える。
いや、自分の選択を正解にすることができたんだ。
過去に怯えた俺達はもういない。
俺は希美のために。
希美は俺のために。
お互いの未熟さはまだまだある。だけど互いに成長し合えることを喜べるようになった俺達に、もはや敵はいなかった。
そしてその時はやってきた。
俺達の間に待望の赤ちゃんが生まれた。
「希美、頑張ったね。ありがとう。ママになってくれて、ありがとう」
「アッ君。ありがとう。私も、ありがとう。 パパになってくれて、ありがとう……」
「あ~、う~、わきゃうっ♪ うわうぅ~♪」
「ねえ見てアッ君。笑い方がアッ君そっくり」
「目元なんか希美そのものじゃないか」
無邪気な笑顔で俺達の手を握る小さな天使は、間違いなく二人の未来に希望をもたらしてくれる確信に満ち満ちているのだった。
次回、ラストエピソード このあと19:00に更新します。




