第24話 昭久君は本当に強い人だった【side希美】
私は佐久間昭久君という彼氏に不満を持ったことは、それまでの人生で一度としてなかった。
荒事も得意じゃない。あの日のように声を荒げて怒鳴り散らした事など、それまで一回もみたことがなかった。
優しくて、思いやりがあって、一生懸命で、私のことを一番に考えてくれる。
私にとっては世界一かっこいい彼氏。本当に私なんかには勿体無い人だった。
裏切ってもなお、悔しさと憎しみを飲み込んで私を愛してくれた、とってもとっても強い人。
彼をもっとも傷つけてしまったのは、一番分かってなきゃいけなかったその魅力に、近すぎて分からなくなってしまったことだと思う。
こんなに優しくて強い人がそばにいてくれたのに、私は表向きの幸せを失うことを恐れ、問題を先送りにし、あげくに裏切ってしまった。
そんな彼は努力し続けた。
それまでの自分を払拭するかのように、努力し続けた。
だけどどうしようもない事が一つだけあった。
物理的に届かない子宮の奥の領域。
私が自ら近づけば互いに届く事は出来るけど、やはり彼の中ではそれでも解決していないんだ。
私が変えられてしまったから。
幻とはいえ、肉体の条件を昭久君より優先させた理由にしてしまったから。
だけど、やっぱり昭久君はとっても強い人だった。
「大きくする手術だけど、やっぱりやめとくよ」
「どうして?」
「俺の中で本当の意味で希美を取り戻すためには、自分の力だけでやらないと意味が無い。体は鍛えれば強くできるし、訓練すれば精力も上がる」
体を鍛えるのは、弱い心を払拭するため。
自信を付けたいからだと。
目的はあの男より強くなることじゃない。過去の自分を乗り越えること。
弱さを乗り越えることだと。
じゃあもっと体の大きな、屈強な男が現れたら? 陰茎の大きな男だったら?
問題の本質はそこじゃない。例えそんな男が現れたって、絶対に揺らがない強い心を作るための訓練だと、彼は力強くそう言った。
「だけど手術で大きくするのは努力じゃない。それで希美を上書きしたって、俺はずっと野郎の影におびえなきゃいけない気がするからさ」
それはきっと、彼自身の問題だったからこその選択なのだろう。
もしも私が、サイズの差に狂ったことを克服できずに物足りなさを感じてしまったら、彼は迷うことなく陰茎を大きくする選択をしたに違いない。
人のためなら躊躇いなく決断ができる。
それが昭久君の強さだった。
だけど、私はもう満たされている。サイズの差なんて何の障害にもならないことを、彼自身が証明してくれた。
だから今の彼の悩みは、そのことを自分の中で飲み込むことのできない、自らの弱さに打ち勝つことにこそあるのだと思う。
「うん。やっぱりアッ君は強い人だよ。私は、そういうアッ君だから大好き♡ 私はずっと大満足だけど、アッ君の中に居るあいつを追い出すためだもんね」
「ああ。情けないけど、まだ俺の中じゃ取り戻せてる気がしないんだ。だから、ちゃんと自分の劣等感と向き合えるようになるまで、もう少し頑張ってみる。いま手術を受けたら、逃げ出すのと同じだ」
そう言って笑う昭久君の笑顔は、決意の炎に包まれている気がした。
そして、彼はやり遂げた。
それから更に数ヶ月が経って、彼のセックスはますます強く、巧みに、そして愛に溢れたものになっていった。
彼の表情にかつてのような焦燥感は微塵も残っていない。
私の体の隅々まで知り尽くし、人差し指一本、陰茎のひと突き、腰の円運動だけでも簡単にイカせる事ができてしまうほど、彼の手練手管は巧みなものになっていた。
昭久君は、名実ともにあの男を超えていると思う。
それはどのように証明できるのだろうか?
多分だけど、物理的な大きさによって快感をこじ開けたあの男より、物理的に届かない肉体をものともせずに、私を屈服させてそれ以上の快感を与えられる昭久君こそ、本当の意味で優れているのだと思う。
動きの一つ一つに私に対する深い理解と厚い信頼。
そして溢れんばかりの愛が込められているのが分かり、それはいまだに進化し続けている。
どんどん知識と実力を身につけていく彼の調教は、私を昭久君の姿を思い浮かべるだけで濡れそぼる完璧なメスへと進化させてくれた。
女の構造を熟知していたレイプ魔の幻影に打ち勝つために、色々な事を試し、学び、そして習得していった。
前戯にたっぷりと時間を掛け、ジワジワと慣らし、私が自らの意志で彼を懇願するまで決して挿入しない。
"佐久間希美"という女の全てを知り尽くした事で、もう私は昭久君でしか感じないほどにされていった。
他の男で試さなくても分かる。私の体は、完全完璧に夫である昭久君専用に改造してもらえた。
現に他の男を思い浮かべても、そばに寄っても、会社で昭久君より大きな体躯を持った男性に口説かれても、記憶に残ったあの男との行為を思い出してすら、私の心も体もミリ単位で揺らがなくなった。
まるで興味が湧かないのだ。この世界で最高の存在を知っているから。
何よりも、彼の自信に満ち満ちた表情こそが、私のメスを疼かせて心を委ねる要因となっている。
本当に本当に、彼は頼もしくなった。
優しさと、逞しさと、限りない愛。
それら全部を使った最高のセックスが出来るようになった彼には、既にあの男の幻影は微塵も残っていなかった。
それはセックスに限った話じゃない。
この人について行けば、絶対に大丈夫という頼もしさを感じさせてくれる。
私の全てを委ねて愛し合っていける。
どんな相手が現れたとしても、二人の仲を切り裂こうとしても、困難に心が揺れたとしても、それを二人で乗り越えていこうと誓い合う事ができた事が、何よりも私を安心させてくれた。
もしも将来、今回と同じような目に遭ったとしても、私も絶対に揺らがないと決心を強めた。
私も、もっともっと努力しなくちゃ。
苦しみを乗り越えて愛してくれた彼に応える為に、できることは全部やりたい。




