第23話 揺るがぬ決意【side希美】
昭久君のお父様に、事の経緯を正直に伝え、私達は憂いなく前に進むことができるようになった。
もちろんまだ許されたわけじゃない。
許していただけるチャンスをもらったに過ぎないから、もう大丈夫なんて思い上がってはいけない。
次に私の両親に報告した。
同じように、全てをありのままに伝えると、昭久君と全く同じ反応が返ってきた。
私は両親に、起こった事をありのまま全て伝えた。
お父さんは怒りながら、お母さんはとても心配そうに、言ってくれた。
『どうして直ぐに相談してくれなかったんだ』
『どうして希美を守らせてくれなかったんだ』と。
昭久君が発した言葉と、全く同じ事を言われて、私は涙が溢れて止まらなくなり、あの日と同じようにひたすら謝るしかなかった。
全てを聞き終わった後、両親は裁判で戦う事になる私を支えると言ってくれた。
もちろん、私が裏切って相手に情を移したことはしっかりと叱られた。
だけど、そんな状況になったら誰もが冷静ではいられないだろうと、一定数同情もしてくれた。
そして、全てを許してやり直すことを選択してくれた昭久君に、2人は涙ながらに感謝しっぱなしだった。
更に帰り際にお母さんが私にだけ言った言葉が、気を引き締めさせた。
『希美、確かに被害者から始まった過ちだったけど、自分が加害者になったことは、一生忘れちゃ駄目だからね』
私がレイプされたことは、涙を流して同情してくれた。
犯人に対する怒りも凄まじいものだった。
だけど、そことは切り離して、心の弱さから判断を放棄して流されて、相手に情を移したことだけは、決してしてはいけない判断だったのだと釘を刺したのだ。
『あなたの心の弱さは、親だからよく分かる。それは育てた私とお父さんの責任だし、同じ女性として自分がそうなったらと思うと、あなたと同じ決断ができた自信はないわ。だからそれを受け止めてくれた昭久君のことを、一生大事にしなさい。困ったことは必ず相談しなさい。あんなに頼りになる旦那さまがいるんだからね』
罪の清算をしながら、家族の為に寄り添いなさいと。
自己保全に走らず、相手の為に身を粉にして支えなさいと。
そして最後に、私を抱きしめてこう言ってくれた。
『でもね希美。それでもあなたを傷つけた犯人が一番悪いのよ。だから、必要以上に自分を責めないでね。あなたが自分を責めた分だけ、私もお父さんも、昭久君だって苦しくなる。誰よりも傷ついたのは希美自身なんだから』
お母さんのその言葉に、私の心は救われ、一層気を引き締めた。
私は彼の家族と、自分の家族の全面的な支援のもと、裁判で戦っていくことができた。
◇◇◇
私達の日常は、事件の後も比較的順調に過ぎていった。
過ちを犯してしまった自分が、昭久君の信用を取り戻すための努力を常に考えるのは当然のことだけど、それが彼の負担になってもいけない。
裁判も続いている。周りの人達の協力を仰ぎながら、少しずつ前進しているように思う。
もしかしたら、この行動は無意味かもしれない。
友人の彼女が言ったように、犯罪者に意識を裂く時間をそうそうに終わらせてしまうのが正解なのかもしれない。
生活の全てを昭久君のために注ぐことこそ、私に課せられた贖罪として正しい行動であるという人もいるだろう。
それは確かに正しいと思うし、実際そうするべきと考えた時期もあった。
裁判にかまけているヒマがあるなら、裏切った恋人の為に時間を使えと叱られる可能性もあった。
過去を清算するといいながら、単なる自己満足の独りよがりに酔っているだけとも言える。
だからこそ、昭久君の負担にならないように、私自身が強くならなくてはならない。
私の行動が仮に不正解であるならば、それを知っている人が傍から見れば、さぞ滑稽に映るだろう。
道化だ。ピエロだ。自己満足だ。独りよがりだ、と。
だけど、裁判所であの男と目の前で対峙した時、やっぱり自分から最前線に立ってよかったと思った。
目の前にいるのは見る影もないほど痩せ細ってやつれきったあの男。
屈強な体も、強面で鋭い眼光も、まるで消え失せてしまっている。
だけど、目の前にすると、感情が動きそうになる。
以前は勇気に満ちあふれて何の感慨も湧かなくなっていた。
それが時間が経過して、実際に目の前で対峙することで、その気持ちを再認識できた。
はっきりと、堂々と、この男によって人生を壊された人達も一緒に前を向けるように。
私は戦った。勇気を持って、戦い抜いた。
◇◇◇
私はあの男を乗り越えたことを再認識した。同時に、一刻も早くこんなことは終わらせて、前を向くのになんの憂いもない状態を作り上げようと、決意を新たにすることができた。
だけどどうしても解決しないこともあった。
その中でももっとも大きな問題が、昭久君の男性機能が急に不全に陥った時のことだ。
それまで出来ていた事が急に出来なくなり、私はいよいよ役目を終えて別れるべき時が来たのかもと覚悟を決める。
だけど、それで落ち込んでいたのでは今までの私と変わらない。
私はあらゆる手を尽くして奉仕をした。その理由が分かっていたから。
あの日から、彼は自分の苦しんでいる姿を決して私に見せようとはしなかった。
私は知っている。いまだに蔓延っているあの男の幻影が彼を苦しめていることを。
私が一時的にとはいえ、別の男を選んでしまった事で生じた劣等感と嫌悪感に苦しみ、私が眠った後に嘔吐を繰り返していたことを。
本当はこんな汚らわしい体なんて抱きたくないだろうに、それを打ち消すくらい、強く強く私を愛してくれる気持ちで抱きしめる。
『愛してる』
その言葉が心からの本心であるとわかり、同時に自らに掛けた誓いでもあることが分かる。
だから私は彼に提案した。
その激しい感情をぶつけるような行為そのもので私を罰してほしいと。
八つ当たりでもいい。憂さ晴らしでもいい。
昭久君の気持ちが少しでも晴れるなら。
もしも私が相手なのが原因であるなら、お別れを……と言いかけて、やめた。
それは彼の決意を踏みにじることになる。
あの日、私がいいんだと言ってくれた昭久君の想いを、私のエゴで侮辱するなんて許されない。
だからこそ、昭久君の心に溜まっている激情を、この体にぶつけることを提案した。
結果として、これが私達の新しい、それもあの男が与えてきた以上の快楽を生み出す性癖となった。
彼は望まなかったが、私はその激情を諫めるためなら身体に穴を開けられたって構わないとすら思った。
彼の所有物である証を刻んでほしいとすら。
結局、綺麗な身体のままでいてほしいという願いを受け入れ、その代わり幾度も歯形を刻んでもらった。
私は彼から大いに学んだこと。それは自分のことより、他人の幸せを常に考えてくれる昭久君の心意気を、もっと自分に昇華させたい。
彼がしたいと思う事は、どんなことにでも応えたかった。
そして、私は知っている。
あの日を境に、昭久君が死に物狂いで体を鍛えていることを。
昭久君の体は、多分平均的な成人男性より少しほっそりしている。
学生時代から運動もそこまで得意じゃなかった。
そのことに不満を持ったことは一度もなかったけど、体の大きくて屈強な男に犯された私を、彼の中で本当の意味で取り戻すには、相手の男より劣った場所があってはいけない。
身長はもうどうしようもないとしても、後から変えられるところは全部変えて、その男を超えてみせると。
どんなことがあっても私を守れるように、と。自分の劣等感と闘いながら、何度も自分を奮い立たせて男性機能を取り戻したのだ。
力強くそう言ってくれた昭久君は、とっても格好良かった。
努力して努力して努力して……。
努力して努力して努力して努力して努力して……。
途方もなく鍛え続けて逞しくなった彼の肉体に、私は見るだけでメスの本能が疼くようになる。
腹筋が割れ、胸板が厚くなり、二の腕はみるみるうちに逞しくなっていった。
でもそれは、単なる条件に過ぎないことを、私は理解している。
他の誰でもない。あの男でもない。
昭久君だから嬉しい。"逞しい男"ではなく、"逞しくなった昭久君"だからこそ、私の女は限りなく疼く。
体の条件ではなく、大好きな人が努力し続ける姿にときめきを覚えずにはいられなかった。
※後書き※
次回、18:00です。
いよいよ残り3回!




