ジグルの奇妙な日常3
ジャミルさんの店に着いた時はすでに日が落ちていた。
「ジャミルさん、これから迷宮に行ってくるね。」
「こんばんは、ジグルンちゃん、気を付けてね。あれ、そちらのかわいい子はジグルンちゃんのガールフレンドかしら?」
「はじめまして、デイサと申します。残念ながら、私は彼女ではございません。強いて関係性をいうのであれば、圧政に敷かれる同じ民衆というところでしょうか」
いったい何を言ってるの?意味がわからないんだけど。
ジャミルさんもピンと来ていないようだ。
「まあ、それは今後はどうなるか分からないってことね。きっとうまくいくわ」
この人も何を言っているんだろう。
「それじゃ、もう行くよ」
僕は逃げるように迷宮に向かった。
この町の迷宮は幽火神グラウフォスという神だ。魔力の色は暗い青で強さは1744位。今の僕の力ではそれほど苦戦するとは思えない。やはり三桁と四桁ではまるで難易度が変わってくるようだ。
「デイサ、ここは迷宮の中だ。何があるかわからない。十分に気を付けて行こう」
隣にいるデイサに話しかける。
「自分の足で歩く迷宮は楽しいです。神を近くに感じられます。早く神を討ちたいです」
上機嫌なのは分かるが、物騒なことも口に出していた。
「‥‥‥今日は、最深部まで行かないからね」
その声はデイサに聞こえていないようだった。
この迷宮には幽霊型の魔物が多く出た。ゴーストだとかスケルトンだとか。
幽霊型の魔物には光属性が効くという、前の世界の定説に違わず、この世界でも同じだった。僕は幸運にも全属性の魔法が使え、その中でも光属性と風属性が得意だった。
光風結界という光属性と風属性の融合魔法を広範囲で展開し、魔物を寄せ付けず、近づいてきたら光属性の魔法を纏わせた片手剣で切っていった。
三時間ほどで目的の第五層に到着した。第五層は川辺のエリアで幽鬼が主な魔物になる。幽鬼は霊魂を食べると言われ、ハンターから恐れられている魔物だ。
「暇ですし、お腹もすいてきたので魔物を倒してきます」
唐突にその言葉を言い残し、幽鬼の元へ駆けだした。デイサは幽鬼に気づかれないうちに見えない魔力で包み込み圧殺した。そして飴玉くらいの大きさになった幽鬼をそのまま食べた。
幽鬼が霊魂を食べる、デイサが幽鬼を食べる。うん、きれいな食物連鎖だ。
デイサはここら辺にいる幽鬼を殲滅するつもりなのかもの凄いペースで狩っていた。狩った数が百を超えたあたりで体長十メートルを超えるであろう、大きい幽鬼が現れた。
「我は魄鬼。お前か、我が生み出した子を殺して回っているのは」
言葉を話せるのか、上位魔獣だな。
この世界の分類では、内包する魔石の大きさによって魔物と魔獣が区別される。さらに魔獣は下位、中位、上位に分けられ、上位魔獣になると知性を持ち、人の言葉を理解し話すことができるようになる。魄鬼のような存在は上位魔獣の中でも特に危険な部類だった。
「私はデイサと申します。神を討伐する剣です。あなたの子があまりおいしくなかったので、口直しにあなたを殺させていただきます」
「‥‥‥面白い。全く魔力を感じさせぬ雑魚がそのようなことを宣うとは。一撃で殺してやろう」
魄鬼は大きな斧を振りかぶり、デイサに叩きつけた。
同じ瞬間、デイサもまた見えない魔力を振りかぶり、圧倒的な殺意を纏わせて、魄鬼に振り下ろした。
今までは全く見えなかったデイサの魔力が微かに白みがかった大剣に見えた。大剣というにはあまりにも大きすぎたが。
音を立てず、デイサの不可視の大剣が魄鬼の斧を紙のように切り裂いた。金属の軋む音が響き、次の瞬間には魄鬼の巨体が真っ二つに両断される。血しぶきが宙に舞い、重い肉体が地面に崩れ落ちた。
「この程度でしたか」
デイサは血飛沫を浴びながらも、まるで花を摘んだかのような穏やかな表情で振り返る。
「ジグル様、やはり神を討伐しに参りましょう」
「君が異常なだけだよ。ソロで魄鬼を倒せるハンターなんて世界中探しても百人もいないだろうね」
「それはハンターが弱すぎるだけです。ハマー様もシド様も、もしかしたらジグル様も先ほどの鬼など簡単に倒せます。それなら私も倒せて然るべきです」
「化物の中に一応僕も入れてくれるのね。気を使ってくれてありがとう」
目の端に小さくオレンジ色に光る何かが見えた。そちらの方を向くと、魄鬼の死体に集まってきていた。
「魂燈蛍だ。なるほど、魄鬼の死体が出現条件だとしたら、普通のハンターに見つけることができないわけだ」
風魔法で魔力のカゴを作り、念のため十匹ほど捕まえた。
「それでは、ジグル様、神を討伐しにいきましょう」
「だから行かないって」
ため息をつき、急かすようにデイサを連れて迷宮を出た。




