ジグルの奇妙な日常2
女性はつぶらな瞳で僕を見つめていた。服は髪とおそろいの黒地に赤い刺繍が入ったレースのドレスを着ていて、どこかの令嬢をと言われていてもおかしくないほど品があった。
「あれ?君はどこから入ってきたの?」
もしかしたらとは思っているが、念のために聞いてみる。
「私はデイサイドと申します。デイサとお呼びください」
「ふ、普通に話せるんだね‥‥‥よろしくデイサ。僕はジグル。この亜空間の住人だよ」
「存じ上げております、ジグル様。あなた様のどす黒い気を吸い取らせていただいたことも」
「やっぱり君はあの剣のデイサイドってことで間違いないのかな?」
全く似ても似つかないせいで現実を受け入れることができない。
「間違いございません。剣の時の私は夢心地ではっきりとは覚えていないのですが、剣の時の私はどのような感じなのでしょうか?」
「も、ものすごく役に立っているよ。そこに植えてあるユグドラシルよりもっともっと大きい世界樹を君の一撃で倒したらしいし、さっき君が言っていたけど、僕を助けてくれたのも君なんだ」
奇声を発していることは内緒にしておこう。
「そうですか、嬉しいです」
デイサは、はにかんだような笑顔を見せた。その笑顔があまりにも魅力的で僕は見とれてしまった。
「私は、神を討つために産み出された最高神の神機なのです。だから、役に立てて嬉しいんです」
「そ、そうなんだ‥‥‥ハマーもシドも強いけど、神相手ならどうなるかわからないから、デイサがいれば安心だね」
「そうであれば良いんですけど、ハマー様は長い間私を使用してくれないですし、シド様にいたっては気にもしていないようです」
デイサの表情が微かに翳る。その瞬間、彼女の美貌に危うい影が宿った。
「はっきり言って、ハマー様はいじわるだと思います。そしてシド様は‥‥‥」
言いかけて、彼女は唇を噛んだ。
「そもそも嫌いです」
急にヤンデレ味が増してきた。ヤンデレ属性は僕には無いよ。
「うーん。二人とも少し、いや、かなり利己的で変わっているけど、悪い人じゃないよ」
「ジグル様は優しいです。お二人をフォローする必要はありません。私は二人の本質がある程度見えていますので」
「それで、君はいつまでその姿でいるつもり?ハマーが君を呼び出した時に、剣じゃなくて女性が出てきたら腰を抜かしちゃうよ」
「それも面白いかもしれません」
怖い。目が笑っていない。
「どうせしばらく呼ばれないと思いますので、当分の間この姿でいるつもりです。もしよろしければ、ジグルさんの仕事をご一緒させてください」
断りたいけれど、断れない。僕は弱い‥‥‥
この一週間のほとんど、デイサとジグの大森林で魔獣を狩っていた。
予想はしていたが、デイサは僕よりも断然強かった。
魔力量がものすごく多いのは当然として、特筆すべきは魔力を感知することができないことだ。ハマーと同じ能力だと思う。
ハマーは気付いていない能力だけどね。ちなみにハマーは色をつける選択もできるみたい。
魔力が見えないというのは、戦闘においてものすごい利点だ。魔力をぶっ放すだけで大抵の敵は気付かずに死んでしまう。単純であるがゆえに対策が取れない。シンプルイズベストだ。
デイサと一緒に狩った魔獣は最終的には三桁を超えた。中位魔獣も多く簡単に倒せる魔獣だけではなかったが、特に苦戦をすることなく討伐した。
一度だけ1900番代の肩慣らし用の迷宮に入ったら、飛ぶように最深部に行き、神獣である虚星龍というブラックドラゴンをぶった切ってしまった。
ついでに封印されている神を討ち滅ぼそうとしたため、急いで止めて、きつくしかっておいた。
ちなみに神機は、龍玉という何に使うか分からない宝玉だった。
「今日は何をなさるんですか?」
そんなことを考えていると、デイサがかわいらしい顔で質問をしてきた。
「今日は、依頼があるから迷宮に行くよ。だからデイサはお留守番だね」
「私も行きます」
デイサの瞳に、有無を言わせぬ決意が宿っていた。
「うん、だから僕のお客の依頼があるから留守番しててね」
「私も行きます」
同じ言葉を、今度はより強い調子で繰り返す。
「うん、デイサがいると邪魔だから僕一人で行くね」
「私も行きます」
三度目の宣言で、僕は観念した。この表情を見れば、説得は無意味だと分かる。
「しょうがないな、連れて行ってあげるよ。絶対邪魔をしないでね」
その言葉を聞いてぱあっと花が咲いたような笑顔をした。
「ジグル様、ありがとうございます。本当に嬉しいです」
この笑顔に騙されちゃうんだよな。まあ何とかなるか。気を取り直して迷宮に行く準備をするか。




