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ジグルの奇妙な日常1

影の亜空間に来てから、もう二か月が過ぎた。

最初は何もない空虚な空間に戸惑ったものだが、今では妙に居心地がいい。ハマーの指示は相変わらず面倒だし、夜中の緊急対応もあるというのに、不思議とストレスを感じない。

同じ時期にこの亜空間に来たマスターとの関係が良好なのもその理由の一つだ。マスターは同じ妖精人族でありながら、帝国の暗部出身だそうだ。


色々な場所に潜入した経験があり、料理から家の建て方まで、僕の知らないことを丁寧に教えてくれる。はっきり言って僕の師匠だ。


今日はゴゴ王国のとある辺境の村で、溜まった魔獣の素材を売る予定だった。本来なら2級ハンターの僕だが、ハマーに捕らえられてからはジグルンという名前で8級ハンターとして活動している。


「こんにちは、今日も魔獣の素材を持ってきたよ」


「あら、ジグルンちゃんこんにちは。いつもありがとうね。今日もかっこいいわよ」


本来ならば、ギルドに卸しにいくのだが、最近はジャミルさんというおばあさん錬金術師に売っている。


町の近くに影転移のポイントを設定するためにウロチョロしていたら、偶然ジャミルさんと出会った。


ジャミルさんは昔は有名な錬金術師だったらしく、今は辺境の村で薬師をしながら、たまに錬金術で怪しげな薬の開発をしているらしい。


つい最近も万華香液という飲用者に幻の花畑を見せ、心を穏やかにさせるという脱法要素満載の薬を開発していた。


このような薬はマニアに高く売れるらしく、ジャミルさんはものすごくお金を持っていた。だからこそ魔獣の素材をギルドより圧倒的高額で購入できるようだ。


時折、ジャミルさんの瞳の奥に何か深い闇のようなものを感じることがあったが、気のせいだと思っていた。


「今回はミノタウロスの肝と角、しかも迷宮産」


運命の双子の迷宮でハマーが討伐した個体だ。


「あら、これは珍しいわね。それじゃあ金貨二十枚で買うわ」


金貨二十枚は一人暮らしの男性なら五年は暮らせる金額だ。高値で売れたことで嬉しさが顔に出てしまう。


「まいどあり~。いつも高く買ってくれるから、ジャミルさんのことが好きなんだよね」


「お金の関係でもうれしいわ、ジグルちゃん。一つ欲しい素材があるのよ。魂燈蛍っていう虫よ。この村の近くの迷宮にいるっていう話なんだけど、この村のハンターじゃ捕獲できないのよ。お金は弾むから人助けだと思って、お願い」


「わかったよ。それじゃあ一週間後に迷宮に入ってみるよ」


「ありがとう。生きたままじゃないとダメだから迷宮に入るときは教えてね。後、捕まえたらどんなに夜遅くても持ってきてちょうだい」


「結構条件があるんだね。分かったよ。じゃあまた来週」


影の亜空間に戻ると、マスターはいなかった。おそらく、ハマーの行動を先読みして情報収集をしているんだろう。


マスターと行動を一緒にしてからは事前情報、事前作業の重要さを知った。それをしておくと、びっくりするくらい物事がスムーズに進むのだ。


「ハンターギルドで調べてきた魂燈蛍の情報を整理する。なるほど、第五層に出る魔物で夜にしか出現しないと。そして魂燈蛍自体は戦闘力が無いが見つけるのが非常に困難ということね」


ひとり言が出てしまう。これは転生前からの癖だった。


それにしてもギルドって全てにおいて中途半端な情報しか出てこないんだよな。ハンター個人が得た情報には価値があるのは分かるけど、秘密にすればするほど他のハンターの生存率が下がるっていうのに。


気分転換に世界樹ユグドラシルを見る。少し前までは苗木だったユグドラシルも今や立派な大樹だ。今日は白く輝く葉の色で、夜空とのコントラストで幻想的な光景だった。


その根元に一本の剣が立てかけられていた。ハマーが使うデイサイドという真っ黒い大剣だ。まるで生きているかのように僕に植え付けられたどす黒い気を吸い取ってくれたので、悪い印象はなかった。


デイサイドを手に持ってみると大きさの割に軽かった。何の素材で出来ているか全く分からなかった。興味本位で鞘を外してみた。


「ギョギョギョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


鞘から抜いた瞬間、デイサイドが独特の叫び声を上げた。もっと気持ち悪い声かと思っていたが、近くで聞くと意外と親近感が湧く。


なんとなくデイサイドを振ってみる。うん、良い感じ。いつかシドに頼んで、同じような武器を作ってもらおうかな。と考えていると、何かに躓いた拍子にデイサイドを持っている手が緩み、すっぽ抜けて飛んで行ってしまった。


勢いよく、室伏の投げる砲丸のように。


落ちた先は、以前、僕が乗り回して皆に大迷惑をかけてしまった、神庭にいたゴーレムの残骸だった。シドが何かを作ると言って取っておいたものだ。


「ごめん、デイサイド。間違って飛ばしちゃった」


もしかしたら、意識があるかもしれないので念のため謝った。もちろん返事は無かったが。

大量の瓦礫の中を探すが、なかなか見つからない。


部位ごとに整理をしていき、最後の一山を取り除いた場所に——


一人の女性が立っていた。


黒い絹糸のような長い髪に血のような赤のメッシュが印象的な、陶器のように透き通った肌。年齢ははっきりとは分からないが、美少女と呼ぶにはあまりに妖艶で、美女と呼ぶには危うげな若さを宿していた。


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