辺境の騎士団15
外に出ると酷く混乱は‥‥‥していなかった。ここに住む人たちにとってスタンピードなど日常の延長線上のことなのだろう。ジグの大森林と共に生きてきた人々の胆力を見た気がした。
そんな中、ハンターギルドがハンターの集合をかけていると聞き、向かってみる。
ハンターギルドの周りは人がごった返していた。こんなにもハンターがいるなんて素直に驚いた。
「よくぞ集まってくれた。私はゴゴ王国、辺境の町ブロリのハンターギルドのマスター、ポロリという」
インテリメガネのできるビジネスマンみたいな奴が出てきた。強さは、よく分からん。
「どうだシド、あいつは強そうか?」
「うーん、本人は弱いね。でもカウンターに特化した神機もどきを持ってるから、強くないハンターにとっては厄介な相手かもね。それにしてもあの神機もどきは誰が作ったんだろう」
まずい、好奇心を刺激してしまった。欲しいと駄々をこね始めたら厄介だ。
「今、この町は最高レベルのスタンピードという未曾有の大災害に見舞われている。我々ハンターが力を合わせる必要がある!」
割とまともなこと言っているな。
「早速、今回のスタンピードに対するギルドの方針を表明する。ハンターギルドが守るエリアは第三区画より内側とする!」
水を打ったように静まり返った後、怒号が飛び交った。
「第四区画を見捨てるのか!」
「よそ者が我が物顔で指図すんな!」
「貴族の犬!」
「インテリクソメガネ!」
聞くに堪えない罵詈雑言ばかりだ。特に大声を出していたのは初日に一緒に酒を飲んだマオマークさんだった。
何してるんだあのおっさんは。もしかしたらもう酔っているのかもしれない。
「黙れ。ギルドの方針に逆らうのであれば止めない。しかし、今後一切ハンターギルドの仕事を受けられると思うな!第四区画は黒鋼騎士団、第三区画はハンターギルド、第二区画は白剣騎士団と既に決まっている。それを念頭に置いて行動することだ!」
その言葉を聞いたハンターは叫ぶのをやめ、各々第四区画の方へ向かい出した。この場に集まった人の半数以上になった。
「おう、お前ら。ここん所、全然見なかったがちゃんと働いていたのか?」
「お金を稼ぐことが労働だとしたら、少しも働いていないですね」
マオマークさんは目だけニヤリと笑った。
「しょうがねえなお前は。それよりさっきの話を聞いたか?あのクソメガネ、第四区画を見捨てようとしやがった」
「すごいヤジでしたね。マオマークさんのインテリクソメガネは完全に人格否定でしたけどね」
「あれはちょっとやりすぎたな」
少し照れくさそうだ。
「あのな、この町のハンターの多くはジグの大森林の浅層の出身なんだよ。男爵領に変わり、他所から来るハンターも増えたが。そして第四区画に住んでいた者も多い。辺境軽視のカスギルドマスターが!」
また頭に血が上り始めたな。瞬間湯沸かし器もびっくりだ。
「おっとこうしちゃいられん。俺も黒鋼騎士団の手伝いをしなくちゃならねえ。ああ、お前さんらは無理して来る必要は無いぞ。ジグの大森林とスタンピードは切っても切り離せない関係だ。俺らは今までもここで生きてきたし、これからも生きていくから、人任せにしたくないだけなんだ。生きてたらまた会おうぜ」
そう言い残しマオマークさんは駆け足でジグの大森林方面に向かっていった。
マオマークさんの後ろ姿を見ながら、俺はどうするべきなのか考えていた。手伝ってもいいし、人道的に手伝うべきだと思っている。しかし、どこか釈然としない。何故ここの領主が、権力者が、さらに言うなら国が、きちんとした対策を取らないのに俺が動く必要があるのか。
俺が悩んでいるのが分かっているのか、エリオスは声をかけにくそうに俺を見て立っていた。
そんな中、バーでエールをうまそうに飲んでいるハゲおやじが目に入った。
「ユイガさん!?こんな大変な時に飲んでるなんて自由人すぎますよ。というか今朝、奴隷になったばっかりじゃなかったでしたっけ」
ユイガさんは酔いが回っているのか、目がトロンとしていた。
「ああ、ハマーさん。ハマーさんも無事に出られたんですな。実はあっしのご主人が解放してくれたんですわ。あっしの教育係と言われた人が、体が雑巾のように捻じれて死ぬ奇病にかかってしまって‥‥‥感染が疑われるあっしはめでたく解放というわけですわ」
捻じれて死ぬ奇病‥‥‥世界中探しても、ユイガさんの近くでしか起きない病気のような気がする。
「ユイガさんはスタンピードの防衛に参加しないんですか?」
「あっしは遠慮しようかと思ってやす。何故ならこの町が嫌いなんですわ。自分のことしか考えていないゴミどもを見ると吐き気がするんですわ。辺境ですらこの状況なら、王都なんてそりゃ酷いもんでしょうな。もちろん、この町に住んでいる人は良い人ばかりで、住み心地が良いんですが、権力者がこれじゃあ先は長く無いかもしれないですな」
おお、酔っぱらっているせいか過去最大級の毒を吐き散らしてるぜ。
でも、俺もそうしようかな。俺自身が全てを解決することができないならば、線引きをする必要がある。何故権力者のケツを、庶民が拭く必要があるのか。
そう思い口を開こうとしたところで、ずっと黙っていたエリオスが話し始めた。
「すまない、ユイガさん、ハマー。ずっと隠していたが、俺はこの国の王子なんだ」
うん、予想していたよ。予想していた中では最も位が高かったけどな。
「そして、この町の現状を見て、今まで俺が何もしていなかったことに気づいた。自由に、のうのうと、生まれながらの義務を果たさずに生きてきた。だから、だからこそ今この町を救うために動きたいんだ。ハマー、都合のいいことを言っているのは分かっている。すでに返せないほどの借りがあることも理解している。だが‥‥‥この町を救うために力を貸して欲しい」
「お前が全てを明かしてくれたら、力を貸すと決めてたんだよ。実は」
その言葉を聞いて、エリオスは笑って袖で目を拭った。
「泣くなよエリオス。俺らは友達だろ。貸し借りなんて、こっちは全く気にしちゃいないよ」
「ありがとう、ありがとうハマー」
両手で手をつかみ何度も頭を下げてくる。
「照れくさいからそれくらいにしてくれよ。それよりこれからどうするか決めようぜ」
ユイガさんはそんな俺らを見てニコニコしながらエールをあおっている。この人はスタンピードを抑える気は毛頭ないようだ。ハゲだけに。
「スタンピードを抑えるのは俺だけで十分だ。エリオスはほかのことをやる。そうだろ?」
「さすがは友だ。俺の考えを完全に理解してくれているとは」
「そりゃあそうだろ。お前が男爵家を見張って逃がさないようにする必要がないなら、お前自身がスタンピードを防げばいいだけだからな」
俺がスタンピードを防いでエリオスが男爵家を逃がさないようにする。単純だが、これが今回の作戦だ。
「それで、いつ援軍が来るんだ?」
「あと一日から二日だ。精鋭揃いの第五王国騎士団が大規模転移で来るらしいが、調整に時間がかかっているようだ」
「もう少し早く来てくれればスタンピードも対応してくれたのにな」
「それは違いない。すまないな、仕事が遅くて」
二人で笑い合う。
「それじゃあもう行くよ。また、後でな。そうだユイガさんはどうする?」
行かないだろうなと思いつつも声をかけてみた。
「あっしは遠慮しやす。ハマーさんだけで十分やないかと思いやすし、素晴らしい男の友情劇を見られたので、それをつまみに酒を飲むつもりでっせ」
どこか憎めない笑顔であっけらかんと語る。
それなら仕方ないとジグの大森林に向かおうとしたときシドが口を開いた。
「あっ、今思い出したんだけど、このスタンピードを起こしている迷宮の神機が無限精力と滋養強壮、最強発毛の効果があるキノコだったような‥‥‥」
その言葉を聞いてユイガさんが勢いよく立ち上がった。
「さぁハマーさん、シドさん、行きましょう!!!」
ハゲのユイガが仲間になった。




