辺境の騎士団9
「乾杯!!!」
第三区画のすぐ近くのバーを貸し切って祝杯をあげる。深岩商会の面々の表情は晴れやかだ。
「それにしても恐ろしい力だったな。お前はなんでこの商会に来たんだ?」
俺の仕事ぶりを褒めてくれたベテランのおっさんが話しかけてきた。
「実は、散歩してたら連れ去られたんですよ」
「‥‥‥‥‥‥」
「おーい、ミゲル。こいつはうちの人間じゃないって言ってるけど、どうなってんだ?」
「親方が連れてきたんで、スカウトかと思っていました。本当に心当たりはないのか?」
「商業区画を散歩してたらゾンビの集団に放り込まれた感じですね。まあ、いい経験ができたんで気にしなくていいですよ」
「じゃあ正式にうちの一員にならないか?お前なら十分やっていけるぞ」
今日の仕事ぶりが評価されたようだ。
「将来的になら考えてもいいんですけど、今はこの世界を見て回りたいんですよ。まだジグの大森林で彷徨ってしかいなかったんで、全てが新鮮で楽しいから」
「そうか、それは残念だ。でも、今日は助かった。ありがとう。明日、分け前を出すから、面倒だろうが、商会に来てくれ」
「分かりました。一つ聞きたいことがあるんですけど、働く前はなんで皆さんゾンビみたいだったんですか?」
「それは、過労だな。三か月以上休みなし、一日18時間労働だったからな。心も身体も限界が来ていたんだ」
明らかに異常だ。労災なんて無いのは分かるけど異常だよ。
「なんでそんなに働くんですか?」
「この商会で働いているのは全てジグの大森林の近隣で生まれたものだ。そしてこのブロリの町に流れて来て、第四区画のスラム街で育ったものも少なくない。だから今のこの町に危機感を持っているものが多いんだ」
この町由来のモチベーションなんだろうが、理由がはっきりしないな。
ミゲルさんはそんな俺の表情を見てか、話を続ける。
「実はな、新しい領主が男爵に変わってからジグの大森林を守る黒鋼騎士団の予算が削られているんだ。おそらく三分の一以下だ。その騎士団を金銭的にフォローしているのがうちの商会というわけだ。親方がケガによる引退をした元騎士団で、その意思に賛同した従業員が集まっているんだ」
なるほどな。だからこそ働き続けることができているのかも知れないな。
「迷宮で他所の作業員の視線を見ただろ。俺らはこの町が地元だと思っているし、今後もジグの大森林と共生していきたいと思っている。しかし、今のこの町は腐ってるんだよ‥‥‥ああ、すまんなお前に愚痴るつもりは無かったんだ。とにかく、今日はありがとな」
「いや、話していただいてありがとうございました。色々と疑問に思っていたことが分かりすっきりしました」
お礼を言って再度飲み始める。何とも気持ちのいい集団だった。一日しか一緒にいないが居心地がいいと感じていた。
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宴会が終わり、宿に戻ると誰もいなかった。エリオスはどこかに行ったきり、何の連絡もない。
枕の下に手を入れると何もかいていない手紙が置いてあった。マスターからの定時連絡の合図だ。
影の世界へ転移する。今の時間は影の世界も夜だ。マスターとシドはまだ解体を続けていた。ほぼ全ての魔獣の解体は終わっていて、後一時間で終わるくらいだ。
「マスター、何か報告があると思ってこっちの世界に来たよ」
その声を聞いたマスターは手を止めてこちらを見た。
「解体しながらでいいよ。というか俺も手伝うよ」
「ありがとうございます。ではそのようにさせていただきます」
三人で並んで解体を行う。俺が手をつけたのは晶鉱タートルだ。甲羅に魔力を溜めてレーザーのように射出する大型の魔獣で、エリオスに合う前に討伐した。ゴッドイーターで首をちょん切ったため、頭がまるまる無い。
「それで新たに分かったことはあるのか?」
「どうやらここの男爵は筆頭公爵系統の伯爵の寄子で、鉱石、特に鉄鉱石を集めているのはその筆頭公爵の指示のようです」
「なんで鉱石を集めているんだ?」
「おそらく内戦です。このゴゴ王国はリルム帝国と並ぶ大国ですが、長年対外的な戦争が無かったことで貴族が大きな力を得てしまっているのです。そのため、筆頭公爵が王家転覆を企てているのではないかと予測されます」
「やはりそうなのか。どこの世界も暇になると考えることは一緒なんだな」
「はい‥‥‥そしてそれにあたって各国の諜報部隊もまぎれていますね。特に帝国は公爵の裏で糸を引いてそうな感じです」
「まあ、そこらへんはあんまり関与する気がないから、ほおっておいてもいいかな。俺に迷惑がかかりそうなら排除するだけだから」
「ハマーさんが危険にさらされることは無いと思いますが、十分お気を付けください。いたるところにスパイが紛れ込んでいますので」
「ハマーは大丈夫でしょ。マスターは心配しすぎだよ。世界樹を一撃で吹っ飛ばす男だよ。そんな馬鹿でかい力を持っている化け物を誰が殺せるのさ。逆に町全体が破壊されないことを祈るばかりだよ」
そのように話すジグルの表情は半ば呆れたように見えた。
「そんなこと言っているジグル君には特別業務として大森林内の迷宮マップを作ってもらおうかな。それが、あれば効率よく神機を集められて影の世界をもっともっと発展させることができるからな」
「この間大森林の中層で死にそうになったばかりなんだけど。僕程度の実力じゃ命が何個あっても足りないよ」
「冗談だよ。なるべく危険な仕事はさせないつもりだ。だけど、この影の世界を差別化させるためにはジグの大森林の攻略が必要だと考えている。未発見の迷宮からの神機やアーティファクトだけでなく、魔獣の素材や魔石、それを使った加工品を流通させることができれば‥‥‥」
一般的に流通していないジグの大森林で得られるものこそ、商機だ。
「でも、そのためにはもっと人を増やす必要がありますね」
「そうだな。でもいたずらに増やしても仕方ないから信用できそうな人を少しずつ増やしていこう。ジグの大森林で苦しみながらも生きている獣人を移住させてもいいし、食料となる魔物も増やしてもいい。やれることは山ほどありそうだから気長にやろう」
「そんなことよりこの世界の名前を決めようよ。『ハマー腹黒王国』なんていいんじゃない?ハハッ」
アホ虎君がかわいく言う。静かにしていると思ったらろくなことを考えていなかったようだ。
「お、いいなそれ。決定!!!」
「なに言ってるの!?ダメに決まってるじゃん!!適当過ぎるでしょ!!」
「それなら、ジグルが考えてくれよ。すぐじゃなくて良いから」
ジグルは嵌められたことに気がついてしかめっ面をした。
「‥‥‥分かったよ。考えとく」
「それじゃ、そろそろ帰ろうかな」
ほとんど手つかずの晶鉱タートルを横目に帰る準備をする。飲みすぎたせいか眠くなっていた。
「エリオスさんのことで一つ報告が‥‥‥」
マスターが声をかけてくる。
「それはいいや。大体予想ついているし。それにエリオスから直接聞きたいからね」
「それなら構いません。しかし、エリオスさんの近くにいるということは、ハマーさんの選択でこの国、この世界に大きな影響を与える可能性があるということを心に留めていただければと思います」
「そうだな‥‥‥全く影響が出ないということは無理だな。だけど、まだ三か月程しか一緒に過ごしていないけど、エリオスなら信じられるんじゃないかと思ってる。まあ何か起きても良いように影の世界を発展させておいてよ」
俺は、楽観的な笑顔で元の世界に戻っていった。
翌朝、珍しく雨だった。
外に出るのが面倒だったが、昨日ミゲルさんから言われたように商業区画にある深岩商会に向かった。いつもなら活気のある市場も幾分落ち着いていた。
しかし、商業区画に入ると状況は一変した。人があわただしく駆け回り、何か事件があったことが伺われた。
嫌な予感がし、人をかき分けながら駆け足で向かう。
ようやくたどり着いた時、深岩商会は大きく黒い煙を上げていた。




