辺境の騎士団3
ユイガさんが泊まっているという安宿を紹介してもらった。古い石造りの宿だ。部屋に入りホッと一息つく。久しぶりにベッドのある生活。たまらん。
「少ししたら元居た町に戻る予定だ。ハマーがハンター業務に慣れてきたらかな。今後継続的にパーティを組む組まないは関係なく、ハマーについて来て欲しいんだ」
宿屋に入り部屋でゆっくりしている時にエリオスがそう語りかけてくる。そんな潤んだ目で見てくるなって。照れちまうだろ。
「特に予定はないからエリオスについていくよ。シドもそれでいいだろ?」
シドは眠そうに目をこすりながら頷く。相変わらずかわいいぜ。
「それよりももっと大事なことがあるだろ‥‥‥飲みに行こう」
宿のすぐそばにあるパブに入る。仕事終わりのハンターなどで混雑していた。ちょうど四人掛けの席が空いていたのでそこに座る。ユイガさんはやることがあるため少し遅れて合流するらしい。
「「乾杯!!!」」
エリオスと木樽のジョッキで乾杯をする。キンキンに冷えたビールを飲みたいが、そんなものはないから温いエールで喉を潤す。しかしうまい。
謎肉のステーキも少し硬いが、THE肉って感じで悪くない。シドもうまそうに食べている。
明日の予定やらなんやら話していると隣の席のおっさんが話しかけてきた。おそらくハンターだ。
「よう。見ない顔だな。最近この町に来たのか?」
「ああ、ついさっき来ました。ジグの大森林で迷ってようやくここにたどり着いたんです」
「ジグの大森林から‥‥‥」
おっさんは俺が身に着けている石のハンターライセンスと、そのライセンスにそぐわないマンティコアのジャケットを見て困惑した表情を浮かべる。エリオスの方も見るがエリオスはハンターライセンスを外している。事前対策のよろしいことで。
「嘘ついてる感じはしないな。とてもそんな強そうに見えないんだが、実力はあるってことか」
今の俺は魔力量も少なく、ものすごく弱く見えているはず。それでも油断をしないのは、さすがは辺境の町のハンターだからか。
「見ての通り10級ハンターです。ちょっとの間この町にお世話になるつもり。色々教えてくださいよ。一杯おごるから」
仕事の話ばかりしていても成果は上がらない。今の日本では品質も価格も競合となかなか差別化できない。それなら何でするか、人柄だ。人柄での差別化は酒の席で見せるのが一番手っ取り早い。その魑魅魍魎がはびこる世界を俺は生きていたんだ。
ちなみにこの一杯おごる作戦はかなりコストパフォーマンスが良い。
「おっ話が分かるじゃねーか。この町出身の5級ハンターのマオマークが教えてやろう」
おっさんも喜んでくれているようだ。
俺らも自己紹介をする。
「俺はハマーです。それでこの町はどんな町なんですか?」
「このブロリはジグの大森林の恩恵と鉱晶の迷宮から発掘される鉱石で莫大な利益を生む。特に鉱晶の迷宮は鉄、銅、銀、なかなか発掘されないが金やミスリルも出る。燃料となる黒石も出る。そのため、ハンターギルド、商業ギルド、工業ギルドなどいろいろな組織の重要支店が存在している。」
なるほど、原材料が取れるのね。
「そして発掘された金属をまとめ、各町へ輸送を行うんだ。発掘、護衛などこの町のハンターにはたくさんの仕事があるんだ」
やはり迷宮の近くに町ができるというのは間違いないな。そして、この町は王国の重要な町であると。
「それほど重要な町なんだが、この町の今の領主は男爵だ。一年前に子爵様が政争で敗れ、公爵家紐づきの男爵にあてがわれたんだ。詳しいことはわからん。だが、そこから少しずつおかしくなった。まず、男爵は辺境の出身ではなくジグの大森林の本当の恐ろしさを知らん。だからこそこんなことになっちまったのかもな」
少し、いやかなり悲しそうな顔でおっさんは話し続ける。
町の治安と対魔物を一手に引き受けてた黒鋼騎士団を対魔物専用にして、町の中はどこから連れてきたのかもわからない白い騎士団に任せ始めた。そして領主と各ギルドが裏で手を組んで自分たちの利益を独占し始めたんだ。
悪いことは続いて‥‥‥半年ほど前か、強い魔獣に襲われ、それに対応した黒鋼騎士団長が魔獣と刺し違えて亡くなった。次の騎士団長として寄り親の公爵家の騎士を送ってきたんだ。その騎士は美しく若い女で、誰も団長だと認めなかった。だが、その女騎士、いや団長は強かった。武神の加護を持っていて、とにかく身体強化が凄まじく、黒鋼の棍棒を振り回し魔物を寄せ付けなかった‥‥‥」
おっさん、話に熱が入るのはいいけど酔い過ぎだよ。呂律が回らなくなってきてるよ。
「団長は公爵に嫌われて辺境に左遷させられたとの噂だ。どうしても殺したいようだ。最終的に黒鋼騎士団への給金及び予算を大幅に減らされたせいで、あの屈強な黒鋼騎士団も壊滅寸前だ」
エリオスは平静を装っているが、明らかに怒っていた。シドは平静を装うまでもなく明らかに平静だった。ステーキをうまそうに食っている。
「俺らハンターはジグの大森林に生かされているんだ。あのアホどもがクソみたいな命令出しやがって‥‥‥この町はどうなっちまうんだ‥‥‥」
「ずいぶん盛り上がってますな。」
ユイガさんが酒場の照明を頭で照り返しながら来た。
マオマークはユイガを見るなり申し訳そうな顔をして、
「お前の連れか‥‥‥いろいろとすまんな‥‥‥」
そう言ってテーブルに突っ伏して眠った。
このおっさんも苦労してるんだな。
その後、ユイガさんを交えて酒盛りをした。主な話題は各々の恋愛事情。ユイガさんは予想通りモテなさそうだし、エリオスはもしかしたら童貞かもしれないほど恋愛経験がなかった。俺は‥‥‥まぁそんなことはどうでもいいじゃん。




