運命の神の宝石たち6
「待たせたな。それじゃあ行こうか」
シドとエリオスに合流した俺は、いつも通りの調子で声をかけた。内心では複雑な思いが渦巻いていたが、表情に出さないよう努める。三人は迷宮の奥へと足を向けた。
当初は1日2日で最深部に到達できると踏んでいたが、現実はそう甘くなかった。進路上に現れる魔獣との遭遇率が異常に高く、思うように前進できずにいる。鋭い牙を剥き出しにしたウルフ型の魔獣、天井から降りかかってくるスパイダー型の魔獣──それらとの戦闘で体力と魔力を消耗し、我々は頻繁に休息を取らざるを得なかった。
結局、迷宮の最深部に到着するのに一週間かかった。
はっきり言って疲弊していた。全身の筋肉は重く、魔力の回復も思うようにいかない。何度亜空間に逃げ込んで休息を取ろうかと考えたことか。あの静寂な空間で、時間を気にすることなく眠りにつければどれほど楽になることだろう。しかし、この能力はまだ秘密にしておきたい。グッと歯を食いしばり、我慢を続けた。
迷宮の構造にも変化が現れていた。奥へ進むにつれて、壁や天井に埋め込まれた宝石の数が明らかに多くなっている。最初は数個だったものが、今では壁一面を覆い尽くさんばかりの密度だった。青、緑、紫──様々な色彩の宝石が魔石の光を反射し、まるで星空のような美しさを醸し出している。まるで何か大切なものを守るかのように、宝石たちが迷宮を装飾しているようにも見えた。
それに比例するかのように、魔獣の数も増加の一途を辿っていた。単体での遭遇ならまだしも、群れを成して襲いかかってくることも珍しくない。しかし、この程度であれば問題ない。
エリオスを横目で確認すると、彼女は火属性魔法を剣身に纏わせ、魔獣たちと互角以上に渡り合っていた。赤い炎が剣を包み込み、一振りするたびに美しい軌跡を描く。その姿は戦士というより、むしろ舞踏家のような優雅さすら感じさせた。
そんな時、シドに肩を引っ張られる。
「何かここ、違和感があるね」
シドの鋭い観察眼が何かを捉えたらしい。彼の視線を追うと、確かに壁の一部分だけ色が微妙に違う場所がある。
俺は迷うことなく、その壁を蹴り飛ばした。予想通り、もろく崩れ落ちる。まるでハリボテのように薄い石材の向こう側から、小さな空間が姿を現した。
そして、そこにあったものに、我々三人は息を呑んだ。
白骨化した小さな死体。明らかに少女のものと分かる華奢な骨格が、壁に寄りかかるような格好で鎮座していた。朽ち果てた衣服の残骸が骨にまとわりついている。そして、その首元で鈍く光る大きな赤い宝珠のネックレス。エリオスが身に着けているものとどこか似たデザインだった。
赤い宝珠のネックレスを見たエリオスは一瞬驚きの表情をした‥‥‥気がした。
「この服は‥‥‥」
思わず声が漏れる。
「そうだね。この間の女の子のだね」
シドも同じ結論に達したようだった。彼も心なしかしょんぼりしているように見える。普段の飄々とした表情とは打って変わって、深い悲しみが瞳に宿っていた。
俺の胸にも、重い感情が押し寄せてくる。
「そうか、ずっとここに閉じ込められていたんだな。寂しかっただろうに……」
この少女はどれほどの恐怖と絶望を味わったのだろうか。暗闇の中で、誰にも気づかれることなく、静かに最期の時を迎えたのだろう。
魔力で消滅させて楽にしてやろうかと考えたが、エリオスが口を開いた。
「俺の火属性魔法で燃やしてあげたい。そして‥‥‥この赤い宝珠を俺にくれないか」
「この宝石は『熾焔の神ヴァルグナ=イグニス』の加護以上を持つ者が身に着けるものだ。そして、この大きさはおそらく使徒級。少女で使徒になったのは歴史上1人だけ。火の巫女カグラだけなんだ」
エリオスの声には確信があった。彼女の知識の深さに改めて驚かされる。
「10歳くらいの年齢で突如姿を消したと聞いていたが、まさかこんなところにいたなんて‥‥‥」
この迷宮の真実が少しずつ見えてきたような気がする。おそらく長い間、エリオスと同様に多くの人々がこの迷宮に転移させられ、そして命を落としたのだろう。この少女──火の巫女カグラもその犠牲者の一人だったのだ。
エリオスは慎重に宝珠のアクセサリーを取り外し、自分のネックレスに括りつけた。そして、それを胸元で大切そうに抱きしめる。彼の瞳には涙が浮かんでいた。
「安らかに眠ってください」
静かに祈りを捧げながら、エリオスは火属性魔法を発動させた。赤い炎が少女の遺骸を優しく包み込み、徐々に浄化していく。炎は決して荒々しくなく、まるで温かい毛布のように遺骨を包んでいた。
俺は自然と頭を垂れて祈った。言葉は交わさなかったが、三人とも同じ思いで満たされていた。
ほんの一時しか一緒に過ごすことはなかったが、少女の笑顔が脳裏に浮かぶ。
深く、深く祈った。彼女の優しさがエリオスを救ったように、彼女もまた救われるように。そして、この迷宮に囚われている魂が救われるように。
炎が完全に消え去った後、そこには何も残らなかった。ただ静寂だけが、俺らを包み込んで
いた。
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