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運命の神の宝石たち7

そんな中、石畳の先で、何かが蠢いていた。


空気は重く、朽ちた石の匂いが鼻腔を突く。俺たちの足音だけが静寂を破り、その音さえも迷宮の奥深くに吸い込まれていくようだった。


「何か‥‥‥来る」


エリオスが呟いた声が、反響して返ってくる。

 

その時だった。


闇の向こうから、ゆらりと現れたのは——巨大な双頭の蛇人だった。これは魔獣というには余りにも神々しい。全長は優に五メートルを超え、筋肉質な人型の上半身から二本の長大な蛇の首が伸びている。鱗は月光のように銀色に輝き、その表面には古代の魔法陣のような紋様が浮かんでは消えている。


何よりその身から放たれる魔力が圧倒的だった。右の頭からは温かな橙色の光が、左の頭からは深遠な濃紺の光が立ち上っている。二色の光は空中で螺旋を描きながら絡み合い、迷宮の天井に幻想的な光の模様を描き出していた。


「神獣‥‥‥」


エリオスがつぶやく。魔獣ではない。これは間違いなく神獣——神々に仕える存在だ。


四つの目が俺たちを捉えた。右の頭の目には燃えるような琥珀の宝石が、左の頭の目には深海のような青い宝石が嵌め込まれている。そこには生物としての温もりが一切感じられない。まるで永遠の時を見続けてきた古い神像の目のように、冷たく、遠く、そして絶対的に感じた。


俺の心臓が激しく鼓動する。かっこいい……俺の中二病が今にも発動しそうになっていた。


沈黙が続いた。

 

やがて、神獣の口が開かれた。声は二つの頭から同時に響き、まるで聖堂の鐘のように迷宮全体に反響する。


「招かざる客でここまでたどり着いたのは初めてですよ」


右の頭が優雅に傾けられる。琥珀の目が俺たちを値踏みするように見つめた。


「ここは『運命の双神ノクティル』様が封印されし神聖なる迷宮。そして、私は黒翼の双蛇ジェド——『双神リュミエル、ノクティル』様より生み出されし神獣にございます」


左の頭が続ける。濃紺の光がより強く脈動した。


「私はここに迷い込みし魂を導く救済者でもあります。見てくださいませ、この美しき宝石の数々を」


ジェドが身をよじると、その鱗に埋め込まれた無数の宝石が光を反射した。赤、青、緑、紫——様々な色の宝石が、まるで星座のように神獣の身体を飾っている。また、洞窟内の壁にも埋め込まれていた無数の宝石も瞬いている。


「これらは全て、運命の環となりて偉大なる双神につかえる存在となった者たちの魂でございます。彼らは今、永遠の安らぎの中にあります」


やはり宝石の一つ一つが、かつて人間だった者の魂だということか。


ジェドの表情が急に冷たくなる。右の頭が威圧的に立ち上がり、橙色の神気がより激しく燃え上がった。


「しかし、ここは『運命の双神ノクティル』様が封印されし聖域。下賤なる者が安易に足を踏み入れて良い場所ではありません」


左の頭が俺たちを見下ろす。青い宝石の目に、冷酷な光が宿った。


「あなた方もまた、真なる道へと魂を導いて差し上げましょう」


空気が重くなる。神獣の放つ威圧感が、俺の肺から酸素を奪っていくようだった。


その時、ジェドの視線が俺たちの間を行き来し、何かを見定めるように細められた。


「ほう‥‥‥あなたは‥‥‥」


 右の頭が興味深そうに首をもたげる。


「一人は神の使徒‥‥‥かつて、この迷宮に足を踏み入れた極上の魂を持った少女と同じ、神の使徒でございますね。あの娘にはノクティル様も大変お喜びになっておられました。今でも私の最も美しい宝石として、この身に宿っております」


ジェドが胸元の特に大きな赤の宝石を愛おしそうに撫でる。


「そして、もう一人は‥‥‥」


左の頭が俺を見つめる。その視線は氷のように冷たく、侮蔑に満ちていた。


「犬も喰わぬような薄汚い魔力しか持たぬゴミでございますか。あなたは魔獣の餌にでもなっていただきましょう。その程度の魂では、宝石にする価値もございません」


また、このパターンね。一応シドの神性魔力を循環させておこう。


「ああ‥‥‥もう一匹おりましたね」


視線が俺たちの足元に向けられる。ベビータイガーのシドだ。美しい黄金と白縞模様の毛色だ。めちゃくちゃかわいい。


「かわいらしいタイガーですね。そして何と美しい毛並み……ほんの僅かながら神気を宿しておる。あなたは私のペットになっていただきましょう」


ジェドの口元に残酷な笑みが浮かぶ。


「もう少し成長いたしましたら、美味しくいただいて差し上げますよ。きっと絶品でございましょう」


ベビータイガーが震えながら俺の足にしがみついてくる。俺には分かる。こいつは怖がっているのではない。好奇心に打ち震えているのだ。


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