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運命の神の宝石たち4

「それで、エリオスはなんでここに転移してきたんだ?」


「俺はゴゴ王国のとある都市でハンターをしている。仲間三人と四人パーティを組んでるんだ」


エリオスの声に、仲間を思う気持ちが込められていた。


「その仲間と貴族からの依頼を受けて、『運命の神リュミエル』の迷宮に潜ったんだ。その迷宮に認められると英雄になれるほどの力を手に入れられる、ハンターにとって希望ともいえる迷宮だ。その迷宮の領地を治めている貴族からの依頼で騎士団とともに貴族の長男を最深階層まで連れていくという依頼だった。今思うと、その依頼自体が罠だった」


彼の拳が、悔しそうに握り締められる。


「途中、巧妙に仲間とはぐれさせられて、俺一人になったところで殺し屋に襲われた。そして逃げ道を限定され、誘い込まれて、俺は転移罠を踏んでしまったんだ」


エリオスの表情に、自責の念が浮かんだ。仲間を危険に晒してしまったと、うかつにも罠にかかってしまったことが彼の心を蝕んでいるのが分かる。


「昔から罠があると言われていたが、回避の仕方は明かされていなかった。おそらく貴族とハンターギルドが共謀して隠していたんだろう。転移してからは魔物・魔獣数匹と戦い、その後ミノタウロスとの戦闘で……ハマーに助けられたという流れだ」


そこまで話すと、エリオスは俺たちを見回した。


「この迷宮はどこにある迷宮なんだ? こんな宝石箱のような美しい迷宮は聞いたことがない」


確かに、この迷宮は他では見たことのない神秘的な美しさを持っている。壁面に埋め込まれた宝石が、微かな光を放ち続けている。


「ジグの大森林の中層にある迷宮のようだ。どんな神が封印されているのかはわからん」


俺は周囲の美しい石壁を見回しながら答えた。


「初めて来る迷宮で、入ったのも1時間ほど前だしな」


ハマーの何気ない言葉に、エリオスの顔色が青ざめた。迷宮の石壁に反響する彼の声は、震えを帯びていた。


「ジグの大森林の中層だと!?」


エリオスは息を呑み、拳を握り締めた。


「3級ハンターでも生きて帰れるかわからないほど、凶悪な魔獣が群れをなして住み着いている。そんな死地に転移させられるなんて‥‥‥」


彼の視線が俺を見据える。細身で、一見すると魔力の気配も薄い。だが、先ほど目撃したミノタウロス戦での圧倒的な力——あの瞬間的な殺気と、躊躇いのない剣筋。エリオスの戦士としての本能が、目の前の青年の底知れぬ強さを感じ取っていたのかもしれない。


「ハマーは見たところ魔力量も少なく、強そうには見えない。だけど、ミノタウロスを倒したあの力‥‥‥俺には計り知れない何かを感じた」


エリオスの声に真剣さが宿る。


「君にとっては、この迷宮やジグの大森林の中層なんぞ問題ないということなのか?」


至って真剣な質問だった。エリオスの瞳に宿る光は、純粋な探求心と、僅かな畏怖が混じり合っていた。


俺は苦笑いを浮かべながら、迷宮の天井を見上げた。相変わらず宝石箱のような美しい空間が広がっていた。。


「詳しいことは話さないけど、俺にはここらへんの魔獣を倒すのは難しくない。その程度の力はある」


言葉を選びながら続けた。


「ただ、一般的なハンターと比べてどうとかいう定量的な指標はない。何故なら俺は転生者で、この世界のことをほとんど知らないからな」


「転生者‥‥‥」


エリオスの目が見開かれた。


「迷宮都市のバンジョーと同じか‥‥‥話してくれてありがとう。このことは誰にも話さない。俺だけの胸に留める」


重い沈黙が二人の間に流れた。松明の炎がパチパチと音を立て、遠くから微かに水滴の落ちる音が聞こえてくる。


「別にいいさ、気にするな」


ハマーは肩を竦めた。


「それより、エリオスのネックレス、かっこいいな。お守りか何かか?」


 エリオスは胸元に下がる赤い宝珠のネックレスに触れた。迷宮内の明かりを受けて、まるで内側から炎が燃えているかのように輝いている。


「これは、うちの家系に代々伝わる宝珠なんだ」


エリオスの声に誇りが滲む。


「我が一族は『熾焔の神ヴァルグナ=イグニス』の迷宮の管理を命じられている。先祖代々、ヴァルグナ=イグニスの加護を司ってきたからだ」


彼は宝石を愛おしそうに撫でながら続けた。


「5歳になると、火山迷宮の隠された宝珠の間へ向かう。そこで宝珠を授かることができれば、使徒候補として認められる。それがこれだ」


使徒か‥‥‥かっこいいな。俺も火属性をばっこばっこ使えたらいいのに


エリオスの表情を観察した。誇らしげでありながら、どこか重い責任を背負ったような陰りも見える。今回の転移事件も、この使徒候補という立場が原因なのだろう。エリオスが話したくないなら無理強いはしない。


「俺は、この迷宮の奥に進むつもりだけど、エリオスはどうする?」


シドが暇を持て余しているからな。この迷宮の神機を手に入れることが目的だ。


俺の問いに、エリオスは迷いの表情を見せた。家族の安否への不安と、目の前の未知なる強者への興味が葛藤している。


「俺は‥‥‥ついて行ってもいいか?」


エリオスの声に決意が込められていた。


「この迷宮のことをもっと知る必要がある。今後、いつ転移の罠を使われるかわからない。その対策のためにも」


そりゃそうだ。暗殺に使われるほど凶悪な迷宮なんだからな。知識は生存に直結する。


「もちろんだ」


うなずいて了承する。


「ハマー、この迷宮にはまだまだ幽霊がいそうだけど大丈夫?」


急に寒気が襲ってきた。肩が小刻みに震えるのを感じる。


「お……おう」


返答することが精いっぱいだった。声は震え、冷や汗が出る。


エリオスは意外そうな顔をしていた。あのミノタウロスを軽々と倒した男が、幽霊を前にしてここまで怯えるとはとでも言いたげに。


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