運命の神の宝石たち3
「とりあえず、エリオスの怪我を治そう。それから、今後についてゆっくり話そうか」
エリオスの腕や頬には、戦闘で負った切り傷がいくつも残っている。放置すれば感染症の危険もある。
「傷薬は持ってるか?」
「すまない‥‥‥全て使い切ってしまった」
エリオスの表情に申し訳なさが浮かんだ。長い迷宮探索で、既に持参した回復アイテムは底をついているのだろう。
モンドから聞いていた通りならば、3級ハンターといえば相当な上級者だ。そんな彼がここまで追い詰められるとは、よほどの事情があったに違いない。
その時、シドが何の気なしに話しかけてくる。
「ハマー、キミはもう自由自在に回復の魔法を使えるよ」
うん?未だかつて使ったこともないし、使えると聞いたこともない。また急にわけわからんことを言い始めたよ、この適当神は。
「どういうこと?」
問いかけると、シドは得意げに答えた。
「だからもう使えるんだって。デイサイドが世界樹を食べたでしょ。その時に少し世界樹の魔力と魔法をくすねたんだ。そしてそれをハマーにちょちょいと植え付けたのさ」
あれ?なんでも相談するって言ったよね。なんで何も言わずにそんなことするの?
「お‥‥‥おう。もうやっちゃったことは仕方ないけど‥‥‥次からは相談しろ!絶対!!」
怒りで震える指で、こめかみをぐりぐりと押し込む。このろくでもない神には、人の体を勝手にいじることの重大さを思い知らせなければならない。さもなければ、いつか俺が俺でなくなってしまう。これは漠然とした不安ではなく、確信だった。
「ごめんって。ぐりぐりは止めてー。二度と記憶が戻らなかったらどうするんだよ。変なことにならないから‥‥‥親切心でしたつもりだったんだけど、本当にごめんよ」
「次勝手にやったら、もっとひどいことするからな‥‥‥」
かわいい容姿の裏に潜む、圧倒的なサイコパス性を俺は知っている。
「それで、回復させるためにはどうすればいいんだ?」
実用的な話に切り替える。今は怒っている場合ではない。目の前には傷ついた人がいるのだから。
「回復しろって思いながら魔力を放出するだけでいいみたい。簡単でしょ」
さっそく試してみることにした。エリオスに事情を説明し、傷口を見せてもらう。
「少し見せてもらえるか? 怪我の具合を確認したい」
エリオスが上着を脱ぐと、腹部に複数の矢傷が露わになった。傷口の周りは紫色に変色し、嫌な匂いがする。毒だ。それも相当悪質な。
もう一つ気になったのがエリオスのつけているネックレスだ。装飾品というには簡素だが、剣のアクセサリーに赤色に輝く宝珠が埋め込まれている。かっこいい。中二病がくすぐられるデザインだ。そして、微かだが神性魔力が宿っている気がする。
「思ったより深い傷だな。よくこの怪我で生きていたな」
俺は感嘆の声を漏らした。普通なら既に毒が回って動けなくなっているはずだ。
「すぐ治してやるよ。治せるかわからんけど」
エリオスは困惑の表情を浮かべたが、黙って俺に身を委ねた。命の恩人の言葉を信じるしかないのだろう。
傷口に手をかざし、心の中で強く念じる。『回復しろ』と。
次の瞬間、俺の手のひらから薄い緑色の光が溢れ出た。魔力が温かい流れとなって放たれ、エリオスの傷口を包み込んでいく。まるで時間が逆行するように、裂けた肉が閉じ、変色した皮膚が健康な色を取り戻していく。
「これは‥‥‥」
エリオスの息を呑む声が、静寂な迷宮に響いた。彼の瞳には驚愕と希望の光が宿っている。俺自身も、この神秘的な力にただただ驚くばかりだった。
傷跡一つ残らない、完璧な治癒だった。
「傷は魔法で直るけど失った血は戻らないから、早く何か食べないと元気が出ないよ」
肩の上でシドが、まるで医者のような口調で言った。
「だからここでご飯にしよう。ボクはこの間倒したステーキボアのボアチョップを所望するよ。ハマーオリジナルの料理魔法ならすぐにできるんじゃない?」
料理魔法。実際には影の世界にいるジグルに料理を作らせ、影収納で取り出すという仕組みなのだが、一度シドの前で使ってしまい、厳しい追及を受けた。苦し紛れに料理魔法と名付けてしまったのだ。ジグルの存在は、シドにはまだ知られてはならない秘密だった。
「分かった。だけど、結構時間がかかるかな。おそらく一時間くらい。それまで、今後について話そう」
俺は話題を変えながら、こっそり影の世界のジグルに調理の指示を出した。
石畳に腰を下ろし、俺たちは輪になって座った。迷宮の薄暗い光の中で、奇妙な仲間たちとの会合が始まる。
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