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運命の神の宝石たち2

1時間ほど走り続けると、少し開けた空間が現れた。そこは先ほどまでの緑一色の洞窟とは様相が異なっていた。緑色の功績に加えて、真紅に燃える赤い石、深海のような青い石が壁面にちりばめられ、その密度も格段に高い。まるで宝石箱の中にいるかのような、息をのむほど美しい光景だった。


その幻想的な空間の中央で、一人の男が魔獣と死闘を繰り広げていた。


魔獣はミノタウロス‥‥‥牛の頭を持つ巨大な魔獣だ。筋骨隆々とした体躯から繰り出される大型の戦斧は、一撃で岩をも砕く威力を持っている。力任せに振り回されるその斧は、空気を切り裂く音を響かせながら男に襲い掛かる。


一方、男は長剣を両手で構え、必死に応戦していた。しかし、どこかに負傷をしているらしく、動きに切れが無い。次第に劣勢に追い込まれていく。


その時、ミノタウロスが右手に膨大な魔力を集中させ始めた。押し出した手のひらから、鋭利な石礫が混じった竜巻が爆発的に噴出する。風属性と土属性の融合魔法だ。見たところ、一撃で仕留める威力は無いが、確実に相手を消耗させる狡猾な戦術だった。魔獣の癖に、意外と頭が回るようだ。


その一撃で男は長剣を手放してしまった。絶体絶命の状況だ。もし、俺がここにいなければ、の話だが。


巨大なミノタウロスが、血まみれのハンターを壁際に追い詰めている。その顔は死の恐怖で青ざめていた。迷宮の石壁には既に幾筋もの血痕が刻まれ、戦いの激しさを物語っている。


俺は影移動でミノタウロスの背後に現れた。瞬間、魔力を全身に巡らせる。筋繊維の一本一本に力が漲り、骨が軋むほどの強化が完了する。俺自身の魔力は皆無だが、シドの神性魔力量は他の誰にも負けない。


ミノタウロスが振り返る瞬間、俺はその太い腕を鉄の万力のように掴んだ。怪力で知られる魔物でも、魔力で強化された俺の握力には敵わない。骨がきしむ音と共に、ミノタウロスの表情に困惑が浮かぶ。


その隙を逃さず、俺は全力で腹部へ蹴りを放った。


「ごふっ!」


鈍い音と共に、巨体が柱に舞う。ミノタウロスは迷宮の壁に激突し、石くずを散らしながら地面に転がった。その間に、俺はハンターが落とした長剣を拾い上げる。


刃に魔力を纏わせる。最近発見したこの技術は物質に魔力を込めることで、その性能を飛躍的に向上させることができる。今の俺なら、木の棒で岩を砕けるだろう。


起き上がろうとするミノタウロスに向かって駆ける。魔力を帯びた剣は、まるでバターを切るように魔物の巨体を両断した。血しぶきが岩壁に鮮やかな軌跡を描き、ミノタウロスの巨体が重い音を立てて崩れ落ちる。断末魔の咆哮すらあげる間もなく、ミノタウロスは絶命する。


「よう、大丈夫か。なんか知らないけど災難だったな」


相手の警戒を解くため、できるだけ軽い調子で声をかける。社会人にとって挨拶は何よりも大事だ。


「俺の名はハマー。偶然この迷宮に入った人族だよ」


「ありがとう‥‥‥」


男は震えた声で応えた。死の淵から救われた安堵で、膝から崩れそうになっている。


「俺の名前はエリオスだ。3級ハンターをしている。本当に、ハマーが来てくれなければ死んでいた。この恩は必ず返す」


エリオスの瞳には、生への感謝が込められていた。ハンターとしてのプライドと、命を救われた者の素直な気持ちが複雑に入り混じっている。


「礼はこの幽霊少女に言ってくれ」


「幽霊少女?」


エリオスの困惑した表情を見て、俺も振り返る。しかし、さっきまでそこにいたはずの少女の姿はどこにもなかった。美しい石の壁と、薄暗い通路があるだけ。


「恥ずかしがり屋なのかも。もういなくなっちゃった。ハハッ」


シドが肩をすくめ、小さくささやいた。その愛らしい仕草に、思わず笑みが漏れる。


「虎の赤ちゃんが‥‥‥話している!?」


エリオスの驚愕の声が迷宮に響いた。ミノタウロスとの死闘よりも、むしろこちらの方が衝撃的らしい。話すことができるのは上位の魔獣もしくは神獣だからだ。


「こいつはシド。迷宮の中のクレーンキャッチャーで釣り上げた。かわいいだろ」


 面倒な説明を避けるため、俺はいつもの適当な理由を口にした。めんどくさい時は全てクレーンキャッチャーって言っとけば問題無し。たぶん。


「クレーンキャッチャー?」


エリオスは眉をひそめたが、やがて小さく微笑んだ。


「うん、確かにかわいいな。シドは神獣なのかい?」


「それは分からん。シド、お前は神獣なのか?」


「ボクは神獣じゃないよ。ただのかわいいベビータイガーだよ」


だから自分で言うなっての。エリオスは首を捻りながらも、これ以上追及するのはやめたようだ。命の恩人に対して、あまり根掘り葉掘り聞くのも失礼だと判断したのだろう。


迷宮の冷たい空気の中で、俺たちは奇妙な邂逅を果たした。血の匂いが残る石畳に立ちながら、俺は今後のことを考える。


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