神庭のゴーレム10
濃紺の闇の中、戦いの余韻がまだ空気に漂っていた。砂埃が舞い上がり、土はめくれている。町から離れていたのがまだ救いか。そんな荒廃した風景の中で、四人の影がたたずんでいた。
クラティオスは清々しい表情を浮かべていた。彼の隣では、巨大な神獣ベヒモスのベリオンが、少し離れた場所で、ハマーが剣を鞘に収めながら、シドの方を振り返った。
「ハマー、そしてシドありがとう。お主らがいなかったらこれほど綺麗にまとめることができなかったであろう。」
べリオンの声には心からの感謝が込められていた。戦いが終わった今、彼の顔には安堵が見て取れる。
そうだろうね。お前は国ごと蹂躙しようとしてたもんな。
ハマーは心の中でそう呟きながら、苦笑いを浮かべた。
「いいよいいよ。クラティオスの母親に依頼されたからだし、報酬も前払いでもらってるしな」
シドが軽やかに手を振りながら答える。彼の表情は相変わらず穏やかで、まるで命がけの戦いなど何でもなかったかのようだった。
「それで、このあとどうするんだ?」
風が吹き抜け、クラティオスの髪を揺らした。彼は空を見上げ、決意に満ちた眼差しでハマーを見つめた。
「私たちは一度神庭に戻ることにしました。そして旅に出ます。今回、ハマーさんとシドさんの戦いを見てもっと色々経験しないとダメだって思いましたし、何より色んなところに行って、色んな人と話したいんです。だからベリオンと話して、2人で旅に出ようって」
カバやんと一緒か。やるなカバやん
ハマーは内心で呟いた。夕陽がベリオンの巨体を逆光で浮かび上がらせ、その威厳ある姿がより一層際立っている。
カバの癖にいっちょ前に恋をするつもりか?主が叶えられなかった恋を自分が叶える。何とも青春じゃないか。このリアル鼻たれ小僧が!お兄さんは嬉しいよ。
そこでハマーの思考は現実的な問題に行き着いた。
でも‥‥‥カバやんって力を開放しなくても20mはあるんだけど大丈夫なのか?あくまで体長の話しな。
「なんか変なことを考えておらんか?」
ベリオンの低い声が響いた。まるでハマーの心を読んだかのような的確さだった。
「我はやろうと思えば人型になれるぞ。獣人族じゃなく人族に。ほら‥‥‥だからクラティオスの旅に同行するのは問題ない」
突然、ベリオンの巨体が灰色の光に包まれ始めた。眩い光が収束すると、そこには身長2メートルほどの色黒で筋骨隆々とした青年が立っていた。髪色は灰色でカバやんの魔力の色と一緒だ。野性的な魅力に満ちた顔立ちは、まさにワイルドなイケメンそのものだった。
イケメンは死ね。
ハマーは心の中で毒づいたが、表面上は平静を装った。
「そ、そうか。それは良かった。二人とも楽しくやれよ。俺らも旅を続けるつもりだからまたどっかで会うかもな。俺らはとりあえず今日はここに泊まって。明日どうするか考えるよ」
「クラティオス、カバやん、二人にこれをあげるよ。二人の旅への餞別」
シドが懐から取り出したのは、美しく鍛え上げられたショートソードと、不思議な光を帯びたこん棒だった。両方の武器が神秘的に輝いている。
「クラティオスにはゴーレムの神機装甲より作ったショートソード。キミの父の技術と叔母の神性魔力が込められている非常に良い素材だったからな。キミの神力と相性が良いからきっと役に立つよ」
ショートソードの刀身には、複雑な魔法陣が刻まれており、クラティオスが触れた瞬間、淡い光を放った。
「あぁ、それとキミは普段から魔力を抑えた方が良い。ボクくらい感じられなくすると一流ってところかな」
お前は最初駄々漏れだったじゃねーか。霊峰中の神獣・魔獣が逃げ出したのを忘れたのかよ。ハマーは皮肉な笑みを浮かべながら心中で突っ込んだ。
「シドさん、ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」
クラティオスは深々と頭を下げ、剣を大切そうに両手で受け取った。
「次はカバやん、キミには世界樹から作ったこん棒をあげる。世界樹からキミに使ってほしいと要望があったんだよ。キミと戦ったのがよっぽど楽しかったらしい。色によって性能が変わるから試してみて。一度戦ったキミならよくわかるでしょ。」
こん棒の木目が複雑な模様を描き、時折色を変えながら脈動している。ベリオンが手に取ると、武器は彼の魔力に反応して温かな光を放った。
「ベリオンな。まあいい。ありがたく頂戴する。今一度、礼をさせてもらう。この度は助かった。また会おう」
人間の姿になったベリオンが礼儀正しく頭を下げた。その瞬間、クラティオスが彼の腕を取り、神力で空中に浮上した。
「また必ずお会いしましょう!」
クラティオスの声が風に乗って響き、二人の姿は夕空の彼方へと消えていった。残されたハマーとシドは、しばらくその方向を見つめていた。
「疲れたなシド、それじゃ戻るか。宿をとった後、俺は酒場に飲みに行くけどどうする?」
ハマーは肩の力を抜きながら、街の中心部を指差した。暖かな光が窓から漏れる宿屋の看板が見える。
「うーんボクは良いかな。今回の神機装甲で何か作れそうだから作業するよ。」
シドの目が職人特有の集中した輝きを見せた。彼の頭の中では既に新しい作品のアイデアが渦巻いているようだった。
二人は宿へ向かって歩き出した。石畳に響く足音が、長い一日の終わりを告げている。
今日は浴びる程飲むぜ!!!
ハマーの心は既に酒場の賑わいと、冷えたエールの味を想像していた。戦いの余韻を洗い流すには、やはり酒が一番だ。




