神庭のゴーレム9
影の隙間を縫って瞬間移動した俺の視界に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。
巨大な世界樹が天を突くようにそびえ立ち、その幹から無数の蔓が蛇のようにうねり、大地を叩きつけている。轟音と共に土煙が舞い上がり、空気は振動で歪んで見えた。その圧倒的な存在感の前で、カバやんが必死に立ち向かっている。
カバやんの巨体が宙を舞い、世界樹の蔓と激突する度に、まるで雷鳴のような音が響き渡った。彼の角は金属の光沢を放ち、突進する姿は一頭の戦車のようだ。しかし、世界樹もさるもので、新しい蔓を次々と生やしては攻撃を繰り返している。
さすが東の『天冠』と呼ばれるだけのことはある。この拮抗した戦いを見れば、カバやんの実力は本物だと分かる。
「「カバやんけっぱれー!!!」」
「「カバやんうっちゃれー!!!」」
俺とシドは声を嗄らして応援した。戦いにおいて仲間の声援ほど心強いものはない。これでカバやんの士気も上がるはずだ。
ところが、カバやんから低い唸り声のような音が響いた。
「黙れ、目障りだ」
その声は大地を震わせ、俺たちの骨の髄まで響いてくる。
はい、目じゃなくて耳です。最低限の教養を持っていただきたいものですね
俺は思わずツッコミを入れた。巨大な化け物相手でも、間違いは間違いだ。でもさすがに茶化すのはやめた。
戦いを見守りながら、俺は状況を分析していた。カバやんの攻撃は確実に世界樹にダメージを与えているが、決定打に欠ける。そしてすでに消耗戦になってしまっている。
「カバやんも頑張ってるんだけど、最終的な決め手がなさそうだよな。シドならどうする?」
隣にいるシドに問いかけると、彼は当然のように答えた。
「ボクならデイサイドの必殺技『ゴッドイーター』を使うけど。」
「うん‥‥‥なにそれ?」
俺の疑問にシドは困ったような顔を見せた。
「あれ、言ってなかった?ずっと寝てたから忘れっぽくてさ。記憶も曖昧だし、何が夢で何が現実かごっちゃになる時があるんだよ。」
この男、確実に何かを隠している。だが嘘をついているのか、本当に記憶が曖昧なのか判断がつかない。まぁ、命に関わることでなければ、ある程度の情報操作は許そう。
それより今は、この状況をなんとかしなければならない。
俺は決意を固めた。いつも以上に魔力を全身に循環させる。あのバカでかい世界樹を消滅させられるほどに、大きく、大きく、限界まで力を高める。
体内を流れる神力が熱を帯び、まるで溶岩のように血管を駆け巡る。俺の周囲の空気が歪み、地面の小石がパラパラと浮き上がった。
「カバやん!次に体当たりしたら、遠くに逃げろ!下手すりゃ巻き添えを食うぞ!」
カバやんは俺の声を聞くと、世界樹から大きく距離を取った。
「ベリオンだ。我だけでは時間がかかりすぎると思っていたところだ。助かった、頼んだぞ」
その声には安堵と信頼が込められていた。
俺はデイサイドの柄を握りしめる。刀身から黄金の、しかし、禍々しい魔力が立ち上り、周囲の空間を歪ませていく。
「いくぞデイサイド!世界樹を喰らえと、轟き叫ぶ!!!『ゴッド・イーーーーーーーーーーターーーーーーーーーーーーー』!!」
デイサイドが応えるように鳴き声を上げた。
「ギョギョギョーーーーークロマグロ!!!ギョギョギョーーーーーー!!!」
その瞬間、一筋の巨大な黄金の光の帯が天地を貫いた。光は世界樹を完全に包み込み、まるで手品のように跡形もなく消し去ってしまった。あまりの眩しさに、俺は目を細めなければならなかった。
しかし、技を使った反動は大きかった。
「ギョギョギョ……ゲフッ……ギョギョ……」
デイサイドの声には明らかに疲労が滲んでいる。まぁ、元気が出るまで鞘に戻しておいてやろう。
「「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」」
戦場に静寂が訪れた。カバやんもクラティオスも、あまりの出来事に声が出ないようだ。どうだ、かっこよかっただろう。でも、これからも人間扱いしてね。
「やったねハマー。これで一安心だよ」
シドがさも当然というように言った。大変満足そうだ。
「あの世界樹はどうする?全部取り込むこともできるけど。あ、そうそう、デイサイドに取り込んだ場合、全ての神法も引き出せるようになるからね。すごい性能だよデイサイドは。ボクの最高傑作、間違いなし」
だが俺は首を振った。
「いくらこの国の王太子がクラティオスを制御して世界を征服しようとしていたとしても、この国に住む人々に罪はない。生活に密着している迷宮をむやみに破壊して回るのは良くないことなんだよ。だから‥‥‥どうしよう」
確かに世界樹の暴走を止めなければ町が壊滅すると思って技を放ったが、今になって後悔が湧いてくる。あの状況では『ゴッドイーター』を使わなければ本当に町が壊滅していただろうから、選択は正しかったはずだ。
「デイサイドに取り込んだのであれば復元できるよ、たぶん。でも本当にいいの?さっきの世界樹は上位100位の強さだよ。動けないから攻撃といういみでの脅威はないけど、防御力はピカイチだしね」
そのピカイチの防御力を一撃で破ったということは‥‥俺はもう完全に人間の範疇を超えてしまったのかもしれない。
「いいよ。過ぎたるは猶及ばざるが如し。必要以上に力を持っていても仕方がない」
「分かった。ハマーのことは大分理解してきたよ」
お前のことは全然分からないけどな、と俺は心の中でつぶやいた。
「あぁ、そうだ。できるなら世界樹の苗木をくれ。一つだけでいいから」
これが将来、俺の切り札になるかもしれない。そんな直感があった。
「わかったよ。それじゃちゃっちゃとやっちゃうね。デイサイド貸して」
シドにデイサイドを渡す。鞘から抜かれた刀身は相変わらず不気味な輝きを放っているが、いつものように騒がない。ぐったりと疲れ切っているようだ。
シドが世界樹のあった場所にデイサイドを向け、魔力を開放する。すると‥‥‥
「オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!オロロロロロロロロ!!!!!」
完全に吐いている!まるで大学生の体育会系部活の飲み会後のように激しく吐いている!その光景があまりにもシュールで、俺は思わず笑いそうになった。世界を脅かすほどの力を持つ大剣が、まさか吐くとは思わなかった。
数分後、バカでかい世界樹が元通りに復元された。ただし、以前のような殺気はなく、穏やかに風に揺れている。
めでたし、めでたし‥‥‥




