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神庭のゴーレム5

日の光が森の奥深くまで届かない薄暗がりの中、俺は迷宮の出口へと急いでいた。石造りの通路を抜け、ついに外の世界に足を踏み出すと、久しぶりの陽光が頬を撫でていく。しかし、その暖かさも心の奥にくすぶる焦燥感を和らげることはできなかった。


クラティオスが連れ去られてから、既に十日が過ぎている。この間、俺は復興作業に追われていた――決してサボっていたわけではない。


「とりあえずコガン妖精人王国に行くか」


俺は一人つぶやいた。だが、すぐに問題に気づく。


「それで……どこにあるんだ?」


心の中で苦笑いが浮かぶ。知らないだろうと思いながらも、一縷の望みにかけて。


「うん、知らない」


シドの素っ気ない返事に、思わず空を仰いだ。だーーーーーーよーーーーーーーねーーーーーーー!!!


心の中で叫びながら、途方に暮れた。誰か知っている人はいないものか。この役立たずな俺たちを導いてくれる人は――


「ぶひいいいいいいいいいいいいい!!!我もちょうど行くところだ。一緒に来るか?」


突如として響いた巨大な声に、飛び上がりそうになった。振り返ると、そこには想像を絶する巨体が立ちはだかっていた。


「デカッ!!!!」


体格と声、二つの意味で規格外の存在だった。神庭相撲東の横綱『天冠』、通称「鼻水のカバやん」だ


「【超獣】ベリオンだ」


どうやら俺の心の声が漏れていたらしい。


「それじゃあ連れて行ってくれ。だが、お前はあまりにも大きすぎる。これじゃあバレバレだろう。この世で最も隠密行動に向かない存在じゃん」


「『霊苗』ごときがよく言うわ。お主こそ大丈夫なのか」


「何とかするよ。それに、シドもついているからな」


俺は苦笑いを浮かべながら答えた。可愛さナンバーワンの我らがアイドル、シドがいれば心強い――そう自分に言い聞かせた。


ベリオンの視線がシドに向けられた。


「変わった毛並みのトラよの。すこーしだけ神力も感じる。何という種族だ?」


「ボクの詮索はしなくていいよ、ベヒモス。キミはキミのやるべきことをやってよ」


シドの言葉に、ベリオンの巨体がわずかに震えた。


「なんと……なぜそれを……そういうことなのか」


ベリオンの声には驚愕と、そして何か深い理解が込められていた。


「では、大急ぎで向かうぞ。ぶひいいいいいいいいいいい!!!」


どうやらベリオンは河馬ではなく、ベヒモスという存在だったらしい。違いは何なのか、考えている間にベリオンの体がさらに膨れ上がった。元の三倍はあろうかという巨大さ――全長六十メートル、体高二十メートルはあるだろうか。その体を覆う濃い鋼色の神力のオーラが、陽光の中でギラギラと輝いている。


「べリオンの‥‥‥鼻水が‥‥‥消えた‥‥‥‥‥‥」


そして驚くべきことに、ベリオンの鼻から垂れていた鼻水が消えていた。


「我は本来の姿を隠すために、鼻水に神力を封印しているのだ。行くぞ!!!」


鼻水がカモフラージュ!斬新!


「めんどくさ! そして汚い! もっと他の方法もあるだろう。もう少し頭を使ってほしいよ、頼むから」


ベリオンは容赦なく森の木々をなぎ倒しながら進んだ。意外にも、その背中は思ったより快適だった。揺れは激しいが、座り心地は悪くない。


「カバやん……じゃなかった、ベリオンはさ、なんでクラティオスを助けようとしてるの?」


純粋な疑問だった。神獣ともあろう存在が、なぜゴーレムを助けようとするのか。


「クラティオスとは古い古い友なのだ」


ベリオンの声には深い感慨が込められていた。


「我は大地の神ガイア様より生み出された神獣で、クラティオスは大地の神ガイア様の亡くなられた恋人の神力をもとに作られたゴーレムだ。そして、お互い天地神戦争末期に生み出された幼馴染なのだ」


天地神戦争‥‥‥もはや怪獣大戦争じゃん。


「天地神戦争は最終的に、最高神が上位二千の神を封印したことで終戦となった。我もクラティオスも生まれた時から強かったが、上位二千には入らず、封印はされなかった。そのため終戦後の処理のため、お互い協力したのだ。そのような友が、大して力を持たぬ妖精人に操られていることに腹が立たぬわけがあろうか。コガン妖精人王国か。叩き潰してやろう」


話の中に次々と神々の名前が現れることに、圧倒された。人族のような矮小な存在など眼中にない――そんな雰囲気がひしひしと伝わってくる。こいつとは友達になりたくないな。


「待て待て、ベリオンの意思は分かったけど、クラティオスはそんなこと望んでないだろ。なんで友達のお前が、今度はクラティオスを悲しませることをするんだよ。だったら妖精人族がどうのこうのじゃなく、クラティオスを取り戻すことが先だろ」


ベリオンは黙り込んだ。


「‥‥‥そうだな。すまんかった」


意外と物わかりの良いカバやんだった。


「それで、お主はそのベビータイガーとどのように出会ったのだ? そもそも、お主程度がジグの大森林に入れるとは思えないのだが」


「ああ、俺は転生者で、いきなりこの森に落とされたんだよ。最高神によって」


苦笑いしながら答えた。


「シドは‥‥‥とある迷宮内のクレーンキャッチャーで釣り上げたのさ。結構レアみたいで、相当頑張ったよ。かわいいだろ。」


「最高神が……クレーンキャッチャーとは何だ? 初めて聞く名だ」


「クレーンキャッチャーは異世界由来のものだ。説明がしにくいから、今度ゆっくり教えてやるよ」


めんどいから煙にまいた。


「戦闘力に関しては……シドからかすかに神力を感じるだろ? だから俺もシドから神力をもらってるから、ある程度戦えるのさ。安心してくれよ。守ってくれなんて言わない、自己責任でやる」


「……そうか」


ベリオンの返事は短かったが、そこには何かしらの納得が込められているようだった。

二時間ほど森を突き進むと、ジグの大森林の外れに天に聳え立つほど巨大な木が姿を現した。その根元には小さな町が見える。石造りの家々が整然と並び、妖精人たちの生活の営みが垣間見えた。


「我はここで待っている。行ってこい」


ベリオンの声には、先ほどまでの猛々しさとは違う、静かな決意が感じられた。どうやら俺の説教が効いたらしい。意外と聞き分けが良いものだ。


俺はシドと共にベリオンの背中から飛び降りた。いよいよクラティオス救出の始まりである。


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