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神庭のゴーレム4

夜明けの光が迷宮の入り口を薄っすらと照らす頃、街の人々は昨夜の惨劇を語り合っていた。その声は恐怖と畏敬に満ちていた。


昨夜のクラティオスは、まさに破壊の化身だったという。


口から放たれる光線は太陽の炎を思わせるほど眩く、大気そのものを焼き尽くしながら迷宮の壁を溶かしていった。神力を連射する姿は機械的でありながら、どこか狂気じみた美しさを宿していた。神力で形成されたサーベルは青白く輝き、振るうたびに空気を切り裂く音が迷宮中に響き渡ったらしい。


そして何より恐ろしかったのは、その機動力だった。背中から噴射される魔力の光は夜空を裂き、まるで流星のように高速で移動しながら、立ちはだかるものすべてを薙ぎ倒していったという。普段は10メートルほどの体躯が、戦闘時には18メートルもの巨体へと変貌し、その威容は見る者の魂を震え上がらせた。


最も印象的だったのは、胸部に設けられた操縦席に妖精人が乗り込んでいたことだ。操縦型の戦闘形態――確かに格好良くはあるが、その光景には不吉な影が差していた。

妖精人の名前は――そう、ジグルだった。


ジグルはクラティオスの胸部操縦席で狂ったように叫び続けていたという。「薙ぎ払え!」

「悲しいけどこれ戦争なのよね!」「怖がることは悪いことではない。この恐怖が俺をここまで連れてきたんだ!」


――まるで何かの作品から台詞を借用したような、場違いな興奮状態だったらしい。


俺は額に手を当て、深いため息をついた。


「マジかよ‥‥‥ヤバすぎるだろ」


間違いなくヤバい奴だった。ロボットに乗ってテンション上がってしまったのだろうが、それにしてもあまりにも度が過ぎている。やりすぎだ。完全にやりすぎなのだ。


俺といい、奴といい、この世界の神の転生者の人選があまりにも酷すぎて笑えない。今回の件なんて普通に恥ずかしいレベルだ。もしこれが最高神の人選だったとすれば、俺も奴と同じレベルということになってしまう。それは流石に悲しすぎる。


だが、もし最高神の選択ではないとしたら‥‥‥


「シド、どうしようか」


俺は相棒に声をかけた。


「取り戻すだけなら、どうとでもできそうだけど」


シドは穏やかな表情で答えた。


「キミもわかってると思うけど、やりすぎは良くないよ。最高神から好きなように生きろって言われてるんだから。英雄になろうってんなら止めないけどね」


英雄――そんなものになりたくない。だが、クラティオスには恩がある。何より、あいつは誰にも迷惑をかけずに生きてきた存在だった。そんな奴が人間の欲望のために利用され、操られているなんて、あまりにも理不尽で悲しすぎる。


胸の奥に熱いものがこみ上げてくる。これは怒りなのか、それとも哀しみなのか。


「とりあえず神殿の中に入って、ここの神と話でもしてみようか」俺は決意を込めて言った。「四季を司る神、ミルエルと」


神殿へと続く石段は、長い年月の風雨に晒されて表面が滑らかになっていた。神力で閉ざされているはずの重厚な扉は、意外にもあっけなく開いた。まるで俺たちの来訪を予期していたかのように。


神殿の内部は外観から想像するよりもはるかに広く、天井は見上げるほど高い。ひんやりとした空気が肌を撫でていき、どこか神聖な雰囲気に包まれている。足音が石造りの壁に反響し、神殿全体に静寂を破る音を響かせた。


奥へ進むにつれ、空間はさらに広がっていく。そして最奥部に、俺たちは一体の巨大な女性の石像を発見した。


石像は実に精巧な作りで、まるで今にも動き出しそうなほど生命感に満ちていた。慈愛に満ちた表情の美しい女性が、両手を胸の前で組み、微笑みを浮かべている。その足元には、直径30センチメートルほどの球体が収まる円形の窪みがあったが、今はがらんどうで何も入っていなかった。


「おそらく、クラティオスを操る神機がここに収められていたんだろうな」


その空虚な穴を見つめながら、俺は確信に近いものを感じていた。


「四季を司る神、ミルエル」


シドが石像に向かって声をかけた。


「ボクは創造神シド。キミの眷属……なのかな? ゴーレムが連れ去られたみたいだね。良かったら手伝うけど、君はどうしたいの?」


しばしの静寂の後、石像から温かみのある女性の声が響いた。


「ありがとう、創造神シド。私はミルエル。」


声と共に、石像から柔らかな光が放たれる。それは四季の移ろいを表すような、緑、金、白、桃の光が混じり合った美しいものだった。


「かのクラティオス――終焉のゴーレムを造ったのは私と私の夫です」


ミルエルの声には深い愛情と、同時に計り知れない悲しみが込められていた。


「終焉のゴーレムは、はるか昔の天地神大戦の初期に、破壊神に対抗するために私の夫である叡智の神スフィアが開発したものです。」


ミルエルの語る物語は、想像を絶するスケールの戦いの記録だった。


「8体揃えば破壊神を滅ぼすことができる――そう設計されていました。しかし現実は非情でした。最終的には全く歯が立たず、8体中7体が無残に破壊されてしまったのです」


俺の背筋に冷たいものが走る。破壊神の力は想像以上だったのだ。


「最後の1体――それがクラティオスでした。私は破壊神に滅ぼされた姉の神力を使って彼を修理し、さらに永久に稼働する神機駆動と神機装甲を組み込みました。」


ここでミルエルの声が震えた。明らかに次に語ることが、彼女にとって最も辛い記憶なのだろう。


「そして……私の子供の魂を込めたのです」


「その子は本来、普通に生まれてくるはずでした。しかし、出産の寸前に姉が破壊神によって滅ぼされ、その力を転換するために私は大きな魔力を消耗してしまった。それが原因で‥‥‥私の子は肉体を得ることができず、魂だけの存在となってしまったのです。」


「その魂をクラティオスの中に込めたため、彼は単なるゴーレムではなく、魂を持った存在となりました。天地神戦争の末期、私と夫はクラティオスと共に過ごしました。あの子は私の願い通り、本当に優しい子に育ってくれたのです」


ミルエルの声に母親としての愛情が溢れていた。


「しかし、私たちがあの子の安全を考えて取り付けた操作装置の神機を外そうと考えていた矢先、突如として最高神によって封印されてしまいました。操作装置には二つの束縛が組み込まれています。一つは終焉のゴーレムを思うように操れること。もう一つは、命令がない限りこの神庭を出られないということ」


子供を守るための装置が、結果的に子供を縛ってしまったのね。


「そのため、あの子は今もなお、この神庭を管理し続け、真の自由を得られずにいるのです」


「確かにクラティオスはすごく優しいね」


シドが相づちを打つ。


「それにここでの生活も十分楽しんでいるようにも見えたけれど……そういえば、時折変なギャグやダジャレを言うのはなんでなの?」


鋭すぎるツッコミ、俺でなきゃ見逃しちゃうね。


「操作装置とあの子の意思がぶつかることで起きる歪みかもしれません」


ミルエルの声が少し弱々しくなった。


「あの子は外に出たがっているのです。自由になりたがっているのです。」


そんな理由で親父ギャグを‥‥‥どんな葛藤があって、操作装置から解放されようと親父ギャグを言い続けるんだよ。


「で、あの制御装置を壊せばいいってこと? そうすればクラティオスは自分の判断で動けるようになる?」


「その通りです。ゴーレムの胸部には人が入るスペースがあります。そこを破壊してください。そして可能であれば、上半身の最も装甲の厚い部分だけを取り出してほしいのです。それで全てが解決するはずです」


ミルエルの声に切実な願いが込められていた。


「それと……今、あの子はとても苦しんでいます。あの子は世界の破壊など望んでいません。あんなに優しい子なのですから。あなたたちには面倒をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。」


なるほど、コクピットにいるボケカスもろとも操作装置をぶっ壊せばいいわけだ。だが終焉のゴーレムより強力な存在が相手となれば、相応のリスクを負うことになる。それなりの対価が必要だろう。


「分かったよ。それで、これが成功したらキミはハマーに何をくれるのかな?」


さすが詐欺神シド。俺たちは息ぴったりの相棒だ。


「ハマーにぴったりのものがあります。神性魔法『輪廻断絶』――これで神を根源から打ち滅ぼすことができます。前払いにします、はい、もう使えますよ」


白金のように輝く神性魔力が俺の体内に流れ込んできた。これが四季を司る神の魔力か。少し違和感を覚える。それにしても、いらなすぎる能力で笑える。神の根源を絶ってどうするんだよ。女にモテるとか、衰えない性欲とか、そういう実用的なもので良かったのに。


「ずいぶん良いものをくれるんだね」


シドが感心したように言う。ああ、やっぱりそういう評価なんですね。俺の希望は無視なんですね。


「ちなみに、キミの封印を解除することもできるけれど、どうする?」


「まだ結構です」


ミルエルは穏やかに断った。


「夫もまだ封印されているでしょうし。いつかあの子が解いてくれる時を待っています」


「そうか……もう一つ質問があるんだけど、キミは四季を司る神ということだけれど、それは本当?」


「本当ですよ。四季も司っています」


「そうか‥‥‥じゃあ神庭を修復したら出発するね」


「ありがとうございます」


 俺たちが神殿を出ようとした時、ミルエルの声が再び響いた。しかし今度は、まるで独り言のように小さく、遠く。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥頼みますね」


そして、さらに小さな声で。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥最も愛しくて、最も憎い弟くん。そして、弟が暴走したら、止めてね、ハマー」


その最後の言葉は、誰の耳にも届かなかった。俺にも、シドにも聞こえることはなかった。ただ神殿の静寂の中に、母なる神の祈りだけが静かに響いていた。


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