風音ワングランプリ? 四日目乃拾玖
風音が最後のシーンをなんとなく頭の中で想像していると。
バスカ「その最後のシーンが少し変わってな。リアリティを追求した結果、子供が手を振って二人が出勤するシーンは無くなった」
風音「あ、そうなんですか」
リアリティ?
疑問に思う。これの何が駄目なんだろうか。
バスカ「なので、これが衣装だ」
服を渡される。
モッコモコの超柔らかいタオル生地のような白い全身服と、ピンクの靴下。
風音「・・・? これ赤ちゃん服じゃないですか!!」
子供役って?
せめて五歳くらいじゃないの?
それでも正直やりたくなかったのに。
バスカ「そりゃそうだろう。親である君達の年齢が、映像的にほぼ変わらないんだから。大きな子供がいる設定なんて出してみろ。目の肥えた視聴者からは、そんな子供が出来た割には親が歳とってないって指摘が来るだろ」
と言われても。
一人二役でやってるシーンなんだから別にいいだろと思うし、そんな事より。
風音「ロボットと人間の間に子供が出来てる時点で、そこを気にする人は居ないでしょ」
そのハードルを乗り越えた人が、年齢とかそんな些末な事を気にするのか。
風音「そんな所を指摘するくらいなら、もっと他に・・・」
鞍馬「そんな所だなんて、艦長。バスカさんの前でプロ意識の欠けた発言は厳禁ですよ」
鞍馬から注意が入る。
バスカ「そうだ。もし今の鞍馬さんの発言が無かったら、馬鹿野郎と言って張り倒していたところだ」
風音「はぁ・・・」
そうなったらまた防ぐし、例によってバスカさんが鞍馬に張り倒されて、サングラスが吹っ飛ぶだけだと思うけど。
鞍馬「ふぅ・・・。バスカさんを張り倒す必要が無くなって良かったです」
ほら、本人が言っちゃったし。
風音「・・・でも鞍馬は良いの? 赤ちゃん役だよ?」
鞍馬「別に問題はありません。 敢えて言うならロボ役や悪役だけじゃなく、他の役にもなれるという事を見せたかったという意味では、台詞がほぼ無いというのは残念ですが」
バスカ「惜しいのはそこだけだな。 役者としての鞍馬さんの憑依と言っても良い変貌ぶりは、もう一人分くらい見てみたかった。ただここはリアリティを追求したい」
鞍馬「ええ、ここにきてリアリティを放棄するなど有り得ませんから」
風音「・・・・・・・・・」
・・・なんか。
この一連の会話の方が茶番というか・・・恣意的な何かを感じる。
別に元々の台本通り子供が喋れる年齢になっていて、街を守る為に出勤する親に、おばあちゃんとかに抱っこされながら「がんばれ~」とか「いってらっしゃ~い」って声を掛ける展開もありだろう。
何故かここにきて、赤ちゃんでなければいけないという方向に持っていかれているような。
風音(いや考えすぎか。ここに赤ちゃん服があるって事は、用意されてたって事だもんな。もともと赤ちゃんになる可能性も想定してたって事か)
と自分に言い聞かせていると、少し離れた所にいるスタッフの男女が笑顔で喋りあっている。
「いや~やっぱり転移装置を倉庫と繋げといて良かったな、これで現場に赤ちゃん服が無かったら、またバスカさんの機嫌が悪くなるところだったよ」
「ほんと、また私が在り物で裁縫して作らないといけない所でしたよ」
「いやいやあの経験があったから、今回に活きたんだよ」
「快適な職場って、尊い犠牲の上に成り立ってるんですね」
ははは・・・。
とか聞こえてきた。
風音(やっぱり急遽変更されてるじゃないか・・・)
そういう流れに変えた奴が居るのか。
多分鞍馬だな。後で理由を聞こう。
それと治安組織って、やっぱり金は持ってるなと思う。
転移装置なんて出鱈目に高額な機械を、PR撮影スタッフに配れるほどだなんて。
カノンにもいくつか設置してあるから、風音は日常的に見かけるものの。
あれは設置した人が宇宙で有数の大金持ちだから、普通に手に入っただけであって。実はかなりレアなものだ。
人目のある所で使っていると、一目見たくて野次馬がいっぱい寄ってくるくらい。
風音(いらん所で金かけるなよ。赤ちゃん服が無かったら交渉の余地も生まれたのに)
・・・無理か。
裁縫師が居るんだから、どっちにしろ作られて終わりだったか。
諦めて次の現場に向かう。
次の現場は撮影用の新しい家だ。
新婚夫婦の新居って設定の家だろう。
現場に着いて、車で先導していたバスカが車から降り、先に中に入る。
風音達も車から降りて家に入ろうとすると。
バスカ「クラァーーーーーーー!!!!」
怒号と共にバスカが飛び出してくる。
焦ったスタッフ達の背がピンと伸びる。
風音「もう怒ってるし」
鞍馬「感情の起伏が激しい方ですね」
慄いているスタッフ達の代わりに風音が尋ねる。
風音「何かあったんですか?」
バスカ「壁紙が薄い黄色なんだよ!! 誰だこの壁紙にした奴は!!」
一人のスタッフがビビりながら声を上げる。
「あの・・・濃い色は映像的に良くないと。そして白では駄目だと聞いたので、それしか無かったのですけど・・・」
バスカ「無ければ作れ!! 何の為のスタッフだ!!」
怒号が飛ぶ。
風音「ちょっといいですか? なんで黄色は駄目なんですか?」
バスカ「茶色と黄色は草を吸う奴の家をイメージさせるからだ!」
黄色と茶色で草を吸う? ・・・タバコとか葉巻系の話か。
風音「やっぱりクレームですか?」
バスカ「当たり前だろう! 健康を害するとかなんだかんだと、大量のクレームが来る!」
風音「でも実際吸うシーンがある訳じゃないんですよね? 壁紙くらい良くないですか? それにクレーマーほど映像の解析が好きなんでしょ? 解析すればその壁紙の元々の色なのか、あとで汚れて付いた色なのか分かるんじゃ?」
バスカ「映像の解析までするのなんか、人権問題とか神経質な問題の時だけだ! 草の件に限らず健康馬鹿ってのはわざわざ解析とかしねぇんだよ! 脊椎反射でクレームを送ってきやがるんだ!!」
だからその発言が叩かれそうだが。
鞍馬「あの・・・しつこいようですが、それは地球の話ではなく、宇宙に居る団体の話ですよね?」
バスカ「これに関しては地球も同じだ!!」
鞍馬が少し考える仕草。
鞍馬「ついに地球にも牙を剥き始めましたか・・・こちらも慎重に言葉を選んでいかなければならないですね」
バスカ「キミはさっきから何を気にしてるんだ!」
鞍馬「どこでこの会話が聞かれているか分かったものではないですから」
風音がタバコから話題を変える。
風音「じゃあもう一つ気になってったんですけど、一番無難そうな白が駄目って指示を出した理由ってあるんですか? 白で良いじゃないですか」
バスカ「馬鹿野郎!!」
バチィ!!
サングラスを拾うバスカ。
バスカ「白なんて一番駄目だろうが!!!」
風音(もう鞍馬に張り倒された事にすら触れなくなったな・・・)
予定調和というか。流れるような展開だった。
風音がバスカのビンタを防いだ腕を下ろす。
風音「いやだからその白が駄目な理由を」
バスカ「お前ほんと何も知らないな!! いいか? 白ってのはな、裏側で出回っている有名な麻薬を連想させるんだ!」
風音「そうなんですか?」
バスカ「ああ。炙って煙を吸うタイプの麻薬だ。その煙が壁紙を白くさせる。それこそ掃除を怠れば色付きの壁紙さえも白くなっていく」
風音「へぇ・・・そんなの吸ったら体の中も白くなりそう」
この話に興味を持ったっぽい態度の風音を見て、バスカがニヤリと笑う。
バスカ「その麻薬の中毒で死んだ奴の身体を解剖するとな、肺や胃や腸の大半が、真っ白だったそうだ。肺なんてどこを切り刻んでも、真っ白で人の色をしていなかったらしい」
風音「うわ・・・本当ですか。そんな情報を知った上でよく吸えるね」
顔をしかめて素直に驚く風音を見て。
バスカ「はっはっはっ。強力な麻薬だから中毒性も尋常じゃないからな。 それに比べるとタバコは中毒性は弱いが、肺の汚れ方だけで見るなら、地球にも肺が黒くなると知っていながらタバコを吸う奴は居るだろう? なら黒か白かの違いだけだ」
風音「なるほど確かに?」
言われてみればそうか。
なんかいつの間にかバスカの機嫌が良くなっている。
さっきもそうだったけど、自分の知識が驚かれると機嫌が良くなるタイプなのか。
でも根本的な問題が解決していないから、また我に返って怒り出すだろうな。
スタッフ達の為にも、先に何らかの代案を出さないと。
風音「じゃあ壁紙の件ですけど、この家の玄関は使用出来ます?」
バスカが家の方を振り返る。
バスカ「玄関のシーンは問題無さそうだな。問題は部屋で子供を寝かせるシーンだ」
風音「じゃあ先に玄関から出て行くシーンだけ撮って、あとはこの家じゃない別の部屋で撮るってのは?」
バスカ「今更新たな物件を探すのは予算的にも現実的にも無理がある。 今日はもうクロスの張替えも出来ないし・・・後日改めて撮影になるだろうな」
風音「廊下とかは映さなくて部屋の中だけで良いなら、既にありますけど」
バスカ「ほう? どこに?」
風音「僕が持っている宇宙艦の部屋です」
鞍馬「炎火の部屋ですか。グレーブルーの壁色の部屋がいくつかありますね。家っぽい感じであれば、リビングと寝室の二部屋が仕切りを通して繋がっているタイプの部屋に案内出来ますが」
バスカ「ん・・・一度見てみるか。それで駄目ならクロス張替えで後日だな。 おい、スタッフ。玄関の撮影が終わったらここで待機。俺から撮影地変更の指示が出たら、必要な物を回収して車に積め。積み込みが終わったら連絡を入れてから、俺が指示した場所に来い」
「「「はいっ!」」」
ビビっていただけに良い返事。
玄関の撮影は会話も無く出て行くだけなので、すぐに終わった。
あとで二人を照らす光が差している演出を加えて終わりなのだろう。
そして最後の現場へと向かう。




