風音ワングランプリ? 四日目乃廿
十五分ほどで宇宙艦炎火に着く。
そこでの内見が終わり。
バスカが気に入ってくれたようなので、着替えてスタッフ達を待つ。
風音「・・・・・・」
スタッフを待つ為に、部屋内ではなく廊下で待っている風音達。
最初のシーンは赤ちゃんの姿からの為、風音は赤ちゃん服とピンクの靴下を着て、仁王立ちをしている。
自分の今の姿を確認して。
風音(これは・・・想像を超えた・・・)
人に見せてはいけないやつだ。
双子の赤ちゃん設定なので、鞍馬にもお揃いの赤ちゃん服が用意されているが、最初のシーンは鞍馬だけ私服だ。
ふと視線を感じたのでそちらを見ると、廊下の向こうの方で炎火の警備担当のゼロアがこっちを見ていた。
風音(いや違う。仕事なんだこれは)
すぐに目で会話をする風音。
もう言い訳しか出て来ない。
ゼロア(その姿がシャロンの仕事の指示か? 俺ならシャロンの職員を全員病院送りにするな)
風音(怖い事言わないでよ)
怖い事を言い出したゼロアとの会話中に。
バスカ「そういえば風音君はさっき、台本の出し方に問題があるとか言ってたか? じゃあスタッフが来るまでの間暇だから、最初のシーンだけでも予行演習しておくか?」
バスカはバスカで急に怖い事を言いだす。
風音「いやいやどうせすぐ着替えて次の場面だし、そんな一瞬だけの為の練習はいらないです」
鞍馬「まぁそう言わずに。私が艦長を抱っこして、ベッドに寝かせるだけでしょう? 完璧な仕上がりの為に、一度やっておいても良いじゃないですか。あの机の上をベッドだと仮定して」
廊下からも見える、部屋の真ん中の机を指で差す。
バスカ「やはり鞍馬さんのプロ意識には目を見張るものがあるな」
風音「え~~~・・・。じゃあちょっとだけ待って」
すぐにゼロアに指示を出す。
風音(じゃあ今から練習を始めるから、部屋の中は見に来ないでね)
ゼロア(部外者が艦内に居る場合は、監視下に置けと事務の連中に言われている。俺に見られたくないならワグナと交代しようか)
風音(待った。ゼロアでいいや。事務室の人には伝えなくていいから)
事務室なんかに報告したら、絶対余計な奴らも見に来る。
仕方なくゼロアが見るのは許す。
バスカが近付いてきたゼロアにかなりビビった様子だったが、ここの警備担当だと説明して傍に置いてもらう。
早速風音をお姫様抱っこする鞍馬。
鞍馬『は~~い。よちよちいい子でちゅね~。おねんねちまちょうね~』
風音の目の前に、次の台詞の指示が出る。
ニコニコ笑いながら、だそうだ。
風音『だぁ・・・♡ だぁ・・・♡』
指示通り少し手足をバタつかせて笑顔で言う風音。
風音(・・・あ・・・そうだ。 死のう)
何もかも嫌になった。
そしてゼロアと目が合う。
害虫でも見るような目で見られている。
風音(これが・・・仕事なんですぅ・・・)
もうアイコンタクトでの会話にすら元気が無くなる風音。
ゼロア(俺の判断が甘かった。全員再起不能が妥当だな。あの組織は無くなった方が世の中の為だ)
風音(僕もそう思いますんで、やっちゃって下さい・・・)
もう泣きそうな風音。
風音が机の上に置かれる。
そして鞍馬にお腹を撫でられて、寝入る振りをする。
バスカ「そこまで! いいね!!」
笑顔でカットが掛かる。
バスカ「あーもう・・・参ったな、理想通りだ。くそ・・・なんで今のが本番じゃないんだ。本番で今のを再現出来るのか・・・」
鞍馬「本番は今のを超えて見せますよ」
バスカ「今のを超えたらもう・・・神の領域だよ」
鞍馬「はい? せめて神程度は超えませんか?」
その言葉に衝撃を受けるバスカ。
バスカ「キミにはどれほど先の世界が見えているんだ・・・」
風音は机の上で死んでいる。
風音(もう嫌だ・・・。 そうだ、精神を封印しよう。 極限の戦闘状態と同じだ。無心になるんだ。もうここに「私」は居ない・・・「私」は消える・・・)
戦闘におけるかなり高等な技術を、こんなところで発揮する風音。
意識が暗闇に沈んでいく。
そしてしばらくしてスタッフ達が荷物を大量に持って訪れた・・・らしい。
その後の展開は大人鞍馬が赤ちゃん風音を寝かせ、大人風音が赤ちゃん鞍馬を寝かせて。
でも赤ちゃん鞍馬が泣いて全然寝てくれないから、抱っこして背中を撫でながら、優しくほっぺにキスして寝かせてあげて。
ここで赤ちゃんの出番は終わった・・・らしい。
その後はトーストを焼いて、仕事の準備に手が離せなそうな鞍馬の口に突っ込んであげて。
で、無事に終わった・・・らしい。
風音の記憶には一切無い。
鞍馬以上にロボットの様に、ただただ無意識で機械的に動いていた。
バスカ「いいね!!!!!」
その声で、ハッと我に返る風音。
終わると同時に正気に返るよう、自分に暗示をかけていた。
風音「・・・終わった?」
バスカ「ああ、全部終わりだ。私達は今日、神を超えたよ!」
風音「良かったね」
鞍馬「だから言ったのです。我々ならば超えられると」
バスカ「そうだ! 我々が求めていたのはこの領域だったのだ!!」
風音「あ、そ」
ちょっと放心状態になっている風音。
ゼロアからの視線を感じたのでそちらを見る。
ゼロア(おい、意識を消すのはあまりやるな。こっちが警戒しなければならなくなる)
風音(ごめん。もう精神的に限界で)
現実逃避の為に取った行動だったが、元は戦闘技術だ。
感情や思考を捨て去って無意識で動く中、少しでも自分の身に何か災いが降りかかる可能性があれば、即行動に移す状態だ。
演技中鞍馬にお腹を撫でられた時、一瞬その鞍馬の腕を折ろうとして殺気立った。
風音が無意識下で止めたものの、その瞬間ゼロアは風音が寝ているベッドを蹴り飛ばそうかと思っていた。
その件に関して言い訳を続ける。
風音(完全に意識を断ってた訳じゃないから大丈夫かなと思ったんだよ。完全に断つとそもそも演技の指示が読めないし。意識の大半と感情を消しただけ)
ゼロア(三回危うい場面があった。出来ればもうやるな)
風音(はい。もうやりません。でも今後今のと同じ状況があったら、保証は出来ません)
ゼロア(・・・・・・・・・)
この後撮影終了の「お疲れ様食事会」があるらしいが、丁重にお断りをした。
どの食事に反応して叫ぶか分からないから。
レストランの食事だってお客さんの為に作った食事なのだから、またあの機械の叫び対象になるかもしれない。
主役不在も寂しいので「鞍馬だけでも行ってあげれば」と言ってみたが、風音が行かないなら行かないという事だった。
バスカも今回の撮影の映像編集をすぐにしたくて堪らないようなので、「編集は鮮度が命だ。そんなもんに参加してられるか」とか言っていた。
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最後の撮影が炎火内だったので、仕事終わりで一瞬でカノンの艦長室に帰った風音。
そういえば出かける前、どの作品が最下位か悩んでいた事を思い出す。
何故だろう、今は悩む事無く結論が出た。
帰った頃には夕方だったが、夕食は我慢しようと思ったのと精神的に疲れたのも相まって、仕事机に座ったまま寝てしまった。
・・・・・・・・・。
風音「・・・・・・ん」
今メールが届いた音がしたような。
時計を見ると、寝始めてから三時間経っている。もう夜だ。
スパコンを起動させ届いたメールを読む。
ウェルズ「今日の映像が完成したらしいぞ」
から始まっていた。
風音(早いな・・・)
映像の編集なんて普通何日もかかるもんじゃないのか。
そういえばバスカさんは優秀だと聞いてたけど、一緒に仕事をしている間はそういう風に思った瞬間すら無かった。
実は編集とかそういう系の裏方作業が優秀な人なのか。
欠伸をしながら続きを読む。
ウェルズ「風音君、よく引き受けたねあんな役」
風音(お前に依頼されたんだよ・・・)
寝起きでテンションが低いので、ぼんやりと考えながら読む。
ウェルズ「シャロン職員全員に映像の配信が済んだんだけどな。めっちゃくちゃ評判良いよ」
風音(嘘つけよ・・・)
ウェルズ「少なくとも去年までのPR動画は、全員まともに見なかったんだよな。でも今回のは俺が知る限り、全員最後まで見たらしいからな。それで風音君にも映像送っとくから、まぁ見てくれ。あと関係者なんだから、ちゃんと鞍馬さんにも見せてあげてくれよ」
そう書いてあって、メールに映像が添付されていた。
風音「・・・・・・」
無言で再生する。
冒頭で体重100キロ超級の、かなりの巨漢に加工された風音が映る。
そういえば最初言ってたな。体型に不満があるから後でどうにかするとかなんとか。
そのまま無言で映像を消した。
鞍馬のパソコンに軽くメッセージを添えて映像を送信し、スパコンをスリープ状態にする。
風音「ふわぁ・・・・」
よほど疲れたのか、まだ少し眠い。
そのまま机に突っ伏す。




