風音ワングランプリ? 四日目乃拾捌
いいやもう。このシーンは丸々カットで。
意を決して、渡された海藻おにぎりを一口食べる。
風音「こ、これはぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
例の如く上を向いて、口から広域レーザーを吐きだす風音。
風音「シンプルに美味い!!!!! しかしその内容は決してシンプルではないぞ!!!! 完璧な塩加減に完璧な握り方!!! 天才的な哲学者ほどこう語る! 数学的な美こそ哲学に通ずると!!!!! この米と米の隙間の空気の入り方がまさに数学的な美で構成され、最早哲学的設計の域に達している!!! しかし何だ!? この違和感・・・!! そうか!! 一口では具に達していないのかぁっ!!!!! どうりで海藻の味がしないと思ったら!! これはおにぎりを飽きさせないように具を入れつつ、それでいて塩分に気を遣った完璧な比率!!! まさかここまで計算済みだとはぁぁ!!!!」
鞍馬『あ、先輩すみません。それ具が入ってないやつでした』
風音が持っていた食べかけのおにぎりを半分に割る。
風音「入ってなかっただとぉっ!!!!!? ・・・そうかっ!! この弁当はおにぎりだけじゃなく、他のおかずも入っている!!! おかずと一緒に食べる事を想定した場合、この具無しこそが最強なのだ!!!! これぞおかずの価値を一番高める為に不可欠の存在!! しかし世間ではおかずを軽んじ、弁当に具入りおにぎりしか入れないという蛮行が多々見受けられる!!!! それを断固! 拒否っ!!! 具ありなし双方を入れる事で、弁当全体を更なる高みへと進化させたというのかぁぁぁぁぁ!!!!!」
・・・・・・。
ここでようやく機械の効果が切れた。
ハァハァと肩で息をしながら、我に返って両手に持ったおにぎりを見つめる風音。
風音(放送事故だろこんなもん流したら・・・)
そこまで。
と指示が出た。
バスカが二人に寄ってくる。
バスカ「・・・じゃあ次のシーンに行こうか」
風音「待って!!?」
すがる様にバスカを止める風音。
バスカ「なんだ?」
風音「なんだじゃないでしょ! 今の台本と全然違いますから! やり直しましょ!? 大体バスカさんって、良い時は「いいね!」って絶対言う人じゃないですか! それが無いって事は、バスカさんの中でも納得いってないんですって!」
もう必死。
バスカ「いや・・・人は本当に感動した時、言葉を失うものなんだ」
風音「勘違いです。それは感動の無言じゃないです。呆気に取られているだけですから」
そう説得する風音の言葉は届いていない様子。
バスカ「この撮影が始まってから、私と鞍馬さんはずっと「新しい作品とは何か」を追求し続けていた。そんな中で風音君だけは良く言えば真面目に、ある意味で愚直に、自分の意見を言わずに全て台本通りに事を進めていた」
風音「それが普通ですから。アドリブなんかいらないですから」
バスカ「そう、ずっとその姿勢だった風音君が、今急に羽化したんだ。あれを見せられては、もう何も言えないよ・・・。アドリブで些細な日常会話を盛り込みつつ、この後の展開を見据えて独身である事を暗に示唆。そうしていつもの職員とは違うプライベート感を全面に出しながら、それでいて最後にそれをぶち壊す発想。 日々異常と対峙する仕事をしている職員による、日常風景の中の異質さ。・・・その手があったか」
自分に無い発想を見せられて、悔しそうなバスカ。
風音「いや買いかぶり過ぎです、無かった事にしましょう。大体今のは僕の意志で喋った言葉じゃないんです。機械に言わされただけなんですよ。 今のシーンは最初から撮り直しでいきましょうよ」
風音の意見にかぶせるように、鞍馬がバスカに対して発言する。
鞍馬「では今のシーンは今のままで使われるという事でしょうか?」
バスカ「ああ、今からチェックして問題が無ければな」
鞍馬「良かった。私のお弁当が艦長に褒められているシーンが、全宇宙で流れるのですね」
風音「いや褒めるのは良いけど・・・あの誉め方は地獄だよ・・・」
ここでハッと閃く風音。
風音「そうだバスカさん。 食事シーンにクレームって無いんですか?」
絶対ある。宇宙は広い。これでこのシーン全カットに持っていく。
例えば食事シーンだと、食べ物を粗末にしたらクレームとかよく聞く。
今回は食べ物を粗末にこそしていないが、ここまでの異常なクレームの多さだ。今のシーンになにかしらのクレームがあってもおかしくない。
バスカ「食事を無駄にするような場面はよくクレームが来るが、今回特にそういうシーンは無いし・・・。 あ、そうだよ・・・忘れてた。ちょっとした配慮が欠けただけで、クレームが来るんだ」
風音「ほいきた!」
腕まくりする風音。
バスカ「先程の女性団体や人種問題に比べると、小さなクレームとも言えるがな。食べているものに肉料理が入っていた場合、菜食主義者達からクレームが入る事が多い」
風音がチラッと弁当箱の中身を見る。
風音「はいハンバーグ入ってます!! ハンバーグいただきました!!」
高々と勝利宣言をする。
バスカ「しかし肉を食べる文化の星が圧倒的に多いから、この団体は声が小さすぎてあまり気にしない監督も多い。どの作品を見ても、普通に肉を食べているシーンはある」
風音がバスカの両肩をガッと掴む。
風音「まさか! 冗談でしょ!? バスカさんが完璧を目指した今回の作品には、小さなクレームも入る余地を許しません。バスカさんが認めても私が認めませんよ!」
風音からの熱い言葉を受けて、バスカの目尻に光るものが。
バスカ「・・・そうか。そこまでこの作品に賭けるか。なら私も本気で応えなければな。肉料理を取り除き、先程のシーンの撮り直しをやろ・・・」
鞍馬「いえ、大丈夫です。今すぐ映像をチェックして下さい。私が海藻おにぎりと発言したのも、弁当を自分側に傾けていたのも、全てそれを予想してのものです」
バスカ「まさか・・・」
すぐに映像のチェックをする。
確かに鞍馬は弁当箱を自分側に少し傾け、カメラからは野菜しか映らない様にしていた。
バスカ「・・・プロの仕事・・・。 まさか鞍馬さんは、俺以上になる可能性を秘めているのか・・・」
鞍馬の可能性に戦慄しているバスカ。
お腹の前で腕を組んで一緒にチェックしていた鞍馬が、片方の腕だけ動かして中指で眼鏡をクイッと上げる。
鞍馬「すみません艦長。・・・このシーンは私が守護ります」
風音「なんでそこまで・・・」
目的が分からない。
この四姉妹に、主人に褒められたい願望があるのは知っている。
元々そうだったし、風音を主人とする設定を解除した今も、根本的な部分が変わっていない事は昨日散々聞いた。
でも撮影中じゃなくてもいいのに。帰ってからで良いだろ、あんなよく分からない誉め方。
もっと言えばガチの主人が一人居るんだから、そっちに褒めてもらいなさいよ。
これから今のシーンのチェックと、次のシーンの話し合いの時間が少しあるだろう。
邪魔にならない様に、風音は撮影スタッフ達から離れた場所に移動し、近くに撮影スタッフが置いた太めの移動式ボラード(車止めの鉄のポール)に腰を下ろす。
バスカが映像のチェックと台本の事に関して、他の撮影スタッフと色々話し込んでいる。
何故か鞍馬もその中に入って、話し合いに参加している。
風音(いつの間にあっち側に・・・)
しばらく待っていると話し合いが終わったようで、二人が風音のもとに近付いてくる。
バスカ「この後の流れだが、台本にあった「こんな普段はごく普通の人達が使命感を持って、街を守る為に頑張っていますというアピール」の部分。 これはこっちで映像に文字を入れて編集する事でアピールするから、君達が何かをやる必要は無い」
風音「あ、そうなんですか。僕はてっきり・・・」
・・・・・・・・・
風音『こんな普通の僕達が、この街を守ってるんだね』
鞍馬『それが私達の使命ですから』
・・・・・・・・・
風音「・・・みたいな、白々しい会話を挟むのかと思ってたんですけど」
バスカが呆れる。
バスカ「それは寒すぎるだろう。白々しいとかいうレベルじゃないよ。 正直テロップでもちょっと白々しいから、あえて一切語らず観た人に感じてもらう形式にしようか悩んでるところだというのに。 会話で表現って・・・素人かキミは」
素人だよ。
という言葉は飲み込んで。
風音「まぁ・・・その意見にはほぼほぼ同感です」
でもさっき「正義腹パンチ」とか、散々極悪ぶりを発揮していた奴が「悪が栄える事は無いのか」とか。
耳を疑うような言葉が乱れ飛んでたけどな。
風音「じゃあ後は最後のシーンだけですね」
改めて最初に渡された台本を見る。
『いつしか結婚していた二人。
自分の子供達という、守るべき存在も増えた今。
今日も街を守り続ける。 ←逆光の中、子供達に手を振られながら家から出勤する二人。』
・・・か。




