表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カノン  作者: しき
第5.5話
96/206

風音ワングランプリ? 四日目乃拾漆

 撮影現場に到着し、そのまま車内で事件発生の報告を受ける。


 現場に駆け付けると、逃走する為の人質を取って走っている犯人の姿。・・・は後で撮るので、そういうのがいるていで車を走らせる。


 犯人の逃走を車体で防ぎ、車を降りた二人。


風音『待て!! 貴様を逮捕す・・・ぶげぇっ!!!』


鞍馬『先輩!!』


 何らかの攻撃を顔面に喰らった振りをする風音。

 顔面を覆い、一撃で倒れる先輩。


 そのまま流れに沿って、犯人サイドの台詞と仕草の指示が出る。

 この犯人サイドも自分達で演じなければならないのだが・・・。


風音(え? 着替えろって事かな?)


 ここで一旦着替える鞍馬と風音。

 移動着替え室があり、そこで着替えるってのは事前に聞いていた。

 鞍馬はパンクロッカーみたいな恰好。風音は普通のセーターにズボン。


 犯人役の鞍馬が左腕で風音の首をホールドした状態で人質に取っている。

 その動きにくそうな状態から一気に数メートル跳躍ちょうやくし、車を降りた正義風音の元へ。


 そして有無を言わさぬ犯人からの顔面右ストレート。

 これがさっき顔面に喰らった一撃だ。後で映像を重ね合わせるのだろう。


悪鞍馬『けっ・・・雑魚ざこが出しゃばりやがってよ・・・』


 見ていた人質風音は悲痛な表情をしている。

 あとでさっきの映像と繋ぎ合わせるのだろうが・・・。

 ここでまた犯人サイドではなく、治安職員サイドの演技になる。


風音(え・・・これ・・・また着替え・・・?)


 既に思う所がたくさんある風音。


 着替える鞍馬と風音。


 倒れている先輩かざねに駆け寄る鞍馬。


鞍馬『大丈夫ですか先輩!!』


 着替える二人。以下着替え略。


悪鞍馬『ありがとよ。ちょうどいいタイミングで車を用意してくれてよ。おら、どけよクソアマ。言っとくが、追ってきたらこいつの指が一本ずつ無くなっていくぜ? 手足の指が無くなったら次は目から順に身体をえぐる」


 正義鞍馬に向かって、人質を見せながら凄む悪役鞍馬。

 台詞にあった指を千切るという脅しの為に、人質である風音の手を掴んで、指を一本摘まんで見せる。

 ついでに風音の首に回していた左手で顔面を掴んで、中指で目尻の辺りをコンコンと叩いて見せる。目を抉るという脅しだろう。


風音(ん? 鞍馬?)


 棒読み鞍馬とは違って、滅茶苦茶悪役っぽい人物になり切っている鞍馬。

 ・・・が、これらの台詞と動作が風音が見ている台本と少し違う。

 悪役鞍馬の台詞は「どけよクソアマ」までだ。

 その後の脅しと動作は鞍馬が勝手に追加している。

 これは・・・?


 倒れている先輩を見ながら、怒りに震える鞍馬。


鞍馬『なんてひどい事を・・・。許せません。 喰らえ、正義腹パンチ!!』


風音(正義腹パンチ・・・)


 ・・・・・・


悪鞍馬『うぐっ・・・。参りました・・・やはり悪が栄える事は無いのか・・・』


 ゆっくりと血を吐いて倒れる悪鞍馬。

 解放された人質風音が鞍馬に駆け寄る。


人質風音『ありがとう強くて格好良いお姉さん。そっちの男の人とは人類としての格が違うね!』


 なんだこの台詞。

 あの人だって助けに来たんだから、そこまで言う事無いだろうに。って思いながら喋る。


鞍馬『いえ、あなたが無事で良かった』


 優しげな表情をする鞍馬。

 キラキラした目で鞍馬を見る人質風音。


 そこまで。


 と眼前に文字が出る。


 ここまでの流れにあまり疑問を抱いていない風な鞍馬と、ちょっと真剣な表情で考え事をしている風音。


風音(いやこれ・・・なんで着替えを・・・)


 そんな二人に笑顔で近付くバスカ。


バスカ「まぁ大体良かったんだが・・・いちいち着替えをはさむのは何とかならないのか?」


風音「あんたも思ってたんかい!!」


 何よりも先に、こっちが言おうと思ってたやつだそれは。

 どんだけ余計な時間をくったか。


バスカ「そりゃそうだろ。 再開の際の指示の出し直しが面倒なんだよな」


風音「なんでこっちが文句言われてるんですか。だってそういう指示が無かったでしょ。普通に次のシーンの台詞と振り付けが出てきましたけど?」


バスカ「いやこっちは台本を作って、そのまま流してただけだ。そこは君等が自分の判断で、今の服装のシーンだけを先撮りして、改めて着替えてもう一度今のシーンを撮ると思ってたんだよ。でもなんか着替え始めるから・・・順序通りにやった方が良い演技が出来るのかと思って、黙ってやらせてみたよ」


風音「疑問に思ってたんだったら止めて下さいよ!!」


 指示無しで流れに沿った台本が出てきて、すぐ近くに着替え室が用意されていたから、その都度着替えろって事かと思っていた。


バスカ「まぁいい演技が出来てたんだから、次もこれで行こう。別撮りをして演技に支障が出たら困るしな。 君達が思っている以上に、一発で終わるって珍しいんだぞ。普通は同じシーンを何回も撮るんだ」


風音(それは単に、このやり方に問題があるんじゃないのかな)


 その場で台詞が出てくる形式って。

 紙でも電子でも良いから、台詞を書いた台本を先にくれよ。


バスカ「風音君も初めてって聞いてた割には良く出来てるが、特に鞍馬さんが良いねぇ。まるで別人のようだったよ。迫力のあるアドリブも良かったねぇ」


鞍馬「別人が宿っているようだ、とよく言われます」


 満足そうに頷くバスカ。


風音「いや・・・別撮りでも演技は変わんないですって」


 嫌な前例を見せてしまった。

 これ最後のシーンで子供服と私服を着替えるシーンの連発にならないだろうな・・・。


 犯人が逃走している最初のシーンや欠けているシーンを撮り終えてから、一回シャロン本部に戻る。


 早速次のシーンスタート。


 私服に着替えてシャロンを出る。

 本部を出る風音に、後ろから声を掛ける鞍馬。


鞍馬『レオ先輩、待って下さい』


風音『おや、鞍馬。今日は君も昼までだったか』


鞍馬『そりゃそうですよ、一ヶ月間デュオなんですから。今週のシフトは先輩と全部同じじゃないですか』


風音(この人レオって名前だったのか。鞍馬は鞍馬のままなんだな)


 多分風音はブラックリスト入りしているので、そのままの名前じゃ駄目だろうという判断か。


風音『じゃあ昼ご飯でも食いに行くか? 初めての犯人逮捕記念に、おごりで好きなものを食わせてやるぞ?』


鞍馬『いえ、実は今日はお弁当を作って来たんです』


 急に鞍馬が台本に無い事を言い出す。

 カバンから弁当箱を出しているが・・・。作ってきていたのか?

 それより、何をしてるんだ。

 ここは「良いんですか? じゃあ遠慮無く頂きますね」だろ。


 二秒くらいの沈黙。

 たったそれだけの時間が、永遠にも思える長い時間に感じる。


風音(・・・なんで止めに来ない? 何やってんの監督)


 そして目の前に文字が。


 よく分からんが、取り敢えず続けて。


 と出た。


風音(監督・・・!? どういう事? アドリブを認めるから続けろって事か? 僕はそんなのやる気無いんだけど?)


 演者のアドリブをしばらく止めずに見てみる監督も居るらしい・・・先程の事もそうだが、バスカがそのタイプか。

 いやいや止めるタイプであれよ。演技のプロがやってるならまだしも、こっちは素人なのに。


 方向修正する形で、言葉を繋ぐ。


風音『ありがとう。やはり独身だと夕食が適当になりがちでね。それは晩御飯として家に帰ってゆっくり食べさせてもらうから・・・今はそこの白猫亭しろねこていに行かないか?』


鞍馬『うふふ。先輩面白い。普段は冗談も言うんですね。 今日は白猫亭は定休日だな、ってさっき言ってたじゃないですか。さ、そこのベンチで食べましょう?』


風音(まさか・・・架空のレストランを定休日にされただと!?)


 嘘だろ。と戦慄せんりつする。


 ベンチに向かう最中。

 今現在カメラには背中が映っていると思うので、カメラからは顔が見えないし、どうせカットされるシーンに当たるこの場面で、目で会話を試みる風音。


風音(鞍馬。今会話出来る?)


 これはよく風音と警備担当のゼロアがよく使う会話法だ。

 声を発さずに目の開け方とまばたきと眼球の動きだけで会話が出来る。

 この会話法は風音基準である日本語にしか対応していない上に、かなりの訓練が必要なので、使える人はカノンでも限られるが・・・ロボットなので訓練の必要が無い鞍馬は確か覚えていたはず・・・。


鞍馬(可能ですよ)


 同じく目を動かして話す鞍馬。

 良かった。出来るみたいだ。


風音(何この状況?)


 めっちゃ早目で喋る。

 この速さの解読は多分ゼロアしか付いて来れないだろうが、鞍馬は機械だから読み取れるだろう。


鞍馬(息吹からの情報です。今日は手作りのお弁当を食べて貰うと、凄くめて貰えるらしいですね。ブラウニーさんが凄く褒めて貰っていて、それがとてもうらやましかったとか。だから食べて貰おうと思いまして)


 風音よりも高速で喋る鞍馬。

 瞬きを一回してしまっただけで五文字はすっ飛ばしてしまいそうなくらい、風音の卓越たくえつした動体視力でも解読が危ういくらいの速さ。

 でも今は助かる。次のシーンまで時間が無いし、一瞬で会話がしたい。


風音(仕事中だし、撮影中だからさ。勝手な事はやんない方が良いんじゃない? 迷惑が掛かるでしょ)


鞍馬(続行しているという事は、迷惑ではなく興味を持たれていると思いますが)


風音(いやアドリブがどうのって事だけじゃなく。 事情を知ってるでしょ? 今日は手作りの食事は駄目だよ。 機械の影響でアホみたいに叫んじゃうんだから。その弁当は今じゃなくていいでしょ。終わってから食べるから)


 二人とも瞬きの回数が尋常じゃない事になっている。


鞍馬(それは不可能です。あの監督の事です。リアリティの為に本当に食べさせるくらいするでしょう。そうすると、お腹いっぱいになってしまいます)


風音(なっても食えます。いやその前に、撮影でリアリティの為に食べるって言っても、お腹いっぱいまでは絶対食べないから)


鞍馬(空腹状態が一番の調味料と言います。先に私のを食べて頂きたいのです。それが叶えば、もしこのシーンが丸々カットになっても悔いはありません)


風音(もしじゃなくて、完璧にカットだよ。息吹の記憶を引き継いでないの? 確かに食べた時に褒めるには褒めるんだけど、褒め方がイカれてるんだから。 鞍馬に悔いが無くてもこの無駄な時間の分、他の撮影スタッフに迷惑が掛かるよ)


鞍馬(あれ、すみません。目にゴミが入ってしまって今の言葉を読み取れませんでした)


 目をこする鞍馬。


風音(鞍馬って目にゴミが入って、なんか影響あるのかい?)


 あなたロボットでしょ。

 しかし聞いているのかいないのか、何も答えず更に鞍馬の歩く速度が上がる。


 くそ・・・ベンチが近い。

 短めの言葉で提案する。


風音(やめませんか、撮影の迷惑にもなるし)


鞍馬『先輩、ここで食べましょう』


 ベンチに着いてしまった。


風音『あっちの良さげなベンチの方にしない?』


 少し遠くのベンチを指で差す。


鞍馬『うふっ、先輩ってプライベートでは冗談ばっかり言うんですね。ベンチはどれも同じですよ』


 服のそでを引っ張られて座らされる。


風音(くっ・・・)


 鞍馬が少し手前に傾けた状態で弁当箱を開け、おにぎりを一つ取り出す。


鞍馬『どうぞ。海藻かいそう入りおにぎりです』


 海藻、多分昆布の事だと思う。


風音「・・・・・・」


 おにぎりを見つめる。・・・手作りだよなこれ。

 レスタの機械のせいで、めっちゃくちゃ叫んじゃうんだろうな。


 ・・・やりたくないけど、やらないと進まないし、止めにも来ないんだろうなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ