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カノン  作者: しき
第5.5話
93/206

風音ワングランプリ? 四日目乃拾肆


 苛立いらだった様子で受付の方を向いて叫ぶバスカ。


バスカ「ちょっとそこのキミ!!」


 受付の女性を呼ぶ。


 呼ばれた女性が駆け足でこちらにやってくる。


女性「何か御用でしょうか?」


バスカ「フカム星の職員は居ないのか!」


女性「フカム星・・・ですか? 少々お待ちを」


 受付に走って戻り、パソコンを調べて戻ってくる。


女性「職員全員を検索しましたが、居ないようです」


バスカ「何故それを事前に言わないっ!!?」


 怒り狂っているバスカ。

 そしてオロオロしている受付嬢の間に、横から風音が割って入る。


風音「すみませんその・・・フカム星の人が居ないと、なんで駄目なんですか?」


バスカ「そんな事も知らないのか!」


 矛先ほこさきが風音に向く。


風音「聞いた事も無いですけど」


 はぁ~~~・・・とバスカに大きく溜め息をついて呆れられる。


バスカ「知らなかったのなら、今から言う事を今日から忘れずに覚えておけ。受付、キミもだ」


女性「はい!」


 背筋を伸ばして返事をする。かなりバスカの事を恐れている様子。


バスカ「フカム人というのはな、全身が真っさおな人種だ。もう全部青い。赤い部分が多少あるが、目と口の中くらいだ。そしてこのフカム人の大きな特徴として、人種差別に物凄くこだわる」


風音「・・・それが今何の関係が?」


バスカ「映画からドラマ。映像作品。あらゆる分野において、「映像にフカム人が一人も居ないというのは差別だ」というクレームが確実に来るんだよ!!」


風音「・・・ここは地球ですよ? 映像を生み出した場所にその人種が居ないなら、映像の中に居なくても不自然じゃないんじゃないですか? 撮影地が地球だって注釈ちゅうしゃくを入れておけば良いじゃないですか」


バスカ「そんな事ぁこっちは百万回言ってんだよ!!! それが通じねぇからフカム人なんだよ!!」


 なんと厄介な。


風音「・・・じゃあフカム星では映像作品を流さなければいいじゃないですか。フカム人が演者として普通に出演している作品だけを、提供するようにすればいいのでは・・・?」


 この動画にしても全宇宙に流すって言っても、獣人の星だったりまだまだ文明の低い星には元々流さない予定だろう。

 じゃあフカム星に流さなくても「何で全宇宙に流れてる映像がフカムだけ流れないんだ! 差別だ!」とはならないだろう。

 ・・・と思ったが。


バスカ「馬鹿か!! やってんだよそれくらいの対策は!! こっちがフカムに対して配信してなくても、勝手に見てクレームをつけてくるんだよ!!」


 めっちゃ叫ぶ。一階で仕事をしていたほとんどの職員がこっちを見ている。


鞍馬「ちょっと・・・よろしいでしょうか?」


バスカ「何だ!!?」


鞍馬「あくまでフカム人の事をおっしゃっているのですよね? 別に他意はありませんよね? 例えばこの地球の特定の人種や思想に対して、間接的にメッセージを送っていたりなどは?」


バスカ「フカムの話に決まってるだろうが!! そういう話をしてるんだから!! 今この星の何が関係あるんだ!? どういう趣旨しゅしの質問だそれは!!?」


鞍馬「いえ・・・今確認しておいた方が良いような気がして。この話に地球の事情は一切関係無い。それなら結構です」


 安心した様子で鞍馬が引っ込む。


 バスカがしばらく考える。


バスカ「・・・ちょっとキミ!」


 怒られてシュンとしている受付嬢を再度呼ぶ。


女性「はい!」


 ビビりながら返事をしている受付嬢。


バスカ「暇な職員と青いペンキを探してこい!!」


女性「探してきます!」


風音「ちょっと待て、何する気だ」


 駆け出そうとしていた受付嬢の肩を、風音が掴んで止める。


バスカ「何故邪魔をする!?」


風音「何をしようとしてたのか詳しくは聞きませんが・・・。多分今やろうとしてたやつが一番怒られます。・・・CGにしましょう。後で架空の人物をCGで入れましょう」


 他星の技術を借りなくても、地球の技術でもそれくらい十分可能だろう。


バスカ「馬鹿か! あいつらしょうもない事だけは必死になる奴等だぞ!! 映像の解析かいせきくらい平気でしやがるんだ!! 映像を解析されて後でCGだったとバレたらどうなる!? 何故フカム人だけCGなんだ差別だ迫害はくがいだと、クレームの嵐だろうが!」


風音「・・・・・・」


 もう何を言ってもクレームクレームって・・・。

 でもペンキ案だけは避けた方が良いような気がする。


 頭をフル回転させる。


風音「・・・じゃあ、ここに居ない全人種をCGで入れ・・・てみます? 有翼ゆうよく人種や植物系・・・」


 風音もキョロキョロと周囲を見る。


風音「明らかな虫型の人も居ませんね。あと目が多い人種、腕が四本の人種・・・とか。全員さりげなく配置すれば、あとでフカム人がCGだった事がバレても「全ての人種が仲良く働く職場をイメージして作った映像です。しかし全ての人種を集めるのは現実的に不可能だったので、差別無く全ての人種がCGで参加するという形にしています」って回答するのはどうでしょう?」


 バスカが考え込む。


バスカ「いいね!!」


 超笑顔。


バスカ「おいキミ、もういい。持ち場に戻れ」


 受付嬢に言う。


女性「はい。失礼します」


 チラッと風音の方を見て、会釈えしゃくをしてから帰る受付嬢。


 早速ブツブツ言いながら考え出すバスカ。


バスカ「・・・その案で行くなら逆にあのベイル人の女性は邪魔だな・・・退場しておいてもらおうか。・・・敢えて何人かアルメ種のCGも入れて・・・」


 辺りを見回し時々指示を飛ばしながら、構図について考えている。


 しばらく二人は無言で待つ。


バスカ「よし!! おおむね完成形が見えた!! じゃあお前達、開始位置につけ!! パトロールに出発するシーンだ!!」


 特殊なコンタクトを付けているから、立ち位置が赤く表示されているのでそこに立つ。


 早速出入口前に並んで立ち、ゆっくり歩きだす。

 こういうゆっくり歩きだす、とかいう指示も文字になって目の前に現れている。


 そして最初の台詞が風音の目の前に浮かぶ。

 それを言われた通り、。カウントが0になった瞬間に読み始める。


風音『街が俺を欲している・・・早く出発しないとな・・・』


 一言目からもうキツイ。


風音(この発言から始まるのか・・・)


鞍馬『街から欲されているなんて、なんて素敵しゅてき


 風音にもたれかかる鞍馬。

 何故か棒読みの鞍馬のままだが、今はそこを気にしている余裕も無い風音。


風音(ヤバい・・・キツイ・・・)


 何回も疑問に思うけど、そもそもなんで台本が無いんだよ。このシステムは改善の余地があるだろう。

 その瞬間になるまで自分の台詞が分からない。

 これって芝居をするうえで、あり得ないシステムじゃないか?

 直前まで台詞が分からないから、感情の入れ方が本当に分かりにくいし。


 それでもやり直し覚悟で精一杯やってみる。


風音『おいおい。職場での男女の馴れ合いは御法度ごはっとだ。りんとして隣に立ってこそ、俺のパートナーだろ?』


 鞍馬が離れて姿勢を正す。


鞍馬『先輩・・・素敵しゅてき・・・この新人殺し・・・』


風音(こいつ先輩だったのか・・・。新人を引き連れて、街が俺を欲してるとか言ってたのか・・・)


 純粋に嫌だな、そんな職場。


 そしてドアをくぐった辺りで。


バスカ「はいそこまで!!」


 二人が振り返る。


バスカ「大体問題無かったが・・・鞍馬さん。 何故君はそんな棒読みなんだ?」


風音(今頃突っ込んだ・・・)


 最初の台詞からずっとそこに触れないので、気にしていないのかと思っていた。

 鞍馬も鞍馬だ。

 風音の想定では撮影が始まったら、妹三人の誰かと交代すると思っていた。

 なのに始まってもロボット丸出しの棒読みのままだし。

 正直真面目な作品で、これは駄目だろうと思っていたところだ。


鞍馬「よくぞ聞いて下さいました。 私には明るい性格や勝ち気な性格や落ち着いた性格など、自分の中にバリエーションがいくつかあります。なので今日は一日そのどれかで行こうと予定していたのですが、いくつか配役があると知り、恋人役は敢えてこの斬新ざんしんなキャラクターで良いかなと判断しました」


バスカ「メインにロボットを前面に押し出した斬新なキャラクター・・・なるほど・・・。治安組織のロボット職員の割合から考えると・・・今まで無かったのが不思議なくらい、あってもおかしくない設定か・・・」


 考え込んでいるバスカ。


風音(え・・・? 怒るのかなと思ってたけど、感心してる? まさかこのまま続行するつもりじゃないだろうな・・・)


 そしてハッと我に返るバスカ。


バスカ「調子に乗るなっ!!」


 バスカの怒号が響く。

 やはりここは怒るようだ。


バスカ「素人がキャラ設定を考えるだと? この業界人気取きどりが!! 貴様俺より出来るつもりじゃないだろうな!!」


 ちょっと風音の予想したのとは違う方向性で怒っている。


鞍馬「いえ。先程からのバスカ氏の多彩たさいな態度の使い分けを見て、思いつきました。 初めてのお仕事なので、少しでもお役に立てる様にプロから技を盗もうと努力した結果です」


バスカ「俺を参考に・・・?」


 そう言われて、急に冷静になったバスカ氏。


バスカ「あ~~~・・・やっぱり俺からは出ちゃうか~、そういう斬新な発想のヒントが。 監督側だから、そういうタレントを超えちゃう部分は隠さないと駄目なんだけどな~。 ・・・参ったね、いつもこうだ」


 困った振りしてニヤついている。

 そしてしばらく考えて。


バスカ「まあいい。今回は新しいものを作ると決めたからな。興味を惹く掴みとして良いかもしれない。このまま行こう」


風音(良いのかほんとに・・・)


 これに関しては鞍馬の味方は出来ないな・・・と思う。


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