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カノン  作者: しき
第5.5話
92/206

風音ワングランプリ? 四日目乃拾参


 渡された台本の概要がいようはこうだ。


 まずは街をパトロールする二人。

 互いに気のある関係である事が暗に明かされる。

 そして街で事件発生。凶悪犯が街の住民を人質に取り、調子に乗っている。

 それを華麗に倒し、被害者達から感謝され帰路につく二人。


 仕事が終わるとプライベートの時間。

 食事に行って、楽しそうな雰囲気を出す。このギャップが重要。

 治安部隊職員も、普段は普通の人なんだよ。のアピール強めで。


 逆に言えば。 そう。普通の人達が使命感を持ち、街の皆を守る為に頑張っているという事。

 それがいかに尊い事かという主張。 ←このアピールが大事。


 いつしか結婚していた二人。

 自分の子供達という、守るべき存在も増えた今。


 今日も街を守り続ける。 ←逆光の中、子供達に手を振られながら家から出勤する二人。


 おわり。



 読み終わった風音から疑問が出る。


風音「すみません、ちょっと疑問があります。 これって何人出演するんでしょう?」


 自分達二人と? 犯人と人質? 子供達?

 聞いていた話では、出演するのは二人だけのはず。

 もちろん常に周囲に人が無人なのは不自然なので、エキストラは居ると聞いていた。

 治安組織の現職員は、映像作品に出演してはいけない。というのは原則ではあるものの、演技者ではなく背景に映る分には構わないという事らしい。

 だからここシャロン内での撮影が可能なのだそうだ。

 でも今の台本は、背景の人以外に必要な人物が何人かいる感じだ。


バスカ「事前に聞いとらんのかね!? 事前にこれから始める仕事の事を調べておくのは、社会人の常識だろうが!」


 バスカから怒号どごうが飛ぶ。


風音「誰向けの動画なのかとか、大雑把おおざっぱにしか聞いてないですよ。詳細は当日聞けるって聞いてましたから。それにシャロンの仕事の内容なんてどれだけ調べても表に出て来ないんですから、そっちから教えてくれないと事前に調べようが無いじゃないですか」


 立て続けに鞍馬も。


鞍馬「事前に調べておくのが社会人の常識なのですね。 なら私は先程、撮影監督でありながら演者の顔と性別すら把握はあく出来ていなかった人を見た気がするのですが? 彼は社会人失格なのでしょうか?」


バスカ「くっ・・・」


風音「・・・・・・」


 今の鞍馬の言い方に、やはり違和感を抱いた。

 怒っている?

 口調にこそ感情的なものは出ていないが、今の言い返し方・・・。


バスカ「口の減らない・・・。 まぁいい。 出演者は全部君達でやる」


風音「はぁ・・・全部。 全部っ!?」


 え? 子供おるで? ん?

 台本を二度見する風音。


鞍馬「子供達というのはどうされるのですか?」


 風音が思っていた疑問を、鞍馬が尋ねる。


バスカ「普通に君達が子供服を着てやるんだよ。 やはり君達も見た事無いのか? 演者全てを数人でやる映像やら映画やら宣伝やら・・・」


風音「無くは無いですけど・・・」


 そういうのって大体コメディ系が多い気がする。


風音「え? このPR動画ってコメディタッチのものを作るんですか?」


バスカ「いや違う。大真面目な作品だ。 ・・・しかし少しだけ見直したぞ。君達はこの手法を知っていて、コメディでよく使われるというのも知っているのか」


風音「いや・・・誉められるような事でも無いですけど」


 古くからある手法だろう。

 よくあるネタ系のコマーシャルなんかでたまに見かけるやつ。

 一人か二人の人が服装や髪形を変えて老人や子供に扮し、別人というていで複数人を演じる系の。


バスカ「意外な事に実は現在に至るまで、他星ではこの手法があまり知られていない。 別の人の役は別の人がやるものだという固定観念こていかんねんの元に、映像作品が作られている星がほとんどなんだ。 私の様にあらゆる手法に詳しい者や、元々当たり前の様に知っている君達のような者からすれば、本当に意外に聞こえるかもしれないがな」


 さっきから偉そうな物言いばかりする人物だったが、こういう話になると声がはずんでいる。

 常にこういう話し方の人なら話しやすいのだが。


風音「へぇ・・・。まずは見て貰える事が大事だから、新しい手法で興味をくって事ですか」


 諸刃もろはだと思うけどな。

 上手くいけば初めての人からは面白いと思って貰えそうだし、知っている人からは「真面目な作品でえてこうしたのか~」って思って貰えそう。


 しかし現実はそんな甘くないだろう。

 初めて見る人からは、奇異きいな目で見られたりとか。そして知っている人からは、ネタ動画として扱われたりしそう。


 そんな考えの風音とは裏腹に、バスカは満足そうに風音の発言に大きく頷いている。


バスカ「そうだ。今回は興味を惹く事が一番の目的だ。何故なら治安組織のPR動画なんか、普通誰しも興味が無く、目にしたところで全部見ようと思わないからな。 ・・・しかし理解が早いねキミ。助手になるか?」


風音「ぜっ・・・いえ・・・得意分野ではないので遠慮しときます・・・」


 絶対嫌です。という言葉を何とか飲み込んだ。

 この人と会話が弾んで、あまり気に入られるのも考え物だ。


バスカ「じゃあ早速行ってみようか。まずはパトロールだ。この場所から外に出るシーンからだな」


風音「え? 台詞せりふとかどうなるんですか?」


バスカ「あぁそうだった。これを付けろ」


 机の上にコンタクトケースを置く。


風音「コンタクト?」


 元々目が良いので、こういうのに頼った事が無い。


バスカ「付けた事が無いのか? 最近のは初めてでも無痛だから安心しろ。既にコンタクトを付けてるなら上からでも付けられる」


 言われた通り付けると、目の前に文字が浮かぶ。


 見えているか?


 と書かれているようだ。

 ・・・が、レナ語と呼ばれる宇宙人たちがよく使う共通言語で書かれている。


風音「なんか文字は見えてますけど、僕は日本語じゃないと読めないんで、レナ語から日本語に変えてもらっても良いですか?」


バスカ「そうか。これでどうだ?」


 バスカが手元で携帯をいじると。


風音「あぁはい。大丈夫です。見えてます」


鞍馬「こちらも問題ありません」


バスカ「そうか。じゃあ随時ずいじこちらから台詞とそれを読むまでの秒数を出すから、数字が零になった時に文字を読み上げてくれればいい」


風音(えぇ? そんなやり方? そんなやり方素人しろうとには無理だろ・・・)


 事前にどんな流れで、どんな台詞を喋るのかを知ってないと感情を入れにくいだろ。

 何度もやり直す前提のやり方だろうか。

 まずはやらせてみて、駄目な部分を指摘して修正していくみたいなやり方か?


 風音がこのやり方に心の中で愚痴っている間、バスカは周囲を見ている。

 そしてしばらくして何か不満でもあったのか、みるみる機嫌の悪そうな表情に変わり大きく舌打ちをした。

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