風音ワングランプリ? 四日目乃拾弐
ウェルズ「あれ? これテトラが付けたのか? なんで?」
急に現れたテトラに驚いているウェルズ。
風音「そりゃ面接の手伝いじゃないの?」
テトラ「違う。ウェルズはいつもお客様に失礼な事を言うから、監視してただけ。ウェルズの評価が下がると、こっちにも影響が出るから」
そのお客様である鞍馬がフォローする。
鞍馬「ご心配なさらずとも、とても良い方でしたよ」
ウェルズ「ですよね~。もっと言ってやってください」
鞍馬に褒められて調子に乗るウェルズ。
テトラが鞍馬を睨め上げる。俯いていたせいで前髪で隠れていたテトラの目が、風音達の方からも少し見えた。
テトラ「ふんっ。 ・・・行くよウェルズ。もう仕事は終わったでしょ」
ウェルズ「いや、あの人来るまでもうちょっと時間あるだろ? もう少し話をしていたいんだけど」
テトラがウェルズの耳を引っ張る。
テトラ「立て」
ウェルズ「あ~はいはい分かったから耳引っ張るなって。 鞍馬さん、是非ともまたお会いしましょう」
鞍馬「ええ、機会があれば是非」
ひらひらと笑顔で手を振るウェルズに合わせて、鞍馬も表情を作って手を振り返す。
それと同時にウェルズの腹にテトラの膝蹴りが入る。
ウェルズ「ぅぐっ・・・!」
テトラ「職場で接客中にヘラヘラしない。規則を忘れたの?」
ウェルズ「・・・規則ったって、そんなの建前だろ。シャロン内では知らない客相手の時は警戒しろって意図の規則だろあれは。風音君なら知り合いなんだから、その規則は関係・・・ぅぐっ!」
再びテトラの膝蹴りが腹に入る。
テトラ「そこの女は初対面だろうが」
ウェルズ「知り合いの連れも例外の範疇だろうよ・・・。大体なぁ、長官だって来客と談笑してる事多いじゃねぇか。 そんなの律儀に守ってんのなんて、ジルさんくらいだよ」
そんなウェルズの抗議も聞かず、そのままその場を離れようとするテトラと、引っ張られながら付いて行くウェルズ。
少し進んだところで、風音達に向かって振り返る。
ウェルズ「じゃ、風音君また今度な~。 こないだの殺人事件ありがとな」
風音「あぁまたね。 何で注意された傍からヘラヘラ出来るんだよあんたは。 そうやってこっち見て笑ってると、また蹴られるよ」
テトラは特に動かず、そしてこちらを振り向きもせずウェルズの別れの挨拶を待っている。
笑顔で別れの挨拶をするのは、特に問題無いという事で許されているのだろう。
ウェルズ「鞍馬さんも、またね~」
鞍馬「はい、またいつか」
そしてテトラの膝蹴りが、ウェルズの下腹に綺麗に入る。
テトラ「ヘラヘラするな。お前は規則の一つも守れないのか」
別に許されている訳ではなかったようだ。
ウェルズ「痛ったいなぁもぅ・・・蹴る事無いだろ。大体テトラは規則規則って厳しすぎるんだよ、こないだだって・・・」
と、ウェルズが相方に愚痴りながら去って行った。
風音「・・・・・・」
何となく無言でその二人の背中を見送っていると。
鞍馬「・・・おそらく同じ事を考えていると思うのですが」
風音「うん。ウェルズが来客に失礼が無いか、監視してたって言うけど・・・」
鞍馬「彼女の方がよっぽど失礼でしたね」
睨まれた上に、鞍馬の発言は文字通り鼻であしらわれた。
最終的には「そこの女」とか呼ばれる始末。
風音「テトラさんにとっては大事な仕事のパートナーだからね。ウェルズが誰かと仲良くしてるのが腹立つとかかな?」
鞍馬「あぁ・・・そういう事ですか。私はそういった感情に疎くて。彼女はウェルズさんを誰かに取られたくないのですね」
風音「多分。あの人友達少なそうだし。ウェルズが居なくなったら寂死しそう」
結構酷い事を言う風音。でもこの前シャロンで出会った時も急に殴り掛かられたし、言う権利はあると思っている。
鞍馬「友達? あぁそっちですか。ウェルズさんに惚れているから取られたくない、ではなく?」
風音「それは無いんじゃない? そういうオーラは感じなかったけどな」
鞍馬「さすが艦長。そんなオーラを見る事も出来るのですね」
素直に感心する鞍馬。
風音「なんたってあれだけの人数を束ねるカノンの長だからね。この人が誰に惚れてるなってのは、一目で分かるってもんだよ」
・・・などと、カノン乗組員の誰しもが耳を疑うような戯言を抜かしていると。
「君達か。今日の撮影の演者は」
前方から男が声を掛けてきた。
ぼさぼさの髪の毛にサングラスに髭面の、小汚いイメージの男性。
中肉中背の40代男性くらいか。
髭面って格好良いのと小汚いのに分かれるが、その境目はどこなのだろうか。
それは髭を剃っていなくても清潔感が感じられるか否か。だから服装や見た目の手入れを怠っている人が髭でお洒落に挑むなんてもっての外。
・・・なんて意見もあるがそれは建前で、やはり元が格好良いかどうかが大きな要素か。
普通にワイシャツとジーパン姿で、街中ならともかくここシャロンには似つかわしくない格好。
「私が監督のバスカだ。まずは立ちなさい」
二人が立ち上がると、頭からつま先までじっくりと観察される。
バスカ「男性と女性を注文したはずだが? 男性はどこにいる?」
風音「僕が男性です。よく間違われるんですけど」
風音は女性と間違われるとムカッとする。よくある事なので我慢はするが。
ただこの男は本当にここの職員なのか? と、心の中で愚痴る。
シャロンには風音に関する資料なんかいくらでもあるんだから、せめて風音の情報くらい先に目を通しておいてほしい。
一応持って来ていた二人のプロフィールが書いた紙を渡す。
バスカがザッと資料に目を通す。
バスカ「鞍馬・フォクス・・・ロボットか。 まぁそれは問題無いが・・・君が音羽・風音君? じゃあ君か。この女性をキャスティングしたのは」
鞍馬の事を言っている。
風音「はい」
バスカ「馬鹿野郎っ!!」
バチィッ!!
乾いた音が響く。
バスカが風音に向かってビンタを繰り出していた。
でもそれは風音が腕で防いでいて、今の音は鞍馬がバスカの横っ面を平手で張った音だ。
サングラスが吹っ飛んで、つぶらな瞳が見える。
意外と愛嬌のある顔をしていた事が判明した。
鞍馬「急に暴力を振るうなど、許されませんよ」
鞍馬から警告が入る。
ここフェクトでは、先に手を出されたらやり返しても良い。
ルールに則った上での行為だ。
だから治安組織の建物内という、本来一番暴力を振るってはいけない所でも堂々としたこの態度。
バスカ「ひや・・・ひょっろ・・・まっへ」
まだ少しダメージが残っているようだ。
叩かれた頬をさすっている。
そしてしばらくして、落ちたサングラスを拾って付けてから。
バスカ「いきなり叩くとは、どういう教育を受けて来たんだ君は!」
鞍馬「それはこちらの台詞です」
一歩も引かない鞍馬。
風音「あの・・・何が馬鹿野郎なんですか? 何か鞍馬に問題でも?」
バスカ「問題大有りだろう! なんだこの体型は!」
風音「何か問題でも?」
露骨なモデル体型なのが、逆に女性から反感を買うから駄目とかか?
もっと平均的な晴嵐とかワグナさんの方が良かったか。
バスカ「あのな、君はすでにキャスティングが決まってたんだろう!? じゃあもう一人は太った人を連れてこないと駄目だろう!」
全然予想と違う事を言われる。
風音「え? どういう理由で?」
バスカ「見栄えだよ見栄え! 体型の良し悪しってのは、地域によって感覚が違う。 特に大きく二つに分けられるんだ。鞍馬さんのような体型を美とする文化と、逆に太っているほど良しとする文化と。 すでに出演が決まっていた君が瘦せているのだから、もう一人は太っていないと、特定の地域の人達が見てくれないだろ!」
確かに全宇宙各所に流す予定なら、一方の趣向に合わせた体型の人しか出て来ないのは普遍性に欠けるか。
言われてみれば、逆に登場する人物全員が体重100キロ超級の映像作品は違和感が確かにある。
思ったよりまともな意見だったが。
風音「先に言っといて下さいよ、そんな事は。誰でもいいから二人って聞いてましたよ?」
こちらも正論で返す。
バスカ「自分で気付けこのくらい!」
風音「無茶言わないで下さいよ・・・じゃあどうしましょう。今日はやめときます?」
バスカがわざとらしく大きな溜め息をついて。
バスカ「いやもういいよ君達で。あとでどうにかするから。 私も忙しくてね、あまり長くこっちに居られないし。とにかくまず台本を読んでくれ」
五ページくらいの台本を机に置いて、どかっとソファに座るバスカ。
取り敢えず言われた通り、二人が黙って台本を読む。




