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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 四日目乃拾壱


風音「はっや。もうちょっと会話してみようよ。普段物静かだけど、意外と零武れいんも可愛い所あるよ」


 こんな態度なのにすぐ泣くし。


 零部が再び正面を見るのをやめ、風音の方をジッと見つめる。


鞍馬「どのあたりが可愛いのでしょう。メモしておくので事細かにお願いします」


 どこからか紙を取り出し「鞍馬へ。零武本人に渡す事」と書く。

 

ウェルズ「風音君。そろそろ鞍馬さんに戻して貰っていい?」


 確かに風音としても、今こんな事に時間を使っている場合ではない。


風音「ごめん鞍馬。今仕事中だから、一旦鞍馬に戻って貰える?」


 鞍馬が自分が座っている位置から腰を浮かせ、風音の方に近付く。


鞍馬「お断りします。今こそ零武、して参ります。 さぁ早く零武の可愛い所百個、言ってみましょう」


 触れ合うほどの距離まで風音に近付きながらそう言う。と同時に鞍馬が目を瞑る。


 目を開け、手に持っていた紙片しへんをクシャッと丸める。


鞍馬「戻りました」


 鞍馬が元の座っていた位置に戻る。


風音「おかえり」


ウェルズ「マジで帰ってきてくれてありがとう」


 別の人格中でも基本的に、鞍馬の人格が奥底に引っ込むわけではない。

 今の様に鞍馬に戻る必要がある時に、別人格が戻る事を否定した時などは、遠慮なく体の主導権を取り戻す。

 当たり前だがこの体において、一番支配力があるのが鞍馬だ。


ウェルズ「今の子は何なんだ?」


 息吹以上の風音信者に見えた。


風音「最近僕に対してストーカー寸前の事をしてたのが発覚した子で」


ウェルズ「一番要らんわそんな奴! そんなのを鞍馬さんに入れるなよ! けがれるわ!」


 風音に大声で注意する。


鞍馬「零武は自分本位な子なので、会話にならなかった事は誠に申し訳ございませんでした。 ウェルズさんのお気持ちは分かりますが、どうか妹を悪く言うのはやめて下さいませんか?」


ウェルズ「申し訳ない! マジですみませんでした!」


 すぐ頭を下げる。

 そして顔を上げて風音に提案する。


ウェルズ「ちょっと提案なんだけど。この三人の人格は消さないか? 鞍馬さん本人の意志と違う行動を取り過ぎな気がする」


 風音も神妙しんみょうな顔つきで頷く。


風音「言いたい事は分かるけどね。 自分の意志と違う行動は取りたくないのが、人として普通だし。 もし鞍馬が自分の感情を持ってたら、ちょうど僕もウェルズと同じ対応を提案しようとしてたよ。 でもそうじゃない現状、鞍馬は三人のメンテに必要な存在だから無理かな。あの三人ってその辺の人格持ちAIとは、比べ物にならないくらい超高度なやつみたいでね」


 そこら辺の詳しい事情は省いたが、他のロボットとは比較にならない程思想や行動が人に近い。

 そのメンテナンス役が鞍馬だ。


 説明が終わって、鞍馬が口を開く。


鞍馬「ウェルズさん」


ウェルズ「はい」


 急に呼ばれて緊張している様子。


鞍馬「お気遣い有難う御座います。あなたはとてもお優しい方なのですね」


ウェルズ「いやいやそんな・・・」


 そう言われるとちょっと罪悪感が出るウェルズ。

 さっきの「三人の人格は鞍馬本人の意思と違う行動を取っているから、消した方が良いんじゃないか」という趣旨しゅしの発言。


 ウェルズとしては単にこんな(ウェルズにとって)完璧な子が、既に風音になついている人格に体を乗っ取られている事にモヤモヤしたから言った言葉だ。ぶっちゃけ嫉妬しっとだ。


 しかし鞍馬は「本人の意志と違う行動を取らせるなよ」という意味合いの、正義感からくる気遣いだと解釈しているらしい。


鞍馬「ですがこれはとても重要なお仕事ですし、私は幸せですよ。愛しい妹達の面倒を毎日見られるのですから」


ウェルズ「おいおい何だこの超優しい人・・・。俺の・・・邪悪な心が洗われていく・・・」


風音「邪悪だって自覚はあったんだね」


 ただ、鞍馬は本当に本心でそう言っているのだろうか?

 本心で言っているのならいいが。

 感情が生まれている事で別人格の存在に対して、葛藤かっとうが生まれたりしていないだろうか。


風音(せっかく今日は一緒に仕事するんだし、その辺が分かればいいけどな・・・)


 注意深く観察しておこう。


風音「・・・さて、じゃあ息吹行ってみようか」


鞍馬「え? 先程ウェルズさんが、息吹は知っているからいいと仰っていませんでしたか?」


 言っていたが・・・ウェルズに向かって尋ねる。


風音「言ってたけど・・・ほんとに良いの? 息吹も見とかないと駄目じゃない?」


ウェルズ「え? 別にいいよ。 俺もう知ってるし。今更鞍馬さんの身体で息吹さんを見てもね」


 風音が首を傾げる。


風音「・・・鞍馬には自然体でいてもらいたかったから黙ってたけど、ウェルズはこの会話が誰かに全部聞かれてる・・・のは当然知ってるでしょ?」


ウェルズ「え? マジで?」


 ・・・知らなかったのか。


風音「こうやってえりの後ろの方触ってみ?」


 風音が自分の襟を探るようなジェスチャーをする。


 ウェルズが自分の襟を探る。


ウェルズ「あ、なんかある」


 小さな機械を発見し、取り外す。


ウェルズ「あぁこれ、盗聴器だな。誰がこんな・・・」


風音「仕事着の上からって事は出勤してから付けられたって事でしょ。 じゃあ付けたのはシャロン関係者なんだから、撮影の担当者って人としか考えられなくない? ウェルズを使って鞍馬の面接をしたんじゃないの?」


 という風に、機械を見つけた時から風音はそう思っていた。


ウェルズ「いやあの人はそんな賢くない」


 そう即答するウェルズに呆れる。


風音「いやだから・・・さっきのジルの事もだけど、学習しようよ。これでもしほんとにその人だったらどうすんの。盗聴器それまだ生きてんでしょうよ。今も聞かれてるよ?」


ウェルズ「会えば分かるよ。こういう事が出来るような人じゃないって。って言うかさぁ、これ仕込んだ奴も誰か知らないけど、こんなの使ってる時点で馬鹿だろ? この建物内に居てこの会話が聞きたいなら、場所指定が出来る集音器で良いだろ。証拠残んないし」


テトラ「馬鹿で悪かったわね」


 後ろからウェルズの頭をポコっと殴る。

 ウェルズが振り返ると、そこには普段よく組んでいる仕事の相棒が立っている。


 テトラという名の陰気いんきな女性職員。

 普段からずっとうつむいているし、そのせいで大体いつも顔の半分以上が髪の毛で隠れている。

 明るいウェルズとは真逆で、よくこの二人で上手くやっていけてるなというのが周囲からの評価。


 どうやら盗聴器は彼女が付けた物のようだ。


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