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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 四日目乃捌


 風音が所有しているもう一つの宇宙艦。炎火ほのか

 人工島フェクトのど真ん中に停泊している炎火ほのか前で、階段の手すりにもたれかかりながら考え事をする風音。

 そこに鞍馬が訪れる。


鞍馬「おはようございます艦長」


 まるで棒読みのような、声に抑揚よくようの無い口調の鞍馬くらま

 彼女もアリエイラの従者の一人。ロボット四人姉妹の長女に当たる。

 眼鏡をかけた黒髪短髪の女性型。普段から無表情。背は176ある風音よりちょい高めくらいで、妹三人より頭ひとつ以上高い。

 そして姉妹唯一の巨乳。というか胸だけでなくウエストも細いし、身体全体が体型に恵まれている。

 これはアリエイラの配慮はいりょから来ている。

 残りの三姉妹は感情があるからこそ、互いの体型に大きな差があっては不公平が生じると思った。

 だから三人には各々の体の大きさに見合う設定年齢における、平均的な体型にしてある。例えば胸なら小さくも無く大きくも無く。お腹なら極端にくびれている訳でも無く、お腹が出ている訳でも無く。

 しかし鞍馬だけは感情が無いので、見た目が良いとされるモデル体型でいいかとなったようだ。


 でもアリエイラの心の内はそうかもしれないが、妹三人にとっては鞍馬はれっきとした姉。

 おかげでその大きな胸が揺れる度、三姉妹の心の中では舌打ちの嵐だ。

 身長に応じた体型のせいで姉妹で一番貧乳な三女の零武れいんから「お前は走るな」と言われた事もある。


 そんな鞍馬。いつもは変形スーツを着ているが、今日は珍しく白いワンピースに麦わら帽子をかぶっている。

 この恰好が彼女のデータが生み出した「彼女役の姿」の答えなのだろう。

 

風音「おはよう鞍馬。今は多分本人だね?」


 一応尋ねておく。


鞍馬「はい」


 彼女には感情が無い。

 いわゆる規則通りに動くロボットだ。

 ただし彼女の大きな特徴として、姉妹であるロボットの息吹いぶき晴嵐せいらん零武れいんの三人の人格を自分に取り入れて使い分ける事が出来る。

 今はその誰でもなく、鞍馬本人が喋っている。


鞍馬「彼女役でのPR動画撮影という事でしたが、この恰好で良かったでしょうか?」


 ワンピースの裾を摘まむ。


風音「うん良いと思う。似合ってるよ」


鞍馬「ありがとうございます。 現時点で誰かに交代しておいた方が良いでしょうか?」


風音「鞍馬のままで良いよ」


 鞍馬がクイッと眼鏡を上げる動作をする。


鞍馬「そうですか? 私では楽しい会話は望めないと思いますよ。 ・・・ではどうしましょうね。古典落語でもやりましょうか。 え~~まいど馬鹿馬鹿しいお話をひとつ・・・」


風音「・・・・・・」


 これ本当に感情が無いのだろうか?

 姉妹の中で一番キャラが立っている気がする。

 言うなれば機転きてんく、それでいて冗談も言う親しみやすいAI。・・・の、フリをしている人間のような。


風音「いや落語は別にやんなくて良いけど・・・。せっかくだから鞍馬に聞きたい事があったんだよ。 前々からうっすら思ってたんだけど、鞍馬って本当に感情が無いの?」


鞍馬「か・・・感情・・・? 感情とは・・・一体・・・。 分からない・・・・何故私には・・・感情が・・・無い・・・」


 カクカクと頭を動かす鞍馬。


風音「完全にふざけてるよねそれは」


鞍馬「私ほどのAIになると、このような小ネタも可能です。今回の役者の件も、私にお任せ下さい」


風音「いやその件なんだけど。前々から思ってたんだよ。鞍馬の喋り方って、ずっと一定のリズムでしょ。感情表現が死んでるっていうのか」


鞍馬「感情が無いとそうなります」


 じゃあ役者向いてないだろ、っていうのは一旦置いといて。


風音「いや、そこまで低い性能のAIじゃない筈。わざと機械っぽく喋ってるように見えるんだけど」


 主人のアリエイラと喋る時もその喋り方なのだろうか? と以前から疑問に思っていた。

 風音がアリエイラとセットで鞍馬を見る時は、毎回妹の誰かが憑依ひょういしている。

 素の鞍馬とアリエイラのからみを見た事が無い。


 風音からの指摘に、無表情のまま明らかに狼狽うろたえる鞍馬。


鞍馬「ギ、ギクーーッ! そ、そんな事は無いです。私は人型ロボ。みんな友達」


風音「ギクーーって・・・そんないにしえのリアクション・・・。 本人がロボって言うなら別にいいけど」


 何故風音がそこをやたら気にするのか。


 感情の無いAIは人権が発生しない。

 いわゆる何に使っても良いやつだ。

 当然だ。データにもとづいてまるで人の様に喋り、形が人なだけで、内容はパソコンなどと同じなのだから。

 だから鞍馬は妹三人の人格の保存先、そして単純作業用のロボットとして使われている。


 ・・・が、感情が生まれているなら別だ。

 そんな前例を聞いた事は無いが、もし一般AIが独学で学習期間を経て高度(破綻はたんしていない感情を持った)AIに成長していたとすると。

 法的に人として扱わないといけないロボットに、データ保存用のうつわとして働かせるのは場合によって法に反する。

 日毎ひごと更新されていく別の人格を三つ保有させるとか、完全にアウトだ。

 そして法とかより、本人が嫌だろう。

 ちゃんと自分の感情があるのに、別の感情に乗っ取られる時間があるのって。


 喋っていると、風音達の所にサッカーボールが飛んでくる。


鞍馬「危ない!」


 自分の身を盾にするように前に出て、飛んできたサッカーボールを掴む。


 宇宙艦炎火ほのかが置いてある広場の、空きスペースで遊んでいた子供達のボールのようだ。

 風音はこの人工島フェクトが出来た時に、知り合いの大金持ちから宇宙艦二隻と空港くらいの面積の土地を貰った。

 ただでさえ土地の値段が高いフェクト。中央都市のど真ん中でこんな広い土地を個人で持っている者は、今の所風音しかいない。もう土地が余っていないから、今後も多分そんな奴現れない。


 と同時に都市部には、公園も公共のものは小さなものしか無い。だからこの広場は風音の私有地なのだが、よく子供連れの親や子供達が遊びに来る。

 そもそも炎火が治安組織の関連施設だと知れ渡っているので、この場所には悪人が近寄らないというのも親にとって安心感があるのだろう。

 炎火が置いてある場所とその付近、そして離着陸専用スペースの部分は立ち入り禁止にしてあるが、それ以外のクソでかい広場が特に立ち入り禁止になっていない。

 地主の風音が子供達の為に、トイレとか花壇かだんとかベンチとか水飲み場とか日除け等々を設置したから、最近公共の広場だと勘違いされている節さえある。

 風音すら知らないうちに、何故かバスケやサッカーのゴールが置いてあったり、治安組織の人が警備員をしていたりする。


 飛んできたボールを受け止めた鞍馬が、ボールを地面に落とす。


鞍馬「ふぅ・・・怪我が無くて良かったです」


 風音の方を見て、少し微笑む。


風音「ありがと。今日も子供達が元気に遊んでるね」


 広場の方を見ながら、優しげな顔で子供達を見つめる風音。

 鞍馬が子供達にボールを山なりに蹴って返すと、向こうの方で子供達がお礼を言っている声が聞こえる。

 風音が子供達に手を振っておく。


鞍馬「一体誰の土地で遊んでいると思っているのでしょうか。こちらに向けてボールを蹴ると、炎火に当たってしまうじゃないですか」


風音「良いよ別に。炎火頑丈だし。まぁ立ち入り禁止区域だから、ボールを拾いに来た時に警備のゼロアが飛んで来るかもしれないけど」


 子供達がアレににらまれたら、もう二度とこの場所に近付かなくなるかもしれない。

 基本彼は子供に優しいのだが、なにぶんデカいし怖い。


風音「ところで鞍馬さんや」


鞍馬「どうしましたか風音さんや」


 こういった小粋こいきな返しも出来ます。と言わんばかりの対応。


風音「さっきの「危ない」っていう言葉と、その後の「ふぅ・・・怪我が~」の辺り。普通に喋ってなかった? ちょっと笑ってたようにも見えたけど」


 普通に人と同じ喋り方をしていた。


 まるで咄嗟とっさの事だったので、演技し損ねたみたいな?


鞍馬「ギ、ギクーーーッ! なな何をおっしゃっているのですか? エラー。 エラー。 ウイルスの検索を開始します」


風音「そのギクーーてのも、もしかしてネタじゃなくて素で言ってる?」


鞍馬「・・・ナウローディング・・・」


風音「めちゃめちゃ日本風発音の英語で喋ってるし」


 これもしかして、本当に感情が芽生えている?

 意図的に感情を持つように仕向けたAIが感情を持ったという記録ならあるが、そうでない鞍馬のケースは全宇宙でも稀有けうな例だ。初めてかも。


鞍馬「判明致しました。エラーではなかったようです。 艦長の危機に、咄嗟とっさに息吹の人格が私の身体を乗っ取ったようです。 実にあの子らしい対応です。誇らしい。私の自慢の妹ですよ」


風音「息吹が? 乗っ取った?」


 仮にそれが事実だとしても、本体の鞍馬の意向を無視して他の人格が勝手に出てくる時点で、問題大有りだけれども。


 それより疑問点が多い。


風音「息吹はああいう時あんまり「怪我が無くて良かった」って言わないよ。「怪我はありませんでしたか?」って聞いてくるんだよ」


 例えば今の様にボールが飛んで来た時。

 ぶつかりそうな人を助けて自分が止めてあげたなら、その人は怪我をしなかったのだろう。

 だから鞍馬の様に「怪我が無くて良かった」が正解だ。

 しかし介護職の職業柄なのか知らないが、息吹はこう考える。

 ボールそのものは止めたが、ボールがぶつかりそうになった事で驚いて、転んだりしりもちをついたりしなかっただろうか。と。

 だから自分がボールを止めたのに「怪我はありませんでしたか?」と尋ねるのだ。


 そう指摘されて、可哀想なくらい目が泳ぐ鞍馬。

 そして追い打ちをかける風音。


風音「あとついでに言うなら、息吹ならボールを投げて返すよ」


 サッカーボールだからとわざわざ蹴って返そうとするのなんて、あの三人の妹の中には多分居ない。

 子供達の遊びのルールにのっとってボールを扱うなんて。

 これはなんならもう、姉妹の誰よりも人間くさい対応だ。


 この考察をぶつけられ、無表情ながらどう見てもあせっている様子の鞍馬。


鞍馬「それが事実であれば、現実と診断結果で矛盾が生じます。 回答不能・・・。その上で無理矢理回答を出すなら、偽息吹が出た。という事になりますね。私からは以上です。これ以上何を尋ねられてもお答え致しかねます」


 風音は息吹じゃないと言う。でも診断結果は息吹が乗っ取ったという鞍馬の主張。

 じゃあこの矛盾する二つを同時に満たす答え。


 偽息吹が出た!! これで解決!!


 って言いたいんだと思うけども。


風音「偽息吹・・・」


 じゃあ何人の人格が居るんだお前の中には。息吹、晴嵐、零武と偽息吹、偽晴嵐、偽零武の六人居んのか。


 疑問に思う所も多いが、あんまりこの話題で追い詰めても仕方ないか。

 鞍馬の観察は続けることにして、まずはシャロンに向かう事にする。

 

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