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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 四日目乃漆


 突然の風音の叫びと意味不明なレーザー放射に、レスタ以外の全員がビクッとする。

 普段笑顔を絶やさず冷静なアリエイラでさえ、目を見開いて状況の理解に全力をついやしている。


風音「このふわふわに焼けていない卵の素朴な味!!! 昨今さっこんのメディアを中心とした、行き過ぎた柔らか信仰!! ふわふわであればそれだけで至高だと勘違いした輩共やからども鉄槌てっついを下す逸品!! 柔らかい食感だけが美味しさじゃないという、料理人の鉄の意志を感じさせる!!! ん!? なんだ!? 周りに・・・周りに天使が見える!! ここは天国か!? ここまでの体験が味だけで可能なのか!!? そうか!!! 味だけじゃない・・・至福の理由は味だけではない!! 分かったぞその正体!! このパンと具材の絶妙な歯ざわり、まさに黄金比っ!!!」


 ハァハァと肩で息をする風音。

 まだ一口しか食べていない。


 状況が分かっていないブラウニーが、声も出せないでいる。

 さっきまで怖い怖いと言いながら中二病発言をしていたが、本当に恐怖を感じると黙るようだ。


 少し落ち着いた風音が。


風音「ちょっと・・・レスタ。 今の現象の説明を詳しく」


 実は風音ほんにんも内心、かなりビックリしていた。


レスタ「はい。今のが今作品の売りの一つです。作ってくれた人への感謝を伝える為に、勝手に味の感想を喋ってくれます。どうやって効果的に伝えるのか、主に風音さんの出身地でいろんな文献ぶんけんを調べましたよ。そしてようやく一つの答えを見つけました。それが今のです」


息吹「なるほど・・・作り手が感想と感謝を伝えてもらえる。それはとても大事な事ですね」


 全員の表情を見る限り、唯一息吹だけが肯定的こうていてきとらえ方をしているようだ。


 困惑気味のルミナから疑問が飛ぶ。


ルミナ「味を伝えるのに、なんで口からレーザーを吐くの?」


レスタ「それは僕に聞かれても困るよ。最高に美味しいものを食べた時、「うまいぞー!」って叫びながら上を向いてレーザーを吐きだす。ってそう文献に書いてあったんだから。同じ言葉だと文献のパクリになっちゃうから、「うまいぞー!」っていう言葉にはこだわらない様にしたんだけど、レーザーはそのまま採用したんだよ。 殺傷能力は低めだから大丈夫」


ルミナ「低めって・・・何の文献を参考にしたのよ・・・」


 絶句するルミナ。


アリエイラ「作った人へ感謝の感想を述べるにしても、大声でがなり立てる必要はあるのですか?」


 未知のものに対する耐性が強いアリエイラですら、今のには面食めんくらっている様子。


レスタ「それも文献通りですので、僕からは何とも・・・。でも美味しいという感想を素直に言ってもらえたら、作った人も嬉しいでしょ?」


 アリエイラがその作った人であるブラウニーの方を見るが、ブラウニーは嬉しいとかそういう表情をしていない。

 どちらかというと、引きって恐怖している。


 そんな事より、風音が重要な質問を投げかける。


風音「今のってさ、自分の意志で止める事は出来ないの?」


レスタ「無理ですね。感謝は相手に伝わらないと意味が無いですから」


風音「そっか・・・」


 しばらく考える。


 そしてまずは公平に、どういう体験をしたか伝える。


風音「一応ね。美味しかったのは美味しかったよ、うん。 本当に美味しかった。ビックリするくらい。・・・でも・・・」


 無理矢理機械に言わされた感想じゃなく、実際にさっきの感想通りの美味しさを体感していた。

 おそらく平凡であろう厚焼き卵サンドが、信じられないくらい美味しく感じた。


 ただ・・・。

 レスタの作った機械を見つめる。


風音「これポンコツ製造機と何が違うの?」


 あれと同レベルなくらいやべぇだろこれ。ジャンルも似てる気がしてきた。


レスタ・アリエイラ「「一緒にしないで下さい!」」


レスタ「全っ然違いますよ。百歩譲って姉さんの作品と比べられるなら、こっちもそれなりに弁論させてもらいますけどね。 あんなのとは天と地ですよほんとに。弁論の余地も無いです」


アリエイラ「その通りです。こんな心外な事はありません。比べる価値も無い事など、見ただけで分かります」


風音「あ・・・そう」


 作った機械だけじゃなく、当事者達もそっくりだなと思う。

 ブラウニーが風音の目の前にあるパソコンに映るように、メールで文章を送る。


ブラウニー『えっと・・・今のは音羽ちゃんのじゃなくて、機械の影響って事?』


 ブラウニーは普段ぼんやりしているが、これで結構察しの良い方だ。

 ここまでの会話から今この部屋でカザワンについて不用意に触れると、エンジニア達から絡まれる事を察したらしい。

 口には出さずにメールで尋ねたのはその為だ。


風音『そう』


 風音もキーボードのボタンを一つ押して、視線入力に切り替えてメールを返信する。


 レスタとアリエイラが互いを作品を遠回しにののしり合っている横で、メールで会話を始める。


ブラウニー『こういうのがカザワンとかいう大会でやりたい事?』


風音『そうだと思う』


ブラウニー『ほぼ人体実験じゃない?』


風音『ほぼ? ちゃんと見てた?』


ブラウニー『笑。 楽しい?』


風音『この子達とのコミュニケーションの一環いっかんと考えれば、ギリッギリ楽しい部類かな。 そういうの抜きで考えると、ただの僕にとっての罰ゲーム大会だと思う』


ブラウニー『じゃあなんでやってるの?』


風音『気付いたら大会の名前に僕の名前が入ってたから』


ブラウニー『歩いてたら隕石いんせきにぶち当たったみたいな事?』


風音『あぁ、近いね。 でも回避不能だったからなぁ・・・。 歩いてる時なら隕石が見えたらかわせる可能性もあるから・・・寝てる時に隕石にぶち当たったみたいな感じかな』


ブラウニー『笑。 かっわいそ。 まぁがんばれ』


 ブラウニーがソファから立ち上がる。


ブラウニー「よっし。なんかもういろいろ怖いから、そろそろ帰ろっかな。アリエイラさん。約束は守ってくださいね。今から事務室に報告をしに行って下さい。 仕事は一時間だけで良いんっすよね?」


アリエイラ「私に二言はありません。それは言った通り実行に移しますが・・・あなたは具体的に、どういったお仕事が出来るのでしょうか?」


 その問いに堂々と胸を張って答える。


ブラウニー「割と何にも出来ないっすけどね。 でもアリエイラさんとこの仕事って、どうせ機械のメンテとかっしょ? やった事無いけど雰囲気で全部出来そうな気がするから、バンバンこっちに仕事回してくれていいよ?」


 何故かシャドウボクシングをしながら、得意気に答える。

 どんな仕事でも叩き潰すと言いたいのだろうか。


アリエイラ「分かりました。ではあなたは私の部屋の機械に触れないで下さい。 ・・・では我々も御暇おいとましましょうか。風音さん。公平な判定の為に、残りのサンドイッチも全部食べて下さいね」


風音「はい・・・」


 一口であれだったのに、あといくつあるんだ? 十個以上あるぞ。だってこれ元々二人分だしな。


レスタ「え? 公平に判定するなら、僕らで風音さんの反応を最後まで見てなくていいの?」


ルミナ「いや・・・だってあんなの」


 見る方も見られる方もキツイだろう。


アリエイラ「あんなのは一度で充分。一回見れば我々の中の評価は出せるでしょう。 この後何度も体験してそれをどう判定するかは、風音さんが一人で決める事です」


レスタ「そうですか? じゃあ帰ろっかな。 風音さん、明日の結果発表を楽しみにしてます。それじゃ失礼しますね」


 今日は大人しく全員出て行く。


 一人になった風音がランチボックスを見る。

 ひとつのサンドイッチを中途半端にかじるのはやめよう。幸い一つの大きさは食パン四分の一カットの大きさだし、具はともかくパン自体は薄めなので一口で十分いける。

 一回で一個丸々口の中に入れる事で、叫ぶ回数を最小限に抑えるとして・・・。

 それでもあと12回も叫ばないといけないのか。いや幸いパン部分が薄いから、二個一ニコイチで圧縮すれば6回で済むか?


 カノンに住み始めて初めて、ドア前の防音シャッターを閉じた。


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