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カノン  作者: しき
第5.5話
85/206

風音ワングランプリ? 四日目乃陸


 尋常ではない速度でブラウニーに近付く息吹。

 そのままブラウニーが今手に持っているランチボックスに、突撃するつもりのようだ。


ブラウニー「え?」


 急に息吹に眼前まで迫られたブラウニーが、間抜けな声を上げる。


 が。

 目の前に突然現れたクッションに、息吹が顔面から突っ込む。


息吹「あれ?」


 ぶつかったクッションを抱く。

 この部屋のソファに置いてあったクッションだ。

 ソファの方を見ると、クッションが置いてあった位置にブラウニーが座っている。


 逃げるのが得意なブラウニー。

 一瞬で自分とクッションの位置を、何らかの方法で入れ替えたようだ。


 世をはかなむようなうつろな目をしたブラウニーが、芝居がかった口調でつぶやく。


ブラウニー「・・・怖い・・・。 そう、恐怖とは突然襲ってくる・・・私達はその深淵しんえんに気付くいとますらなく、飲み込まれるしかないのか・・・」


風音(あぁこれ多分、何かのアニメの影響を受けてるな・・・)


 先程からの恐怖がどうのこうの言っている、中二病発言の意味が今分かった。

 多分今ブラウニーがまっている、日常系ホラーラブコメディアニメ「フラタコーザ」の影響だろう。


息吹「面白い・・・。私からいつまで逃げ切れるか、試してみましょうか」


 再び腰を落とす息吹。


風音「何で急に暴れてんのか知らないけど、やめといた方が良いって。その場に縛り付けられたりするだけだから」


 もう一度息吹に声を掛けておく。

 ブラウニーは自分が逃げるだけじゃなく、相手をその場から動けなくしたりする事も出来る。

 普段本気を出さないだけで、元々ブラウニーはカノンでも屈指の異能力者だ。


 彼女の母星では、いわゆるサイコキネシスのような能力を使える者がたまに生まれる。

 と言っても、それほど大きな事は出来ない。

 せいぜい離れた場所にある軽い物を少し動かしたりだとかその程度だ。それでもその星では、能力を持って生まれた者達は「神に選ばれた者」などと呼ばれていた。


 しかしブラウニーだけは違った。出来る事の総量が、他の「神に選ばれた者」達とは桁違けたちがいだった。

 能力に縛りはあるものの、あらゆる事を可能にしてしまう。まるで魔法の様に。

 いつしか星中の皆から神童しんどうだと言われていたほどの逸材いつざいだ。


 何故かここカノンではブラウニーはみんなから舐められているが、ほんとは凄い人なんです。

 という事を風音だけは理解している。


 そんな彼女が逃げるつもりで事にのぞめば、捕まえられる奴なんてなかなか居ない。

 息吹じゃ一日かけても捕まえられないだろう、と風音は思っている。


 そして風音が息吹を制止したのと同時に、主人であるアリエイラからも。


アリエイラ「おやめなさい息吹。自分で質問しておいて、主人の意見を最後まで聞かない従者じゅうしゃが居ますか。 どこまで言いましたっけ? ・・・そう、自分の作品を信じ切れていないから、ヤラセなどという行為に出ようとすると言いたかったのです。 自分が用意した展開でないと対応が出来ない。つまりは機転きてんが利かないという事。これはエンジニアとしてあってはならない事でしょう? 作品の効果以前の問題で、その心根に対して大幅減点という事ですよ」


 レスタのヤラセ問題についての考えを述べるアリエイラ。


レスタ「だからやってないって言ってるのに・・・」


息吹「・・・・・・」


 主人の命令なので構えは解いたが、息吹にとってはもう、そういう低い次元の話はどうでもよくなっている。


ブラウニー「マァジで今日のあんた達の会話意味分かんないすね。本当に同じ言語を使ってるのか疑うくらい。もしかして翻訳機が壊れてんのかな?」


 目の前のテーブルに置かれてあったお菓子を食べながら、耳元の翻訳機をいじる。

 やはりいまだに、一人だけ話に付いて行けていないブラウニー。


風音「まぁでもブラウニーとレスタの反応を見る限りでは、ヤラセじゃないっぽいね。 役作りしてお昼ご飯まで作ってくれたのに、鞍馬と交代って訳にもいかないよ。今日はブラウニーと行くって事で・・・」


アリエイラ「風音さん、朝御飯がまだでしたよね? そのサンドイッチは朝御飯として食べましょう。それで彼女の親切は無駄になりません。そして役作りなら、鞍馬くらまは生まれながら四つの人格を使い分けています。役者としても適任でしょう」


風音「生まれながら役者として適任ねぇ・・・それは大きなアドバンテージではあるけど」


 考え始める風音に対して、ブラウニーの反応は悪い。


ブラウニー「サンドイッチの件はともかく、今日は久しぶりの外仕事なんすよ? キャンセルになったら、また事務室で内勤じゃないっすか。 こちとら外で遊びたい気分なんすよ今日は」


レスタ「なに子供みたいな事言ってるんですか」


 レスタの発言に対し、鼻で笑うブラウニー。


ブラウニー「坊や? 大人の仕事事情なんて、ボクちゃんには分かんないんすよ? お子ちゃまは咲桜さくらちゃんと砂遊びでもして遊んでらっしゃい?」


レスタ「あなたも頭の中が子供だから一緒に行きましょうよ。めてあげますから」


風音「これこれ、喧嘩はよしなさい」


 普段はブラウニーもレスタも基本的に優しいし喧嘩とかしないのだが、何故かこの二人が出会うと言い合いをしている事が多い。

 優しい人同士、喧嘩するほど仲が良いという事か。と風音は解釈している。


 この無駄な言い争いの間に、ブラウニーの抗議についての対応を考えていたアリエイラが。


アリエイラ「・・・ではブラウニーさんには、鞍馬の代わりに今日一日私の下で働いてもらう。という名目で事務室ワグナさんに申請します。しかしこれら全てはカザワンの都合に合わせた行為。こちらの勝手な都合で振り回したお詫びに、実質お休みにしてあげます。実績じっせき作り・・・もといアリバイ工作の為に、本当に一時間程度は雑用をしてもらいますが、あとは今日一日、アニメでも何でも見ていて下さい」


ブラウニー「・・・詳しく話を聞こうか」


 今日初めて真面目な顔になるブラウニー。


レスタ「自由になったらなったで、部屋にこもるんですね。そんなに外に出たかったんなら、外で遊んでくればいいのに」


ブラウニー「大人は室内でも優雅に時間を消費出来るんすよ。 お子ちゃまはサッカーでも・・・あ、お友達がいないからサッカー無理でちゅね~。 一人で壁サッカーでもして遊んでらっしゃい?」


レスタ「良いですね壁サッカー。 壁に馬鹿を縛り付けてそこに向かってボールを蹴って良いなら、今すぐ行きますよ」


風音「これこれ喧嘩はよしなさい」


 今ちょっと分かった。

 レスタはブラウニーの子供みたいな所を、思わず指摘してしまうのか。それに対してブラウニーが吹っ掛ける、と。 で、言い返すと。

 なるほど、阿吽あうんの呼吸か。やはり仲が良いという事だな、と解釈する。


 そして場の流れがブラウニーから鞍馬に交代する方向でまとまりかけている事に対し、考えるルミナ。


ルミナ(ブラウニーと二人で恋人役の撮影なんて行かせるくらいなら、鞍馬の方がはるかにマシよね。 出来ればブラウニーの作ったものなんか食べさせたくなかったけど、この流れは受け入れるしかないのかな・・・?)


 悩んだ末に・・・苦渋くじゅうの決断。

 ルミナとしては、自分の手作り料理を食べてもらったうえで、ブラウニーと鞍馬が交代という道筋が最善だった。

 しかし風音なら誰かが自分の為に作って来たものを、食べないという選択肢は取らないだろう。


 だからこの後風音がとる行動は、このままブラウニーと仕事に行ってあのサンドイッチを食べるか、アリエイラの提案を受け入れて鞍馬と交代して今食べるか。

 この二択しかない。


 だったらここで食べる事と引き換えに鞍馬と交代の方が・・・百点ではないが、仕方ない。

 他にもっと良い方法が考えつかない。


 考えを終えたルミナが、ブラウニーに向かって。


ルミナ「じゃあ取り敢えずアリちゃんの言った通りでいいのよね? じゃあブラウニー。まずは検証の為に私達に一切れずつサンドイッチを渡して」


ブラウニー「何の検証するんすか・・・恥ずかしいからあんまり人に食べられるの嫌なんすけど」


 ランチボックスを隠すブラウニー。


ルミナ「いいから。あとで説明するから。今作って来たって事は、調理場に居た癒々に教わりながらやったんでしょ? じゃあ変なものを作る方が難しいでしょ」


ブラウニー「それはそうなんすけど・・・」


 詰め寄られ、仕方なくランチボックスを渡す。


 早速一切れ取って食べるルミナ。


ルミナ「・・・・・・・」


 厚焼き卵サンドをしっかり味わってみる。

 風音以外の残りの三人も一切れずつ食べる。


 残りはボックスごと風音の机に置いた。


 ・・・・・・。


 そして誰も感想を言わない。

 美味しい・・・の分類に入ると思うが、美味しいと声を上げるほどの事も無い。

 全員そんな感じだ。


ルミナ「・・・普通。としか言いようのない味ね。 一つだけ言うなら、卵のからくらいちゃんと取りなさいよ」


 おそらく割る時に失敗したのだろう。欠片かけらが一つ入っていた。

 噛んでしまって粉々になったので、もう口から取り出せないから仕方なく一緒に食べる。


ブラウニー「慣れないから失敗しちゃって。二回も」


 それを聞いて、レタスハムサンドを選んで良かったと安堵あんどしているレスタが尋ねる。


レスタ「失敗したのを知ってたのに、殻を取り除かなかったんですか?」


ブラウニー「知ってる? 卵の殻ってね、こう・・・指で取ろうとしたら逃げて取れないんすよ」


レスタ「いまさら何を・・・」


ルミナ「色々方法があるでしょ。割った殻で取るとか、箸を使って挟んだり押さえつけてスライドさせるとか。最悪ザルでいいじゃない」


ブラウニー「ん~~~・・・、そういうの面倒だから、指でいく選択肢しか無かったんすよ」


 悪びれもしないブラウニー。

 それを聞いたエンジニア達全員が呆れ返る。


ルミナ「この馬鹿のどこに魅力があるのかしら・・・本当に分からないわ」


アリエイラ「・・・あなた本当に人類なのですか? あなたの言動からは、知性のカケラも見当たらないのですが」


レスタ「それでそのまま放置して卵を焼いたんですか? なら今後ブラウニーさんには、料理にたずさわってほしくないですね」


風音「・・・・・・」


 この四日間で分かったが、カノンでは基本エンジニアがそろうと、関わった人間がボロカス言われるようだ。


ブラウニー「いやいや、勘違いしないで。それでも取れるまでは頑張ろうと思ってたんすよ? でも癒々さんが「カザは卵を殻ごと食べるよ」って言ってたから、もうそのままにしたんすよ」


 そもそもブラウニーにとっては、風音に食べさせる予定だったものだ。それを勝手に食べた奴が不満を言っているに過ぎない。


風音「食べるけど・・・それは栄養補給も兼ねてゆで卵を殻ごと一緒に食べよう、って決めて食べる時であって、卵焼きに殻が入ってたらテンションガタ落ちだよ」


 癒々も多分冗談で言ったのだろうに。真に受けて本当にそのまま焼くとか。癒々も隣で見ててビックリしただろうな。


ブラウニー「そうなんすか? 何が違うの?」


風音「なんだろ・・・気持ちの問題だけど」


 喋りながら、風音も今話題の厚焼き玉子サンドを手に取る。


ブラウニー「・・・? じゃあ最初から殻を食べるつもりで卵焼きを食べればよくない?」


風音「いや・・・。卵焼きに殻が入ってるのは料理として間違ってるから、そういう心持ちにはなれないって言うか・・・」


 会話途中でサンドイッチを一口食べる。


 その瞬間。


風音「きたぁーーーーーーーーー!!!!!」


 上を向いた風音が、口からレーザーを吐きながら叫ぶ。


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