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カノン  作者: しき
第5.5話
83/206

風音ワングランプリ? 四日目乃肆


 コンコン。


 風音が今まさに食事に行こうと立ち上がったと同時に、ノックの音が。


ルミナ「あら? 誰かしらこんな時間に」


 こんなに朝早くからの艦長室への来客に、ルミナが疑問を持つ。


風音「どうぞ~」


 扉が開く。

 そこにはいつものツナギの服を着たブラウニーが、大きなカバンを持って立っていた。

 ブラウニーが軽く片手を挙げる。


ブラウニー「ういっす。艦長」


 ブラウニー・レイスコア・イル・メイサ。

 見た目はおとなしそうだが、実のところ元気だけが取り柄の異星人女性。

 いつも私服で着ている車の整備士みたいなツナギの服。あとついでに外出用の帽子。

 薄い紫色にかなり近い赤系のちょっと変わった髪色で、肩甲骨辺りまで伸びた髪と前髪の片側だけをおさげにして垂らしているちょっと変わった髪型。

 そしていつもと変わらぬ危機感に欠ける、ヘラヘラした間抜けな顔つき。


 ルミナがブラウニーの方に向かって振り返る。


ルミナ「帰れ」


 露骨ろこつに嫌そうな顔になるルミナ。


ブラウニー「え? 急に何すかこの子? 第一次反抗期?」


 ルミナの言う事など無視して、ズカズカと入ってくる。


ルミナ「何しに来たの? 今忙しいんだけど」


 ブラウニーが風音に近付く前に、体で止める様に前に立つ。


ブラウニー「あ、そうなんすか? あ~~・・・」


 ブラウニーがこの部屋に居る他の面々を見る。

 確かにこの部屋にこんなに人が集まっている事も珍しい。


ブラウニー「そうみたいっすね確かに。 じゃあ艦長、また後でね。九時で良い?」


風音「うん、九時に炎火ほのか前集合でお願い」


ブラウニー「ういっす」


 クルリときびすを返し、部屋を出て行こうとするブラウニー。


ルミナ「ちょっと待ちなさい!」


 すぐさま止める。


ブラウニー「へ? 今の私に言ったんすか?」


 首だけ振り返る。


ルミナ「あなたに決まってるでしょ。他に誰が居るのよ」


ブラウニー「・・・そこに四人居るじゃないすか」


 レスタや息吹達を見ながら言う。


ルミナ「そんな事より! 九時に何!? 何かあるの!?」


 ブラウニーがおびえる様に、自分の体をギュッと抱く。


ブラウニー「え・・・なんで怒ってるのこの子・・・? 怖い・・・。 恐怖・・・それはいつも日常の中にある・・・迷える子羊に逃れるすべは無いのか・・・」


ルミナ「訳分かんないコメントはいいから! ほら早く言いなさい!」


風音「一緒に仕事をしに行くだけだよ」


 代わりに風音が答える。


ルミナ「え? そうなんですか? 何のお仕事を?」


 風音の方を振り向いて、急にコロッと態度が変わるルミナ。


 風音が今日の仕事内容を簡単に説明する。


ルミナ「へ~~。PR動画撮影。珍しいお仕事ですね」


風音「うん。演技が必要だから、シノとか癒々さんとか煉兄ぃは連れて行けないしね」


 凌舞はそこまで演技が下手糞な訳でも無いが、上手ではない事を自覚しているのか、あまり人前で演技なんてしない。癒々ゆゆ煉也れんやはもう論外ろんがい


 その他にも色々考慮こうりょした結果、ブラウニーか鞍馬くらまで迷っているところに偶然ブラウニーを廊下で見つけ、頼んだら即引き受けてくれた、という流れだと伝える。


 一通り聞いてから、少し下を向いてしばらく考える。


ルミナ(偶然廊下で、ねぇ。・・・本当に偶然? この部屋の前で聞き耳を立ててたんじゃないのどうせ。だってさぁ、仕事で誰を連れて行こうか悩んでるタイミングで偶然ばったり会う? そんな事起こり得る? いや無い無い。いつものんきな顔してだましてるけど、薄皮一枚いだその下には狡猾こうかつな真の顔が口角を上げて微笑んでいるのよ・・・ブラウニー。なんて恐ろしい女!!)


 考えを終えたルミナが顔を上げる。


ルミナ「風音さん、悪い事は言いません。一人でこの部屋で悩んでいる時は、防音シャッターを閉めましょう」


 ドアの方を指で差す。

 カノンにある部屋は、全部窓とドアにもう一枚シャッターが付いていて、これを閉めると完全防音状態になる。

 これを使えばノックすら聞こえなくなり、備え付けのインターホンか内線で中の人を呼び出さなくてはならなくなる。

 閉めるのはボタン一つで楽だがその後の対応が面倒なだけなので、風音はこの部屋でも自分の部屋でもそれを使った事は一回も無い。


 でも急にそんな事を言われて。


風音「え? あぁ、はい・・・」


 適当な返事になる。


 いつもの事だがルミナは勝手に長考に入り、長考が終わった後(ルミナ本人にとってはちゃんと話がつながっているが、周囲にとっては)急に前の会話とは繋がらない意味不明な事を言い出す。


アリエイラ「ちょっといいですか?」


風音「何か?」


アリエイラ「連れていく人選の選考理由は大体納得出来ました。もしカザワン中じゃなければ、私が行ってみたかったところですが、まぁいいでしょう。それより鞍馬かブラウニーさんで悩んだと?」


風音「うん、それが何か?」


アリエイラ「じゃあ鞍馬にしましょう」


ブラウニー・風音「「え?」」


 同時に声を上げる。


風音「でももうブラウニーが準備までしてくれてるしね」


ブラウニー「そうっすよ。さかのぼると昨日から準備してんすよ? 私一回寝たら起きないから、遅れちゃ駄目だと思って昨日夕方から寝てさ? おかげで何時間寝たと思ってるんすか? 十一時間すよ十一時間。 フラタコーザ観たかったのに、我慢して寝たんすよこっちは」


 ブラウニーからの抗議が入るが。

 風音にとってはいかに自分と同意見だとしても、今の発言にはちょっと気になる部分も多い。


風音「あのねブラウニー。仕事の為に早めに寝ようとするのは偉いと思うんだけどさ。早く寝たら、別に早く起きてもいいんだよ? 多分一回途中で起きてるでしょ。 なんでそこから時間いっぱいまで寝ようとするの?」


ブラウニー「そりゃ寝ていられるなら限界まで寝たいもん」


風音「寝たいもんって・・・。いやでもさ、アニメ観たいの我慢して寝たんでしょ? 一度目がめたんなら、そこで起きて観れば良くない?」


 ブラウニーが即座に首を振る。


ブラウニー「アニメってのはね、私の中で疲れを癒すものなんすよ。だから仕事の後に見るものであって、仕事に行く前に見るものじゃないの。 この後仕事だなって思うと、話に集中も出来ないっしょ」


風音「あぁそう・・・」


 じゃあ仕方ないか。

 そんなに寝る事の優先順位が高いなら、一昨日のルミナの作品はブラウニーに向いてるんじゃないかなと思う。


 アリエイラがブラウニーをさとす様に言う。


アリエイラ「あなたが何時間寝たとかはどうでもいいのですよ。ましてアニメを我慢したとかなどは、本当にどうでもいい。 もっと本質を見て下さい。 おそらく風音さんはその仕事中にお昼ご飯を食べますよね? 今回のレスタ君の作品を正当に評価するのならば、その時の様子などを鞍馬が見届ける方が、より公平でしょう?」


ブラウニー「おぉ・・・なぁに言ってんのか一つも分からぁん」


 今回のレスタ君の作品? 昼ご飯を食べる? 見届ける?

 発言の内容が一個も理解出来ない様子のブラウニー。


風音「今ちょっとね。カノンで一番のエンジニアが誰かを競う大会中でね。カザワンこと、風音ワングランプリっていう類稀たぐいまれなる・・・」


ブラウニー「え? その大会の名前って音羽おとはちゃんが考えたの?」


 思わず素で聞いてしまうブラウニー。 よほど気になったのか、話の途中で割り込んできた。


風音「いや僕じゃないけど」


ブラウニー「あ、そう。そりゃそうっすよね。自分でそんなセンスの無い名前付けないよね」


 不意に出たその発言に。


レスタ「え?」


アリエイラ「今何と?」


ルミナ「はぁ?」


 三人がそれぞれ、信じられないという顔つきでブラウニーの方を見る。


風音「うんまぁ、正直どうかなって最初から思ってた」


レスタ・アリエイラ・ルミナ「「「えぇ!?」」」


 素で驚いている三人と、まぁそうだろうなという顔の息吹。

 黙っていたが、息吹は最初からダサいなと思っていたクチだ。

 普通にエンジニアグランプリでいいと思う。


 レスタが先頭に立って反論する。


レスタ「僕なんてこれ以上格好良い名前の大会なんて、この世に無いとまで思ってたんですけど?」


ブラウニー「じゃあどうかしてるよ」


 バッサリ。


 風音が一応フォローを入れる。


風音「いやまぁ感性は人それぞれだしね。良いと思う人も居るだろうし、逆に僕とブラウニー以外にも、晴嵐せいらんもダサいって言ってたし」


 本物の晴嵐じゃなく、夢の中に出てきた方の晴嵐が言ってただけだけど。


アリエイラ「晴嵐が? ・・・折檻せっかんですね」


 再び夢の中の自分のせいで、意味も分からずお仕置きを喰らう事になった実在の晴嵐。

 そして息吹の方は、ダサいとか余計な事を言わなくて良かったとホッとする。


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