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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 三日目乃漆


 素早く零武の首根っこを掴んで持ち上げたまま、部屋の出入り口付近まで移動する。

 移動したのは、これからの会話内容を風音に伏せる為だ。


 そして持ち上げたまま問い詰める。


息吹「零武の口から言いなさい。簡易飲料を牛乳に溶かして、どうやって一緒に食事をしてるの?」


零武「ププププライバシーの侵害もはなはだしい。あ~~んってして待ってるだけ。これ以上言う事なんか無い」


息吹「白々しい・・・。当ててみせましょうか? まずあなたはその牛乳を、食事担当の艦長の体内にセットしている」


 息吹が今日一番、握った拳に力を入れる。

 拳が熱を持っている為か、生体部分の水分が少し蒸発して水蒸気のようなものまで出ている。


零武「あ・・・あ・・・」


 プルプルと震え、追い詰められる零武。


 息吹が殺意すら宿った目を向けて、結論を言う。


息吹「それを・・・く、口移しで流し込んで貰っている! 艦長の身体を勝手にそんな事に使うなんて、絶対にうらや・・・許せません!!」


 今にも殴り掛かりそうな息吹、そして急に菩薩ぼさつの様に穏やかな表情になる零武。


零武「いや・・・そんな事してない」


息吹「嘘を言わないで下さい」


零武「嘘じゃない。息吹は私が嘘を吐いているかどうか、見れば分かるんでしょ? 私をよく見て。今息吹が言ったような事は、主に誓ってやっていない」


息吹「・・・・・・」


 ジッと零武を見る。

 どうも・・・嘘はついてなさそうだ。


息吹「あら? 確かに」


 息吹の拳から力が抜ける。


零武「嘘は言わないから、私をよく見てよく聞きなさい。 私は艦長に食事の補助をしてもらって、お腹を満たして貰っているだけ。 息吹の言うように口移しで流し込んで貰ったりなんてしていない。さっきも言った通り、私はあ~~んってして待ってるだけ」


 言われた通り弁明の様子をしっかり観察しているが、嘘を言っているように見えない。

 どうも全て事実のようだ。

 持ち上げていた零武を下ろす。


息吹「勝手に艦長に食べさせてもらうなんて・・・それはそれで羨ま・・・許せませんが、酷い勘違いをしてしまった事は謝ります。ごめんなさい、零武」


零武「分かればいい」


 二人で風音の前に戻る。


風音「急にどうしたって思ったけど、今度は喧嘩にならなかったんだね」


 ちょっと安心する風音。

 風音が他人を治療出来るのは、一人につき一日一回だけ。もう今日は怪我をされると治療が出来ないからだ。


息吹「私の勘違いでした。ですが艦長に食事の補助をさせるなんて・・・おしかりをお願いします。カメラ同様いっそ許可するというなら、私は一向に構いませんけれども」


 ちらちらと上目遣いで確認する。

 これは本当に許可は下りないのですか? と、目が語っている。


風音「お叱り・・・許可ねぇ。・・・ちょっと今思ったんだけど」


息吹「何でしょう?」


風音「そういう零武や息吹の言動の数々って、やっぱり僕の存在を最上位に設定してるからじゃないのかな? 別にその設定は解除してくれていいよ? 予め尊敬する対象を決められてる人生なんて嫌じゃない?」


 尊敬ししたう人くらい、自分が生きていく上で決めれば良い事だろう。

 先に決めておくものじゃない。という、ごくまともな感想を言ったつもりだったが。


 同時に大きなため息を吐く零武と息吹。


息吹・零武「「そんなものとっくに解除してます」」


息吹「それは最初期設定の話でしょう?」


零武「今は私達姉妹は四人とも作られた設定ではなく、自分の意志で誰を慕うべきなのかを決めています」


風音「あ・・・そうだったんだ。最初こっちがそんな設定やめようって言った時に、全員拒否してたから。設定そのままなのかと思ってたよ」


息吹「そりゃ最初はそうしますよ。我々は従者ですよ? 従うべき主人を最初に設定しておくのは当たり前です。他の人と同じ様に接して良い訳が無いのですから。 ・・・ですが接していく内、私達の考え方が変わりました」


 零武がまっすぐ風音を見据みすえる。


零武「いいですか? 覚えておいてください。 今の私達は、 私達の意志で、 艦長の事を愛しています」


風音「・・・・・・」


 ストレートにそう言われ、少し照れる。


風音「そ、そっか。それはどうも」


息吹「姉さん。私達が、あ、愛しているだなんて。私達は従者ですよ。そんなおそれ多い・・・。お慕いしていると表現して下さい。 こら! もう・・・姉さん! こらっ!」


 ニッコニコで零武の後頭部をポコポコと叩く息吹。


零武「やめなさい鬱陶うっとうしい」


 息吹の手を払う零武。

 そんなじゃれ合いを見ながら。


風音「でもまぁそれはそれとして、人形は処分しよっか?」


 それとこれとは話が別という事で。

 いかに主人として慕っていようが、勝手にそっくりな人形を作って一緒に生活するのは、もうストーカーの領域だろう。


零武「それは出来ません」


 悩む素振りすら無く断られた。


風音「え? 主人の命令を断ったよこの子」


 慕ってるって話はどこ行ったんだ。今しがた聞いた気がするんだけど。


零武「そう。以前までの私ならば従っていたでしょう。ですがたった今確認しましたね? もう艦長を主人とする設定は解除しています。いつまでも命令に従う、従順な零武はもう居ないのです。 よく聞いてください艦長、そして聞きなさい息吹。 私は・・・私は!」


 零武が、すうっと大きく息を吸い込む。


零武「私はっ!!! 艦長を最も愛する主としながら、同時に私は私の道を歩む!!!」


 ドンッ!!


 という効果音が鳴りそうなくらい胸を張って宣言する。


風音「いや格好良い発言っぽく言ってるけども。人として間違ってる事を指摘してるんだよ。ストーカーは駄目だよ」


 ドンッ!! かなんか知らないが、そこは冷静に反論する。

 効果音と勢いで誤魔化ごまかされても困る。


息吹「まさか零武がここまでの想いを持って行動していたなんて・・・」


 何故か悔しそうな息吹。

 その息吹の反応に驚く風音。


風音「今の零武の発言を聞いてその反応はおかしいから。 ストーカー宣言を、勢いと雰囲気で押し切っただけだからね」


 そんな風音に、やれやれとかぶりを振る零武。


零武「私とて、ストーカーのような卑劣ひれつな輩は軽蔑けいべつします。しかし私の行動をストーカーとしょうするのは、根本的に間違っています。まず基本的に、従者が主人の事を常に想っているのは悪い事ではありません」


息吹「確かに。そこは反論の余地もありません。その状態をストーカーと言われてしまうと、従者の商売あがったりです」


風音(・・・そうかな? 限度とかさ・・・)


 一応話の腰を折らないように、口は出さない風音。


零武「そして従者たる者、いついかなる時も主人から褒められたいと思って行動しています」


風音「それ普通に文法間違ってない?」


 思わず口が出てしまった。


息吹「いえ素晴らしい意見です。標語ひょうごにして各階の掲示板に貼っておきましょう」


風音「息吹?」


 だんだん息吹の思想の方が、零武に感化されて異常になっていってる気がする。


零武「でもこんなに毎日見てるのに、艦長は私を毎日誉めてくれない!」


風音「見られてる事すら今日まで知らなかったからね。大体さ、一緒に居る時なら・・・」


息吹「すみません艦長。一旦零武の意見を聞きましょう。今零武はかなりまともな事を言っていますから」


風音「息吹さん・・・」


 零武ではなく、息吹から反論を止められる。


零武「とは言え、ですよ。艦長に毎日誉めてと頼むのは違います。 私達は従者。本来粛々しゅくしゅくと仕事をこなし、対価を求めずこの身を捧げる事が至上の喜びなのです」


 ただただ無言で頷く息吹。


零武「でも誉めてほしい!! 私達は自分の精神状態、そして周囲の環境をより良くする事が、より良い献身けんしんに繋がると信じています!! その為には毎日少しくらい報労ほうろうがあっても良いと思う!!」


息吹「しんの通った生き様の中にある、自分の弱さを隠さないその姿勢。 今の零武がなんとみっともなく、なんと純粋で美しい事・・・。書籍化決定ですね」


風音「息吹・・・」


 よく見ると感動しているのか、息吹の目に光るものが。もう息吹こっちの方が重症かもしれない。


 再び零武が胸を張る。


零武「だから艦長の分身に撫でて貰うんです!!」


 ドンッ!!!


風音「うんだからね、分身に頼るってとこが間違ってる気がするんだけども」


零武「では代わりに毎日撫でてくれるのですか?」


風音「毎日は・・・無理な日もあるんじゃないかな・・・。仕事で居ない日なんて、物理的に無理な訳だし」


零武「じゃあ私の心が折れます。艦長はいたいけな従者を一人壊しました」


息吹「かわいそう・・・」


 感化され過ぎて壊れ始めている息吹の事は、もう一旦放っておくとして。


 アリエイラさんもよく心が折れる人だけど、見た目だけじゃなくそんな所まで似てるらしい。

 あの人はやる気満々の状態から、秒でやる気を失う人だ。零武もそうなのか。


風音「なんでそうなるのかな・・・。 ・・・じゃあ分かったよ。あくまで主人に報労して貰いたいからやっているだけだと。ストーカーのようなものじゃないと。変な事には使わないと。 こういう事?」


零武「はい」


 ふぅ・・・と溜息ためいきを吐く風音。


風音「じゃあせめて・・・一体に減らそうか。撫でる奴だけで良くない? この条件を飲めないなら、アリエイラさんに頼んででも全部処分してもらうって事で」


 零武がビクッとする。


零武「えっ!? 主に密告ちんころされるのですか!?」


風音「ちんころて」


 密告を恐れた零武がプルプル震えながら早口で言う。


零武「飲みます飲みます。一体だけにします。 ・・・ただ出来れば毎日の食事を楽しむのが生き甲斐がいですので、「風音たん」じゃなく「カザ」の方を残したいです」


風音「まぁそれは好きにすればいいけども。食事担当はカザなんだね」


 凌舞しのぶ癒々ゆゆ煉也れんやなどの、幼馴染連中から呼ばれている渾名あだなだ。

 風音たんよりは遥かにマシか。


息吹「すみません。話がまとまりかけていますが、私は納得出来ません。零武だけがそんな特別な状態を許可されるなんて、私としては・・・」


零武「じゃあ風音たんは解体しないから、息吹の部屋の入口に置いておけばいいじゃない」


息吹「御姉様・・・」


風音「えっ? いや、あんまりそういうのを広めたり・・・」


 息吹が素早く零武の首根っこをつかんでから、零武を掴んでいない方の手を胸に当て、うやうやしく頭を下げる。


息吹「今日はとても良い話し合いが出来ました。そろそろ解散しましょうか。はい帰りますよ零武」


 風音に意見を言わせる前に加速装置でドアまで移動し、喋り終わった一秒後には零武と共にドアから出て行った。


風音「いや・・・まだ終わってないんだけど」


 急に帰った二人に、呆気あっけにとられる風音。


 今の話の件も今日の議題の一つだったが、それよりも。


風音(二人にどっちかに頼み事があったんだけどな)


 明日の撮影の件だ。

 男女ペアで男の方が自分。

 あとは女の方を消去法で考えると。

 演技が駄目な人達は論外。治安組織所属で恋人(夫婦?)設定だから、高校生以下に見える子供も駄目。風音ワングランプリ関係者はルール上一緒に仕事が出来ない。などなど。


 結果的にブラウニーかワグナさん、あるいはロボット姉妹しか残らなかった。

 一応候補には残ったけど、どうせワグナさんは事務の仕事が忙しいから断るだろうなと思う。


 あと見た目高校生以下は駄目という点。息吹は高校生くらいに、零武は中学生にすら見えるが、ロボットという所がポイントだ。

 シャロンにはロボット職員が実際結構居るし、ロボットはあらゆる場面で年齢制限に引っ掛からないから、別に問題無いだろうという判断だ。


風音(・・・って思ってたけど、さすがに零武の見た目は若すぎるかな?)


 この部屋に来てもらったついでに今の二人のどちらかに頼もうかと思っていたが、出て行ったので少し考え直す。

 やはり見た目が子供は避けた方が良いか。

 従者四姉妹は晴嵐鞍馬の方が、息吹零武より少しだけ年上っぽく見える。

 二人はギリギリ二十歳くらいに見えるので、そっちの方が良いのかな。


風音(あ・・・でも晴嵐は・・・)


 次の休みに一緒に服を買いに行く約束をしたんだった。

 あの子は休みの日でも、仕事が入るとすぐに仕事に戻る。

 だからそうならない様に服を買いに行く日までに、邪魔になりそうな仕事を全部片付けておくとか言ってた。

 撮影に誘ってる場合じゃないか。


風音(じゃあもうブラウニーか鞍馬の二択か・・・。一応二人に声掛けとこうかな)


 と思って艦長室から出たら偶然、いつも通り危機感の無い顔をして歩いてるブラウニーに出会った。

 頼んでみたら、面白そうとか言ってすぐに快諾かいだくしてくれた。


 なんか思ったよりすぐ解決したわ。


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