風音ワングランプリ? 四日目乃壱
まだ午前六時。
今日は仕事があるので、かなり早めに艦長室に入る風音。
ユニル「あ、おはようございます風音さん」
ユニルが起きていたようだ。
手のひらくらいの大きさの妖精ユニル・フレイアロウが、風音の仕事机に腰掛けている。
ウェーブのかかった薄赤色のショートヘアに、赤い目。
本来は人間と同じくらいの大きさの彼女だが、風音と契約している今は、マスコットキャラクターのような見た目になっている。
風の妖精である彼女は、起きている間は常に髪や衣服が風になびくように動いている。
風音「おはよユニィ。帰ってたんだ。 会議はどうだった?」
ユニル「今帰って来たところなんですよ。 特に大きな議題も無かったですね。形式的な集まりでした。 コットリンも元気にしてましたし、友達への挨拶巡りも終えたし、概ね良い里帰りでしたよ」
ここしばらく妖精の星に里帰りをしていたユニル。
妹のコットリンへの顔出しと、高位妖精による会議への参加が主な里帰りの理由だ。
ユニル「コットリンから風音さんにって、これ貰ったんですけど」
小さなチェーンのような物を差し出される。
風音「何それ? ネックレス?」
コットリンさんといえば、ユニルの妹であり水の妖精の子だ。
取り敢えず受け取って、指で端っこを持ってみる。
うん。紛う事なき、只のチェーンだ。
だらんと垂れ下がった一本のチェーンを見る。
風音「これ何に使う物?」
ユニル「それは元々ペンダントだったんですよ。透き通った青と緑と透明の大小の輪っかが、少し捻れて絡み合っているような凄く良いデザインのやつ」
風音「その部分はどこ行ったの?」
ユニル「今頃は宇宙の塵となってます」
風音「・・・何でよ」
宇宙空間に投げ捨てて来たのか。
ユニル「あの子を舐めちゃ駄目ですよ。まだ全然風音さんと契約する事を諦めてませんから。あの子は水の妖精です。あのペンダントの透明の輪っか部分に、多分体の一部を混入していました」
風音「仮にそうだとして、どういう問題が?」
ユニル「自分の体の所有権を一時的にペンダントの方に移してみます。もしそれが風音さんの近くだと分かったら、そのまま妖精の星に居る自分の体を放棄します。そうすると妖精の星でコットリンだったものは、そのままただの水になります。そしてペンダントの中にいるコットリンが本体になります」
風音「コットリンさんが地球に来るって事?」
ユニル「はい。あの子が地球に来たら面倒ですよ。風音さんが契約すると言うまで、以前の様に暴れるかもしれません。 想像してください。海が全て敵になったら・・・」
風音「・・・大変だけど、ユニィなら大気で上から抑えられるんじゃない?」
ユニル「やりたくないですねぇ。今の状態じゃ力が足りないから、契約を一旦解除しないといけないですよね。 その契約解除がコットリンの狙いでもあるわけだし・・・。それより飲料が全部敵になる事の方が問題ですかね・・・あと風音さんは私と契約してるから大丈夫ですけど、他の人は体内の水分を操作されますから、あの子の水に直接触れられた人類・・・いえほとんどの動植物が全員操り人形になりますね」
風音「え、あの子そんな凶悪な事ができるの? あんだけ自由に操れる水が、他の生き物に触れるだけで操り人形に出来るのか・・・。なんか僕の中の想像にあった水の妖精と全然違うな・・・。確かに地球じゃ勝てるビジョンが浮かばないね」
何らかの方法でおびき寄せて、妖精の星に返すとかしか無いのかな。
でも一回地球に来たら、どこかに体の一部を残しているだけでいつでも地球に来れるようになるのか。
それはかなり厄介だな。
・・・とかいう考えをブツブツ言っていると、その疑問にユニルが答えてくれる。
ユニル「友達に浄化の妖精のォシリィ・リィンネル・チィルモントちゃんって子が居るんですけど、その子に頼めばその問題は解決しますけどね」
妖精による汚染を全て浄化する事が出来る妖精だそうだ。
今風音が言った場合だと、コットリンが地球に置いて行った体の一部を、普通の水の戻す事が出来るらしい。
余談だが毒の妖精というのがいて、こいつは結構な猛者らしいが、浄化の妖精の前では借りてきた猫の様におとなしくなるらしい。どうしようもなく天敵だから。
という、妖精達のよもやま話まで聞いて。
風音「なるほどね。妖精ってみんな凄いからなぁ。妖精による人類じゃどうにもならない脅威は、妖精に頼るしかないって感じか」
良く出来てんな。と思う。
ん?
風音「じゃあその、おしり・・・なんとかチルモントンさん? にペンダントを浄化してもらってから、持って帰ってくれば良かったんじゃ?」
宇宙に捨てる必要が無くなりそうなものだが。
ユニル「ォシリィ・リィンネル・チィルモントちゃんですよ・・・」
一応名前の訂正はしておくが・・・それはそうと今言った風音の主張はもっともだ。
ゆっくり眠たそうに目を瞑るユニル。
妖精との契約は、人間一人につき妖精一人だけ。
ユニルはすでに風音と契約している。そんな風音と、コットリンは契約したがっている。
要するにユニルにとってコットリンとは、自分のパートナーを奪おうとしている奴という事だ。
いくら可愛い妹でも、何故そんな奴のプレゼントを自分のパートナーに渡さなければならないのか。
それでも姉として百歩譲って、普通のプレゼントなら渋々渡してやっても良かったけど。
罠付きってお前・・・コットリンよ。
それを渡せってお前。
慈善事業じゃねーんだから。
という事情だ。
ユニル「ふわぁ・・・。 あぁ眠たい・・・。 さて、そろそろ寝ようかな。今帰ったばかりでもう疲れちゃって。部屋を借りますね。おやすみなさい風音さん」
風音の問いは聞こえなかったという事にして、隣の部屋へと引っ込むユニル。
風音「あぁ、疲れてるもんね。おやすみユニィ」
隣の部屋に行くユニルを見送ってから、机の中にチェーンをしまう。




