風音ワングランプリ? 三日目乃陸
許可が出た監視カメラの件はともかく。
息吹が零武を鋭い目付きで見下ろす。
息吹「さて・・・艦長の等身大フィギュアの件ですが、正直に言いなさい」
零武に向かって尋ねる。
零武「私の・・・部屋には・・・艦長の姿をした機械人形が一体居て・・・」
ポツポツと語りだした零武に。
風音「あぁ、一体になったんだ。七体って聞いてたから、怖いなって思ってたんだよ」
少し安心する風音。
息吹の目がギラリと光る。
息吹「・・・艦長。少しお待ちを」
・・・・・・・
三十秒後。
零武「ほ、ほんとは七体いましゅ・・・。どうか嫌いにならないでくだしゃい艦長・・・」
再びボコられた零武が、再び泣きながら土下座姿で謝る。
風音「あの・・・嫌いにならないから顔を上げて。あと、暴力は良くないよ息吹」
息吹「失礼致しました。しかしこのくらいしないと、零武は嘘を吐き続けてしまいます。必要悪だと思って頂ければ幸いです」
頭を下げながらも持論を崩さない息吹。
今のこの状況でなんで七体も持っているのかとか問い詰めたら、余計空気が悪くなりそうだ。
少し空気を和らげるために、雑談風に切り替えて尋ねる。
風音「って言うか単純に怖くない? 同じ型をした人の形が部屋に七人も居たら」
零武「怖くはないです。むしろ落ち着きます」
風音「そうかな・・・人形が七体居るってだけで十分怖いけどな・・・」
逆に零武の人形がこの部屋に七体居たら、と考えてもやっぱり怖い。
息吹「そうですか?」
零武の肩を持つわけではないが、今の風音の発言は息吹も理解出来ないらしい。
息吹「怖い・・・ですか? ・・・あぁ、そうか。人形という考えが間違っている可能性があります。ジッとしている人型の物であれば、複数体居れば怖いと感じるかもしれません。しかし各々が意思を持って動いていると考えれば?」
一つの部屋で動き回る七人の同一人物。
風音「もっと怖いよ」
息吹「?」
そう即答され、首を傾ける息吹。
それの何が怖いのか。
賑やかなだけじゃないのかな? と思っている息吹。全然理解出来ないらしい。
風音「って言うかその人形って動くの?」
零武の方を見て尋ねると、分かり易くギクッとする零武。
零武「いいいいいえ? 直立不動です。あの動かなさには、不動明王も脱帽」
零武をギロリと睨む息吹。
息吹「零武・・・」
・・・・・・・・・・
そして三度目の、零武にとっての地獄の三十秒後。
零武「・・・動きましゅ。う、嘘ついてごめんなしゃい。 どうか嫌わないでくだしゃい」
泣きながら答える。
ちょっと零武が可哀そうに思えてきた風音。
三回もシバかれて、全身傷だらけになっている。治療してあげようか。
風音「ちょっとこっちおいで零武」
ちょいちょいと手招きする。
零武の表情が今までになく強張る。
零武「いいいいい嫌! ここで! ここで謝らせてくだしゃい!」
泣きながら、めちゃくちゃ怯えている。
風音「いや別に怒らないから。その怪我が気になるだけだから、ね? ちょっとこっちおいで?」
零武「怒られるとかじゃなくて嫌われるのが嫌なんでしゅ! 嫌・・・嫌っ!! 許して貰えるまでここを動きましぇん!」
泣きながら土下座を続ける零武。
風音「あ~もう。じゃあこっちから行くよ」
席を立って零武に近付く。
土下座状態のまま動かない零武の脇を持って、立ち上がらせる。
零武「ごめ・・・」
謝ろうとした零武が驚きで止まった。
風音が出来るだけ互いの胴体が引っ付かないような感じで、零武を包み込むように抱いている。
二人の身体が青白く光り、零武の身体の傷が塞がっていく。
ロボットなので表面の生体部分しか治らないが、どこかが折れているようには見えないので十分だろう。
風音の技である治療。
基本的に相手の身体に触れないと出来ない技なので、全身傷だらけの相手への治療はこういう形になる。
女の子相手には気を遣う技だ。普通に抱き付くと相手が不快になるかもしれないし。でも基本的に包み込むような形でないと、全身への治療の効果が出ないし。
だから折衷案というか、胴体にあんまり触れないような形で腕を背後に回す事にしている。
治療が終わったところで。
風音「はい終わり。 心配しなくても僕が零武の事を嫌いになる事なんて絶対無いから、取り敢えず泣き止んでね」
ポンポンと頭を撫でる。
零武「あああっあっあありがと・・・ごごっごっござましゅ。 いいいっいっ一生付いて、いっいきましゅ」
一瞬泣き止んだと思ったら、次は歓喜で泣き出す零武。嗚咽でちゃんと喋れていない。
でも泣くなと言われたから、すぐに泣き止もうと呼吸を整えている。
ふと風音が息吹の方を見ると、息吹は無表情になっている。
珍しい。風音の方を見ている時は基本笑顔なのだが。
風音「あ、ついでに息吹も」
零武の力がセーブされていると言っても、先程からの喧嘩で全く無傷という訳ではない息吹。
零武からの反撃を防いでいた両腕が少し怪我をしているので、風音が息吹の両腕を掴む。
腕周囲が青白く光って、傷が消えていく。
部分的な怪我ならその場所を掴むだけで治る。これは場所にもよるが、腕ならそれほど気を遣わなくても良いから気楽にやれる。
息吹「・・・ありがとうございます」
二人の治療を終えた風音が席に戻る。
少し笑顔が戻り、腕を愛おしそうに撫でている息吹。
風音「一応言っとくけど、僕が治せるのは表面の生体部分だけだからね。内側がやられてるようなら、アリエイラさんにメンテして貰った方が良いよ。 で、話を戻すけど・・・その僕の機械人形って、もしかして人工知能?」
即座に首を振って否定する零武。努力が功を奏したか、もう泣き止んでいる様子。
零武「いえそれは本当に違います。今時の人工知能は人権が発生しますので、簡単に搭載して良い物ではないですから。 あの子たちは決められた動きを繰り返すだけです。 たとえば・・・入ってすぐに出迎えてくれる「風音たん」は、お帰りなさいの意味を込めて頭を撫でてくれます」
風音「・・・風音たん?」
内容よりそっちが気になった。
零武「何か? その子に付いている名前ですけれど?」
風音「・・・だいぶヤバいな・・・」
今更ながら危機感を感じだす。
そしてこれも息吹が注意するのかと思っていたら。
息吹「はぁ・・・なんて羨ましい」
風音「息吹?」
息吹「はい何か?」
風音「息吹はそっち側に行かないでね」
息吹「これはアレですか? さっきの監視カメラの件と違って、許可は下りないのですか?」
風音「下りないです」
何を言い出すんだこの子は。
息吹「そうですか。我々従者は、主人に労って貰えれば貰えるほど、頑張れるのですが。部屋に戻る度に撫でてくれたら、私は昇天するほど喜ぶでしょうね」
食い下がる息吹。
風音「うん、いつもよくやってくれてるよ、えらいえらい」
褒めておく。
息吹「ありがとうございます・・・それはそれで嬉しいのですけれども」
ちょっと納得いっていないが、話を切り替える。
息吹「それで? 他の六体はどんな動きをするのですか?」
零武「な、なんでそこまで言わなきゃいけないの?」
再び分かり易く狼狽する零武。
息吹「言いなさい」
言わなければ、また地獄の三十秒が待っている。
零武「・・・なんだかんだ全員動いていると邪魔になるから・・・三体は予備で動かない・・・・。あとは仕事中に隣に座ってくれる子と・・・落ち込んでる時に励ましてくれる子と・・・」
風音「予備はともかく、それ以外はなんか理想の思春期って感じの構成だね・・・」
息吹「・・・・・・」
零武「・・・あと一緒に食事をしてくれる子」
息吹「待ちなさい。・・・食事? 零武はいつも食堂に食事を取りに来ないじゃないですか。簡易飲料で済ませてたのではなかったのですか? あんな一口で終わるものを、どうして一緒に食べる必要が?」
零武「・・・別に何でもいいでしょ・・・」
風音「簡易飲料って何?」
素朴な疑問に、息吹が答える。
息吹「私達は電気などエネルギーさえあれば動けます。しかし表面が生体素材で出来ているので、電気だけの食事だけを続けていると、いずれ皮膚がボロボロになります。ですので生体部分を高い水準で健やかに保つ為に、主が開発してくれた高栄養飲料があるのです。エネルギーも多分に含まれてますので、基本的に私達はそれを飲んでいるだけで活動出来ます」
風音「だから鞍馬と零武は食堂付近で全然見ないのか。 晴嵐と息吹はたまに食堂に来る時もあるけど」
息吹「はい。私達にも味覚はありますから。単純に食事は楽しいですしね。 それに食事の場は、大事なコミュニケーションの場でもあります」
風音「いいねその考え。出来れば食事の日をもっと増やしてもいいんじゃないかな。幸いウチって食費には困ってないから」
息吹「仕事の関係で行けない日も多いのですが・・・そうですね、善処させて頂きます」
それはさておき。
風音「そういやさっきこの部屋に入って来た時、零武が僕の顔を見るなり「牛乳買わなきゃ」みたいな事言ってなかったっけ? それを牛乳に溶かして飲むの?」
牛乳と・・・覚えてないけど何かを補充しないと。みたいな事を言っていたような。
その指摘を聞いて、またギクッとする零武。
息吹の目がギラリと光る。
息吹「牛乳? そんなものに溶かす必要がどこに? 量が増えるだけで意味は無いでしょう? ・・・いえ、ちょっと待って? 艦長に手伝ってもらう・・・?」
考える息吹。
そして最後の審判を待つような、追い詰められた表情の零武。
息吹「あなたまさか!!」
珍しく鬼の形相で零武を睨む息吹。今までの注意とは違い、怒りを露にしている。




