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カノン  作者: しき
第5.5話
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風音ワングランプリ? 三日目乃伍


風音「あれ? 息吹いぶきは行かないの?」


 てっきりアリエイラ達と一緒に解散するのかと思っていた。


息吹「これから零武れいんとお話をされるのですよね? お邪魔でなければ私も居させてくれませんか? 妹として姉が艦長に失礼な態度を取らないか、心配で心配で」


 と懇願こんがんする息吹に難色なんしょくを見せる風音。


風音「ごめん。 ほんと申し訳ないんだけど、ちょっとプライベートな話になると思うから。 出来れば席を外して貰っていいかな?」


 そう言われて困った様子の息吹が、零武の方を見る。


 零武は息吹の方を一瞥いちべつすらせず、風音の方を向いたまま答える。


零武「大丈夫。私達姉妹に隠し事なんて無い。居たいなら居ても良い」


息吹「ありがとう零武」


風音「そっか。じゃあ零武。そんな離れたところじゃなくて、ちょっとこっちまで来てくれる?」


 ゆっくりと立ち上がり、風音の方に近付いてくる零武。

 息吹より少し早く生まれたので、一応姉となっている。

 ただし小柄で、中学生くらいに見える。何故かこの四人姉妹の中で一番子供のような体型をしている。

 見た目は小型アリエイラさんという感じ。おそらく意図的にアリエイラに似せてある顔と、青磁せいじ色の美しい髪の毛。

 アリエイラもまだまだ若いが、零武はもっと幼い顔をしている。

 多分アリエイラさんが中学生くらいの頃、こんな感じの美少女だったんだろうなぁというのを、そのまま体現したような。

 アリエイラ(主人)がいつも寝癖を直さない為、そっくりな零武が同じ髪型で綺麗に髪を整えていると余計主人の駄目さが目立ってしまう。だから零武は主人と同じ髪型にはせず、いつも編み込みポニーテールという面倒臭い髪型にしている。


 そんな彼女の先程からの様子を見て思う。


風音「さっきから見てて思ったんだけどさ、なんか・・・僕から目をらしちゃいけないみたいなルールを背負ってたりする?」


 立ち上がる時とか、全ての動きの中で目を逸らす瞬間が一瞬すら無い。

 先程も妹に話しかける時でさえ、妹の方を見ないで話すという徹底ぶり。


零武「いえそんな事は」


 本人は否定する。

 またこの前の様に謎の遊びを始めていたのかと思ったが、違ったようだ。


風音「じゃあ、挨拶がまだだったっけ。おはよう零武」


零武「おはようございます艦長」


 深々と頭を下げるが、顔だけは向けたままで視線は外さない。


風音「やっぱりなんか・・・呪われてる?」


零武「いえそんな事は」


風音「そっか。 じゃあ早速聞きたい事があるんだけど」


 夢の中で晴嵐から聞いた話だ。

 夢と言っても晴嵐の記憶は現実のものと一緒だったので、間違った情報ではないはずだ。

 そこで得た情報によると、どうも零武は廊下に設置してある監視カメラを乗っ取って、風音の普段の行動を毎日見続けているらしい。

 まぁそれだけならいいんだけども。

 それよりもさらに問題なのは、零武は自分の部屋に風音の等身大フィギュア複数体を勝手に作って、そいつらと生活しているらしい。


 零武含めロボット四姉妹は、従うべき主として何よりも風音の事を上位に置いている。

 そういう従者として設定されているのは知っているので、廊下にいる主人を監視カメラで見るくらいなら警備目的として許容する事は出来るが・・・。

 さすがに部屋に等身大フギュアは・・・。ストーカー化されても困るので、処分してもらおうという相談だ。


 しかし・・・。


風音「ほんとに息吹も聞いてて良いの? かなりプライベートな話だけど」


零武「構いません」


風音「そっか。 じゃあ僕の等身大フィギュアの・・・」


零武「息吹。出て行きなさい」


 突然息吹に命令する零武。


息吹「嫌です。今のは聞き捨てならないです。 艦長、続きを」


風音「いや、もし零武がどうしても嫌なら息吹には席を外して貰った方が」


 やっぱりこうなるのか。だったら最初から人払ひとばらいをしてくれた方が良かったのに。何故一度受け入れたんだ。

 まさかこういう角度の話をされるとは思っていなかったのか。


零武「どうしても嫌です。ここは席を外して貰いましょう」


息吹「零武。私達の間で隠し事なんて無い。でしょ?」


 笑顔のまま圧を掛ける息吹。


 さっきとは態度を変え、首を横に振る零武。


零武「私達にもプライベートはある」


 そのかたくなな態度に、息吹が諦めた。


息吹「確かに。ではこの辺で私は失礼致します。零武はゆっくり艦長とお話ししていてください。 私は久しぶりに零武の部屋のお掃除でもしてきます」


 振り返って去ろうとする息吹に向かって。


零武「待ちなさい息吹。私の部屋に入るのは許しません」


息吹「え? どうしてですか? まさか・・・まさかまさか、艦長そっくりの機械人形を作って、自分の従者として利用しているなんて事はありませんよね?」


 さっきの風音は等身大フィギュアと表現したが、もし零武が作ったのならフィギュアな訳が無い。

 稼働かどうする機械人形のはずだ。


零武「・・・・・・別に・・・家事とかはさせてない」


 もう一度振り返って、ツカツカと零武に歩み寄る息吹。


 そして接近するなり零武のほおをつまみ上げる。

 かなりの力で持ち上げられているのか、零武のかかとが浮く。


零武「痛いからやめなさい」


 半分持ち上げられている状態で注意する零武。


息吹「零武? 前にも言いましたよね? ストーカーのような行為をするのはいけませんと。 まさか未だに廊下の監視カメラを乗っ取って、普段の艦長を追い回していたりしないでしょうね?」


零武「・・・・・・してない」


息吹「してますねこれは」


 息吹がさらに力を込め頬をひねり上げ、零武の身体が完全に浮く。


零武「少しは姉を信じなさい。早く放して」


 息吹が首を横に振る。


息吹「零武の嘘くらい、すぐに見抜けます」


 これまで淡々と喋っていた零武だが。


零武「放しなさいと言っている。あまり調子に乗らないで。あなたが私に勝てると思っているの?」


 口調に怒気が混じる。


息吹「艦長に対する無礼。ゆるしてはおけません。勝てずとも、刺し違えてでも反省させます」


零武「刺し違える事なら出来るとでも? 愚かな・・・わきまえなさい」


 頬を持ち上げられたまま、零武が両手を広げる。


風音「ちょ、ちょっと待って二人とも。喧嘩は・・・」


 止める風音に答えた二人の声が重なる。


零武「これは喧嘩ではありません。しつけです」


息吹「艦長の敵は私の敵。たとえこの身が滅びようと、ここで止めてみせます」


 ・・・・・・


 三十秒後。


零武「・・・しゅみましぇん。 毎日監視カメラを見てまひた。 許ひてくだしゃい・・・」


 ボコボコにされた零武が、泣きながら謝罪する。


息吹「最初から正直にそう言いなさい。 ほら、艦長に頭を下げて」


零武「しゅみましぇんでした・・・。嫌いにならないで下しゃい艦長・・・」


 すぐに土下座体勢になった零武が、床に額をこすり付けて謝る。


風音「いや良いよそれは。監視カメラの件も聞いてたけど、それで嫌いにはならないから。僕の身体とか部屋の中にカメラを取り付けてるとかなら怒るけど、廊下でしょ?」


零武「はい・・・。それは主に誓って」


風音「じゃあ良いよ。廊下や各施設内なら、警備のゼロアにだって常に監視されてるようなものだし」


 零武が顔を上げる。


零武「え・・・じゃあ続けてもいいんですか?」


風音「まぁ・・・頻度を下げてくれれば」


零武「分かりました、主に誓って半分に下げます。 ・・・あぁ、まさか正式に許可が下りるなんて。天国のお母さん、見てくれていますか? 零武は今、幸せです」


風音「アリエイラさんを勝手に殺さないでね?」


 亡き者にされたアリエイラいじりの件はともかく。

 分かり易く笑顔になっている零武と、驚く息吹。


息吹「え・・・? 許可が下りるのですか?」


風音「まぁ許可って言うか・・・零武なりに僕に何かあった時の為に警戒してくれてるんでしょ? それを無下むげに出来ないし」


 晴嵐せいらんや息吹はストーカーストーカー言っているが、そもそも立場的には従者として設定された者達だ。

 主人に対するプライベート空間以外の警戒任務は、仕事の一つでもある。


息吹「それなら・・・私も見て良いという事ですか?」


 モジモジしながら上目遣いで尋ねる息吹。


零武「私を殴っておいて、それは無いんじゃないの息吹」


息吹「何か言いましたか零武?」


零武「いえ」


 すぐに息吹から目を逸らす零武。


風音「っていうか・・・不思議なんだけど、なんで息吹が勝つの?」


 零武は兵器主体の戦闘特化型だ。

 兵器主体・・・つまり何でもありなら四姉妹の中で一番強い。

 しかし格闘では素手専門の戦闘特化型の鞍馬くらまにははるかに劣る。


 逆に戦闘特化型ではない晴嵐や息吹では、兵器無しの無手ですら零武の足元にも及ばないはずなのに。


零武「私にも分からないんです。何故か力が出ない・・・・」


 負けた事が信じられない様子の零武。

 息吹は知っているようで、解説を始める。


息吹「以前艦長と主が共に仕事をした事がありましたよね? 連続殺人犯の事件の時の事です」


風音「あぁ、そういえば居たね」


 なぜかデスクワーク専門のアリエイラが、殺人事件の調査に出張ってきた事があった。


息吹「あの時自爆型の機体を作っていた事は聞かれましたか?」


 そりゃ覚えている。

 アリエイラが「今日の私は戦えます」とか珍しい事を言ってたから、詳細を聞いてみた。

 その時アリエイラは「周囲にバリアを張ってから自爆が出来るロボットを作った」と胸を張って答えた。

 小型核爆弾級の超高火力爆発を、バリア内に存在する敵のみに喰らわせ周囲には被害を一切出さない自爆。

 ・・・だそうだ。

 しかし肝心のバリアが自爆とほぼ同時に消失する事が分かり、もし使ったら街ごと消し飛ぶ事が判明したのだ。


風音「あれは一生使わないでって言っといたけど」


息吹「はい。あの時の事を反省した主が、兵器を主体とした戦闘特化型の零武にはリミッターを設ける事にしました。本当に必要な状況でないと、本来の実力が発揮出来ない様に」


風音「反省するベクトルが間違ってる気がするな・・・まず高火力の自爆をやめようよ」


 自爆機能こそ無いが、零武の戦闘は場合によって周囲を壊滅させる。

 もちろんその力加減は零武自身が制御するが、普段はその力を発揮出来ないようにしておいた方が周囲の安全が確保出来るとの事だ。


零武「どうして主はそんな大事な事を私に言わないの・・・」


 知らなかった零武にとってはショッキングな情報だ。


息吹「私達を全員集めた時に言ってましたよ。零武が聞いてなかっただけです」


 がっくりと項垂うなだれる零武。


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