風音ワングランプリ? 三日目乃肆
しかしそんな息吹にも疑問はある。
風音が誰にラブレターを渡そうか悩むとしたら、まず候補に挙がりそうな人は他にいそうなのに。
息吹「ですがどうして晴嵐なのでしょう? 他にもたくさん女性はいらっしゃるのに。例えばブラウニーさんとかは、渡そうと思わなかったのでしょうか?」
風音「あぁそれ晴嵐にも聞かれたけど。ブラウニーはねぇ・・・口頭なら本気と受け取ってくれそうな気がするんだよ。でも手紙は・・・何となくなんだけど、最初っから冗談と決めてかかってきそうな気がする。んで、こっちは実際にドッキリでやってる訳だ。 ドッキリが終わってからのその後の展開が、なんか恥ずかしくてね。人として負けた気がするって言うか」
息吹「はぁ・・・」
よく分からないので生返事になる。
息吹「艦長は重要な伝えたい事を文章で伝えるような人物ではない。と、ブラウニーさんはそう理解しているという事でしょうか?」
風音「うん、そう・・・だねお互いに。僕ももしブラウニーから口頭で告白されたら本気なんだなって思うけど、手紙を送られたら「どういうつもりだろう?」が先に立つと思う。あれだけ言いたい事を面と向かって言う人が、いきなりこんな重要な事を手紙で? なんかの罠か? って」
息吹「なるほど・・・。ですが女心というものは繊細で複雑なもの。本当に伝えたい事ほど、正面からは言えないという事もあるかもしれませんよ?」
ゆっくりと頷く風音。
風音「ブラウニーに、そういう繊細な心とか無いと思うんだ」
爽やかに答える。
息吹「艦長・・・」
なにげに酷い気もするが、それだけ理解し合っているという風にもとれるか。
アリエイラ「それより何故晴嵐なのかが・・・。普段そんなに仲良くないと思っていたのですけど」
負けた訳ではないにしても、自分の従者が告白対象に選ばれているという事にモヤモヤする。
風音「消去法でね。まず精神年齢も含めて、子供にやっちゃいけない悪戯だし。 あとワグナさんとかリロとか癒々さんとかシノとか、他に好きな人が居る人には渡しても仕方ないし」
アリエイラ・ルミナ・息吹「「「は?」」」
三人一斉に疑問の表情を向ける。
そんな事をされたら、風音の方も焦る。
風音「え? なに? だって間違った事は言ってなくない? 子供にやっちゃ駄目でしょ」
ルミナ「あの・・・そっちじゃなく」
息吹「今艦長は、並行世界の話をしていらっしゃるのですか?」
アリエイラ「いや・・・まぁいいでしょう。その話はそこまで。とにかくその、風音さんの中での消去法で残ったのが?」
この話を掘り下げない方がむしろ良いと判断したアリエイラが、強制的に話を終わらせて結論を急く。
風音「晴嵐と零武。あとカノンの人に拘る必要無いかなって思ったから、ちょっとだけ花屋のマリアさんも視野に入れてたけど」
アリエイラ「? ・・・どこかで聞いたような気もしますが、どなたでしたっけ?」
ルミナに目配せするが、ルミナは全然知らない様子。
息吹「マリア・リーフさん。最近カノンの出入り業者になったばかりの方ですね。今後カノンで作ったお花を仕入れてくれる方です」
風音「さすが息吹。うちの事ちゃんと勉強してるね」
息吹「ありがとうございます。カノンの事を全て把握するのは、艦長の従者として当然の嗜みです」
ルミナ「息吹? そのマリアさんって、どんな方なのかな?」
これは探りを入れておかなければならない事案だ。
息吹「犬型獣人の背が低めの女性ですね。とても可愛らしい方です」
アリエイラ(ふむ、花屋・・・犬型獣人。あぁ、殺人犯を追っている時にお邪魔したお店で出会った子ですね。なるほど)
ようやく思い出した様子のアリエイラ。
基本的に顔を覚えるのは得意なのだが、名前までいちいち覚えていなかった。
そして予想外に人物の出現に、ルミナが内心穏やかではない。
ルミナ(そんなチート野郎がこのカノンに?)
犬型獣人なんて、風音が大好きなやつじゃないか。
仮に目の前に世界一の美女が居て、世の男性全員がそっちを見てる時でも、犬型獣人が近くにいると風音だけはそっちを見ているくらい。
そのくらい存在自体がチート行為と言ってもよい種族。
ルミナ「そうですね・・・。近い内に「ご挨拶」をしておきましょうか」
アリエイラ「ふむ」
姑のような顔になるルミナ。
そしてマリアがカノン関係者になっていたという事で、少し興味深そうな顔のアリエイラ。
風音「それが良いよ。やっぱり出入り業者も立派なカノン関係者だし、知っておいて損は無いから。 で、話を戻すね。 それで最初に出会ったのが晴嵐で、そのまま付き合う事になって終わりって感じだった。って事で、昼に見た夢よりは遥かにちゃんと出来てたと思う。プラス評価で良いんじゃないかな」
夢での最後の変な終わり方は、自分のせいである可能性が高いので伏せる。
サラッと総評を述べて、結論まで言ったが。
ルミナ「ちょ・・・っと待って? あの晴嵐が? 受け容れたの? しかもあの子ってあの機械に本人のデータが入ってるよね・・・って事は多分ほぼ本人だったんじゃないのかな? なのに受け容れた?」
風音「そうそう。ビックリしたんだけど、僕の夢の中なのに性格そのまんまの本人だったんだよ。 最初断られたんだけどね。しかも滅茶苦茶怒られたし、お腹殴られたし正座させられたし頭二回どつかれた。でも事情を話してる内に「艦長もこれ以上誰かを陥れたくないでしょ。私が付き合うって形で終わらせてあげよう」って言ってくれて」
アリエイラ「なるほど」
アリエイラ(そんな姑息な手で従者としての欲を満たしつつ、他の可能性を潰したのですね。断られたそのあと風音さんがどういう行動を取るかが知りたかったのですが・・・これはもう、ハイパー折檻ですね・・・)
という感想を持つアリエイラに対して。
ルミナ(それで晴嵐と付き合う事になったから終了か・・・。まぁ最初から私が除外されてるなら、その結果が一番無難かな。いろんな人に告白して、リロやら凌舞やらブラウニーへの評価が今以上に変動する方が厄介だしね。・・・それより犬型獣人のマリアか・・・今はそっちの方が気になる・・・)
真逆の感想だが、二人とも複雑な表情をしている。
ルミナ「その・・・マリアさん? には最初に会いに行かなかったんですか?」
風音「視野に入れたって言ってたけど、あの種族の人って純粋な人が多いからさ。そんな子に悪戯なんて・・・って、自分の中でやっぱり止めとこうってなってね。 でも一応挨拶がてら、ショッピングモールに行く前に最初に花屋さんに寄ってみたんだけど。商店街の中心にでっかい時計塔があるの知ってる? あそこの最上階に花壇があるんだけど、マリアさんがそこに季節の花を届けに行ってるって言われて」
そういう話を本人から聞いた事があったので、夢の中で反映されたのだろう。
ルミナ「へぇ・・・。時計塔のマリアさんに会いに行こうとまでは思わなかったんですね。ま、わざわざ会う必要も無いですからね」
と口では強がっているが、またしても内心穏やかではない。
ルミナ(やめとこうと思ったのに一応会いに行く? え、なにそれどういう状態? まずくないその子? そんなのが外部に居るなんて聞いてないわよ)
考えていても埒が明かない。
ルミナ「まぁ・・・結果は以上って事ですね。ちょっと仕事があるので今日はこの辺で」
部屋に戻って早速リサーチしないと。今日中に商店街通りに敵情視察もしに行くつもりだ。
アリエイラ「そうですね。私も急用が出来ました。この辺りで御暇しましょう。ではまた明日」
風音「うん、仕事頑張ってね。 あと零武は残って貰っていいかな? ちょっと聞きたい事があって」
ここまで部屋の隅っこの方で、瞬きもせずにずっと風音を見ていた零武に声を掛ける。
零武は視線を逸らさずに頷く。
そしてアリエイラとルミナは、足早に艦長室から出て行った。




