風音ワングランプリ? 三日目乃弐
保留音が消え、ウェルズが電話口に戻ってきた。
ウェルズ「風音君。俺の命が惜しかったら、九重さんを起用するのは止めてくれ」
風音「何があったんだよこの一瞬で」
ウェルズ「いやまさかリアルタイムでこの電話の内容を聞かれてると思ってなかったんだけど。ちょっとある上司に聞かれててさ。その人から九重さんの起用を問題視する声が出て」
風音「ある上司って天狐さん?」
聞くまでも無く、そんな指示を出す奴はあいつしか居ないだろうが。
ウェルズ「それは言えない。守秘義務がある。 とにかくよく考えようぜ、俺の命は大事だろ?」
風音「え・・・いや、そんなに・・・」
ウェルズ「またまた。しかも一つ良い事もあってな。いいか風音君。九重さんさえ起用しなければ、この通話は問題無いとして処理される。 一度上司からのチェックが入って問題無いとなった通話記録は、ほぼ二度と調べられる事は無い。つまりさっきの上層部批判も、もう誰にも聞かれる事は無いんだ。 九重さんを起用しないだけで、俺の命は助かるし上層部批判も闇に葬られる。まさに一石二鳥だろ?」
風音「まぁ・・・ウェルズにとってはね。 こっちは別にウェルズの上層部批判が明るみに出て減給になったうえで、おまけに天狐さんにボコされても何の問題も無いから。 むしろ僕にとっては今日の晩御飯が美味しくなるだけかな」
ウェルズ「ひでぇな。 もうちょっと俺を大事にした方が良いぜ? 今度新たにフェクトで動物園が開園するの知ってるだろ? あれ俺ら治安組織が事前に安全面のチェックに行く事になってるんだぜ?」
風音「ふぅん。それが?」
急に関係無い話をされても。という態度の風音。
ウェルズ「その中にふれあいパークって所があって、そこに風音君も職員関係者として連れて行ってやろうと思ってたのに」
風音「え・・・。触れ合い? 動物と?」
可愛い動物大好きの風音が食いつく。
ウェルズ「主に異星人に対しての娯楽施設だから、地球産まれの生物がほとんどらしいよ。風音君にとっては見慣れた・・・ウサギとかモルモット、あとは猫とか小型犬かな」
うさぎ。小型犬。
急に風音の声のトーンが下がる。
風音「・・・ほんとごめん。じゃあ九重さんは止めます。 連れてってくれるんだったら、ついでに今ウェルズを脅した天ヶ崎天狐を今日中にボコボコにする事も辞さない所存」
ウェルズ「いやそれはやらなくていい」
風音「そんな遠慮しなくても。すぐにでも土下座させるし」
ウェルズ「いいから。そんな事したら俺がシャロン内に敵を増やすだけだから。 ・・・ていうか土下座させるとか簡単に言ってるけどよ。 天ヶ崎さんって最近かなり強くなってるらしいぜ? 風音君如きで勝てるのか?」
如き? 一瞬どう答えていいのか分からなくなる。
風音「あの・・・僕あいつの元師匠ですねん」
その最近強くなったってのが、誰のおかげだと思ってるんだ。
ウェルズ「え? そうなのか? あぁ、出身国が一緒だもんな。関りがあってもおかしくないか・・・でも元って事はどうせ過去の話だろ。いつまで師匠面してんだって思われてんじゃないの?」
風音「師匠だったのは割と最近の話だよ・・・っていうか僕そんな弱そうに見えてる?」
まさかそこまで・・・、とかなり本気でへこむ。
ここ最近鍛えた弟子に負けると思われてる師匠って・・・。
それよりこの会話って今天狐さん本人が聞いてるんじゃないのか? どんな顔して聞いてるんだろう。
ウェルズ「別に風音君が弱く見えるって言ってないだろ。天ヶ崎さんの成長がヤバいんだって。春日師範も言ってたぜ?」
ウェルズが春日師範と呼ぶ人物も、風音が住む宇宙艦カノンの乗組員の一人。
あの爺さんの顔を思い浮かべながら、逆に聞き返す。
風音「ヤバいったって、まだその春日さんにも勝てないんでしょ? 僕春日さんなら勝てるんだけど」
ウェルズ「えっ!? まじで!? 風音君、春日師範に勝てるのか!?」
風音「負けると思われてたの!?」
これはへこむ。いや春日さんは確かに武道の達人だけども。
ウェルズ「だってあの人の方が超然としてるっていうか、そもそも風音君の報告聞いてると、いっつも仕事で死にかけてない? 本当にこれがブラックリストに掲載されてる人かって、シャロンの皆も思ってるぜ?」
風音「あぁそうなんだ」
じゃあ一回でいいから神狼の群れとか、空中監獄の古代兵器と戦ってみろってんだよ。
シャロンなんか一時間で滅ぶっての。
まぁそんな大人げ無い事言わないけども。
今自分がシャロンの人達から、どれくらいの評価を受けているのかはよく分かった。
風音「・・・それはどうでもいいとして。じゃあ出演者はこっちで適当に決めとこうか。いつ撮るの?」
ウェルズ「出来れば早い方が良いんだ。明日とかどう?」
早すぎるだろ。と思いながら。
風音「明日? 演技練習の時間とか無いの? 最低でも今日打ち合わせが要るんじゃないの?」
ウェルズ「ただのPR動画だからクオリティはそんな求められてないだろ。カメラを意識せずに自然体が出せればそれで良いよ。普段の自分7で演技3って感じの配分でやれば?」
風音「簡単に言うね。なにか急いでる理由とかあったりするのかな?」
ウェルズ「撮影にも知識が要るだろ? でも本部の厳しい規律上、制作を外部の人に委託出来ないし。 だから本部お抱えの撮影専用の監督が来ててね。あの人他の仕事しないから、地球に滞在してる間は働かずに給料が出てるんだ。せめて出勤せずに自宅待機してくれてりゃいいんだけど、いちいちシャロンに来てウロウロして嫌味ばっかり言ってるから、若手の士気が下がってるんだよな。早めに終わらせて地球外に放り出したいってのが、多分シャロンの総意」
風音「この会話が闇に葬られるのが分かってるからって、本部の人の悪口言い過ぎじゃない?」
苦笑するとともに、そんな奴と仕事しなくちゃならないのかという不安もよぎる。
ウェルズ「良いよ別にこれは聞かれても。俺の減給であの人の問題点が本部に届くなら、願ったりだよ」
風音「さすが減給され慣れてる人だけあるね」
ウェルズ「俺の減給のほぼ九割は風音君のせいだけどな。廊下でいちいち犬が至高とかいう、意味不明な事を言ってくるから」
風音「人聞き悪い事言うな。そっちが猫みたいな胴長軟体生物が最強とか、訳分からない事言って吹っ掛けてんだろ」
二人が仕事以外で顔を合わせると、大体犬派猫派論争が始まる。
が。
風音「いや、今は止めよう。真面目に仕事をしよう」
ウェルズ「確かに。もうこの件で減給はごめんだ。じゃあ取り敢えず明日シャロンに来てもらえるか?」
風音「いいけどさ。 ただその条件でその監督に準備不足とか言われたら、張り倒すかもしれない。・・・とだけ事前に言っとくよ」
ウェルズ「いいよ。やったれやったれ」
風音「はは・・・、じゃあまた明日」
電話を切る。
さて誰を撮影に連れて行こうか。




