風音ワングランプリ? 二日目乃拾捌
「みーつけた」
首から上を失った晴嵐の背後に立つ男が、こちらを見て微笑んでいる。
どこかで見た男。
短刀を手に、こちらを見ている。
その刃物で背後から晴嵐の首を切り落としたようだ。
風音「夢の中の奴にこんな事言っても仕方ないけどさ・・・。お前返答次第じゃ同じ目に合わせるからな」
風音の目が青く輝くように光る。怒りが頂点に達した時の反応。
風音「お前誰だ? 何の目的でやった?」
風音が席から立つ。
エネ「ひどいなぁセヴィ。エネだよ。あいつらへの復讐は終わったんだ。だから迎えに来たよ」
えね?
あ・・・思い出した。
こいつ、昼間の夢に出てきた男か。
夢がごっちゃになっている。
やっぱり最初に精神に錠をかけた時、空間が歪んだのは見間違いじゃなかったか。
この夢に何らかのバグが生じている。
風音(じゃあこれは僕のせいか。 こんな奴無視でいいかな)
徐々に周囲の空間が捻れてきている。
夢が終わりそうだ。
エネを無視して、転がった晴嵐の頭を拾う。
頭を落とされたくらいで止まる晴嵐ではない。会話くらい可能だろう。
というかそれ以前に、そもそも夢だから何でもありかもしれないけど。
風音「ごめん。現実と違って襲ってくる気配が無かったせいで、助けられなかったよ」
晴嵐がニコッと笑う。
晴嵐「気にしなくていいよ。どうせ夢じゃん? でも艦長、約束は覚・・・」
エネが晴嵐の髪の毛を引っ掴み、壁に向かって投げつける。
凄まじい勢いで晴嵐の頭が壁に激突し、グシャっと潰れる音がして床に落ちる。
エネ「いつまで人形と喋ってるんだ? 早く帰ろう」
風音「・・・・・・」
無言のまま、目の前にいるエネの腹を思い切りぶん殴る。
しかし夢だからか、全くダメージが無い様子。
エネ「ひどいなぁセヴィ。あ、そうか。私が誰か分かっていないのか。ごめんごめん、そりゃそうだね。これで少しは分かるのかな?」
意味不明な言葉と共に、急に姿が変化する。
高かった背が少しだけ低くなり、性別が変わる。
見た目は大きく変わった。顔立ちがかなり女性ぽくなったのと、スタイルがモデル並みになった。
一方で黒髪で青い目などの目立った部分。鋭い目つきや漂う空気感などは全く変わらない。
風音(誰だこいつ・・・いや? こいつどっかで・・・)
見た事があるような。
直接本人に会った事は無いと断言出来る。
でもどこかで見た記憶がある。
しばらくして、周囲の風景が認識出来なくなるほど歪む。
風音「終わりか。 お前、命拾いしたな」
エネ「何を怒ってるんだ? ほら、早く一緒に帰ろう?」
周囲だけでなく人の姿すら歪み始めるほど、本格的に空間が歪む。
もう間もなく夢が終わるのだろう。
最後に一言だけ言っておいてやる。
風音「一人で帰れブス」
・・・・・・・・・
ゆっくりと目を開ける。
カノンの自室。
夢から醒めたようだ。
何となく・・・ホッと一息つく。
面白かったような、疲れたような。
事前にルミナが言っていた通り、しっかり睡眠はとれている状態ではある。
両手を上に挙げる。
風音「んに゛ぃ~~~~・・・っと」
思いっきり伸びをしてから、ベッドを降りる。
風音(まずは約束からか・・・。 晴嵐って大体ルーティーン通りの生活をしてるから、今は洗濯物を干してるくらいの時間帯かな)
脇腹をチェックし、一緒に服を買いに行く約束をしてこよう。
しかし現実に戻って改めて思う。
女子の脇腹を見るって、かなりハードル高いな。
たとえちゃんと理由があったとしても。
たとえ相手がそれを望んでたとしても。
いきなり服をめくって見たら、ただの変態じゃないか?
まぁどうにか上手くやろう。
部屋を出て、早速庭の方へ向かう。
庭に出ると、いつも通り晴嵐と癒々が洗濯物を干している。
癒々は先に終わったようで、ちょうど戻る所のようだ。
あんまり脇腹を見ている所を他人に見られても・・・なので、癒々が去るのを待ってから晴嵐に声を掛けた。
風音「あ、おはよう。晴嵐」
名前を呼ばれた晴嵐が、風音の方を向いて一瞬嬉しそうな顔をする。
しかしすぐにいつもの鋭い目付きに変わる。
晴嵐「おはよ。 どした艦長? 主の下着でも見に来たのか?」
風音「いきなり変態扱いですか。 いやゼロアを見習って、たまにはトレーニングルームじゃなくて外を走ろうかなって。その前に・・・まず・・・ほら、僕目が良いの知ってるでしょ?」
晴嵐「私達より良いよね。機械に勝てるってどういう構造になってんの?」
風音「僕本人にどうなってんのって聞かれてもね」
晴嵐「あぁ、分かった。その視力なら見ようと思えば主の下着なんて、自分の部屋の窓から見れるもんね。だからわざわざここまで見に来ないよって言いたいんだ」
風音「いや違う。あくまで僕を変態扱いしたいみたいだけど、そうじゃなくて。さっき近くを通りかかった時偶然見えたんだけど・・・風でその服が揺れた時にさ、晴嵐のおなか周りが見えてさ」
ちょっと言いにくそうに言う。だってどうマイルドに言ったところで、変態発言でしかないだろうこれは。
晴嵐「うわぁ・・・エッロいなぁ。 本格的に変態じゃん。いっつもそんなとこばっか見てんの?」
思った通りの反応。
でも言葉の内容とは違い、なんだか楽しそうな様子の晴嵐。
風音「いや違う待って晴嵐。えっとね、その時なんか、刺青みたいなのが見えた気がして。そういうのってアリエイラさんからも聞いた事が無かったし、もし認識ナンバーとかなら、わざわざ体に彫らなくても良いからさ。場合によってはアリエイラさんに消して貰うように相談出来るけど?」
ロボットは物扱いされるのを嫌がる子も多い。
しかし製造者はロボットに対してナンバーを付けたがる傾向にある。
別にナンバーを付けるのは良いが、体の一部に数字を書き込んでおく感覚は意味が分からない。でもやりたがる奴は多い。
そういう製造者の自己満足でしかない数字は、体から消してあげた方が良いんじゃないかな。
これは本当に普段から思っているので、こういう切り口で話しかけてみると変態扱いされにくいんじゃないかと思う。
晴嵐「あぁそういう話? ・・・いや実はこれナンバーとかじゃなくってさ」
一旦晴嵐が周囲に誰も居ないか確認する。
そして嬉しそうに語り始める。
晴嵐「恥ずいから見せるのは艦長だけだよ? これちょっと見てよ・・・」
・・・。
良かった。どうやら上手くいきそうだ。
ちゃんと約束は果たすから、安心してほしい。
・・・でも何を買うか分かってる買い物に六時間かぁ。
普段ならさすがにちょっと面倒臭い・・・と思うはずなのに。
嬉々として刺青シールの事を語っている晴嵐を見て、自然と笑みがこぼれた。




