風音ワングランプリ? 二日目乃拾漆
モールの地図を見ながら歩く。
一階の白い外観のレストラン・・・あれか。
レストランの前に来て、少し晴嵐が驚く。
晴嵐「へぇ・・・このファミリー向けのショッピングモール内で、全個室なんだ」
風音「うん、だから予約が必要だったんだよ。多少値が張るけど、店内綺麗だし料理も美味しい値段相応な店らしいよ」
晴嵐「それは期待出来ますなぁ♪」
ついさっき怒って叫んでた割には、なんか上機嫌のようだ。
店内に入り個室に案内され、テーブルに向かい合う形で座る。
夢の中なのでおそらく内装が完全再現されている訳ではないのだろうが、ウェルズに見せて貰った写真と同じ感じに再現されている。
試着で散々疲れたので、風音が席に着くなりまずは一杯水を飲む。
風音「あーー、やっと一息ついた」
服選びの六時間は基本喋りっ放しだったから、さすがに喉がカラカラだった。
晴嵐が周囲を見ている。そしてまた独り言のように小さく呟く。
晴嵐「・・・こういうとこ来ないからなぁ。たまには来てみても良いかなぁ」
風音「今時の女子を名乗るのに、こういうお洒落なとこには来ないんだ?」
さっき小さな声も聞き逃すなと言われたので、小さな呟きもちゃんと聞いていた風音。
晴嵐「うん。やっぱうちら食事にあんまりお金かけないからさ。味は分かるし好みもあるけど、体を維持出来るエネルギーさえあれば、味に拘った食事の必要すらないわけだし。数日の稼働だけなら最悪電気だけでもいけるからね。あんまり電気だけの生活を続けると、生体部分がボロボロになっていくからやんないけど」
風音「もったいない。味の好みがあるなら食事は拘るべきだと思うけどな。 はいこれ」
風音がメニュー表を晴嵐に渡す。
それを受け取りながら、そのなんでもない光景に晴嵐が乙女の表情になって。
晴嵐「はぁ・・・。 いいよねぇ・・・こういう時間がずっと続けばいいのに・・・」
それに対し、自分の分のメニュー表を見ていた風音が顔を上げる。
風音「え? 何か言った?」
晴嵐「だから聞いとけやボケカス!! 結構意味深な事言ったぞ今!」
また吠えられた。
風音「あ、そうなん? ごめん、じゃあもう一回言って?」
晴嵐「言わねーよ!! ああいうのはその場の勢いが大事なんだよ!!」
テーブルの下で、風音の脛を蹴る。
風音「さっきまで上機嫌だったのに、めっちゃ怒るし」
まぁこの方がいつもの晴嵐っぽくて良いけど。
店の人を呼んで注文を終え、後は来るのを待つのみとなる。
風音「っていうか、さっきから思ってたんだけど。この夢っていつ終わるのかな?」
晴嵐「ん? 早く終わってほしいの?」
風音「いや? せっかくだからもっと続いて欲しいけど。でも急にブツ切りで終わるのか、予兆があるのかが気になって」
晴嵐「そ・・・そっか」
風音「それで思い出したけど、改めてごめんね。一回手紙の返事を断られたのに、結局悩み相談の末付き合う事になって」
晴嵐「・・・だからそれは気にしないでって艦長」
晴嵐が赤面してうつむく。
そして二つほど深呼吸をしてから。
消え入りそうな声で言う。
晴嵐「うちだって・・・自分がロボットだから遠慮しただけでさ・・・本当は断りたくなかったから」
言ってからハッとする。
ちょっと・・・言い過ぎなくらい言ってしまった。
流石にこれはもう、告白みたいなもんだ。
小さな声も聞けと言ったし、何もせずにただ食事を待っているだけの個室の静かなこの状況。
今のを聞いていなかったは有り得ないだろうし、そもそも会話中だったからちゃんと聞いていたはずだ。
でもこれは・・・聞かなかった事にしてほしい。
この状況を楽しみながらも、やはりまだ遠慮している自分が居るのも本音だ。
今のを聞いて、艦長が自分を受け容れてしまうような、そんな間違った判断をしないでほしい。
やはり艦長は、ちゃんと人間と付き合うべきだ。
晴嵐(お願い。 勝手かもしれないけど、今の言葉こそ聞き流しててくれないかな・・・)
顔を紅潮させながら、うつむいていた顔を上げる。
風音がピッチャーを持った店員に水を入れて貰っていた。互いに笑顔で「どうも~」「どういたしまして~」とか言っている。
風音が晴嵐の視線に気付いたのか、晴嵐を見て尋ねる。
風音「ん? 何?」
晴嵐「聞けよっ!!!!!!!!!」
吠えた。
風音と一緒に、ついでに店員もビクッとする。
晴嵐「わざとやってんのかボケカス!!! 今のは一番聞いとかなきゃ駄目なやつだったからな!!! ってかお前さっき水飲んでただろうが!!!! すぐに飲まないと干からびるのかお前は!!!!!」
風音「・・・あ、もしかしてまたなんか重要な事言ってた? いやさっきこの店員さんが注文を取りに来てくれた時、僕のコップが空になってるのを見てくれててね。わざわざ入れに来てくれたんだよ。さすが気が利いてるよ」
笑顔を向ける風音に、店員も気さくに答える。
店員の女性「はい。そういうのを見逃すなって、よく言われてるんですよ~」
晴嵐が店員の方を睨む。
晴嵐「見逃していいから全テーブルにピッチャー用意しとけって、店長に言っといて!!」
風音「ここフェクトだからね。ピッチャーなんて、いつ遊び半分で毒を混入されるかって懸念もあるし」
晴嵐「真面目に答えんなボケカス!!」
テーブル下で風音の脛を蹴りまくる。
風音がそれに耐えながら笑顔で店員に対応して、店員が引きつった笑顔のまま退散する。
風音「いやぁごめんごめん。店員さんが来てたら、そっちの対応をまずしないとだからさぁ」
晴嵐「はぁ・・・・」
晴嵐がでっかいため息を吐く。
晴嵐「いや良いんだけどさ。私もちょっと言い過ぎたし。 ・・・あのさ」
改めて風音をじっと見る。
晴嵐「二つお願いがあるんだけど、聞いてくれない?」
風音「聞ける範囲なら何でも」
晴嵐「さっきさ・・・今ここに居る私がもし作り物でも怖くないって言ったじゃん? その言葉に嘘は無かったんだけどさ。 でも・・・今はちょっと違っててさ。 やっぱりなんか・・・今のこの記憶が無くなるのが・・・すごく嫌でさ」
晴嵐が寂しそうな表情で言う。
晴嵐「だって艦長と私って普段ほとんど接点無いじゃん? でも今日すっごい楽しかったし。上司と部下ってよりさ、こ・・・、と、友達みたいだったじゃん。 これが無かった事になるのが嫌なんだよね」
風音「それは全く同感だね」
晴嵐がちょっと嬉しそうな表情に変わる。
晴嵐「だからその・・・せめて現実の私と艦長の関係を、今の私に近付けたい。だからまず現実に戻ったら、無理矢理でもいいから私の脇腹のシンボルマークを見てほしいんだ」
風音「さっきのやつ? 無理矢理って・・・近付いて服をめくるって事? 殺されない?」
笑いながら言う。
晴嵐もつられて笑う。
晴嵐「暴れるかもね。 でも、絶対内心嬉しいはずだから。本人が言うんだから間違いないよ。 だってずっと誰かに知ってほしかったし。私がカノンの一員だって事を誇りに思ってて、シンボルマークを毎日付けてるって。・・・まだ息吹も零武も、主だって知らないんだよ。 やっぱ艦長に一番に知ってほしいじゃん?」
風音が頷く。
風音「そっか。じゃあシバかれるの覚悟でやってみるよ。・・・また変態扱いされるのだけは勘弁だけど」
何故か風音はカノンでやたらと変態疑惑が出る。
こんなに品行方正に生きてるのに。
晴嵐「頼むね。 あともう一つ。このショッピングモールってさ、多分私の記憶が反映されてると思うんだ。だからさっき買った服も現実にあると思うのね。 それをプレゼントしてくれたら、超喜ぶんじゃないかなって思うんだ」
風音「あ~まぁ・・・晴嵐の今一番好みの服を渡すわけだからね」
晴嵐「そう。一気に距離近付きそうじゃん?」
風音が少し悩んで、首を横に振る。
風音「でもそれじゃあ今の状態に近付けないでしょ。礼を言われて終わりじゃない? それより、僕が服買いに行こうって誘ってみるよ」
晴嵐「・・・そっか。そうかも。 でもいいの? 時間とか」
風音「うん。同じ店に入って、どうせこの服を買うんだろうなって思いながら、また四時間付き合うよ。で、その後僕の服を選ぶのに二時間付き合って貰おう」
晴嵐「・・・どうせその二着を選ぶよ私は」
凄く嬉しそうな顔で、風音の荷物を指で差して言う。
・・・・・・
しばらく静寂があって。
晴嵐「・・・あの、さ」
晴嵐が口を開いた時。
不意に風音の視界の端の方の空間が歪む。
ザンッ!!
何かを切り裂く音と共に、目の前にいた晴嵐の首から上が吹き飛んで床に転がる。
風音「は?」
一瞬意味が分からず呆ける。
これがこの夢の終わりの合図・・・なのか?




