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カノン  作者: しき
第5.5話
68/206

風音ワングランプリ? 二日目乃拾肆


 しばらく思考時間の為、無言で停止する晴嵐せいらん

 そしてようやく口を開く。


晴嵐「あ~~~・・・ちょっと艦長。バンザーイして」


風音「こう?」


 風音かざねが両手を上にあげる。


晴嵐「ぅオラァッ!!」


 晴嵐渾身の右ストレート。

 全力で腹を殴られる。


風音「ぐっっっ!!!! 痛っっっった!!」


 夢の中なのに普通に痛い! 信じがたいほどの痛み!

 これで起きちゃうんじゃないかと思うくらいキツい!!


 おなかを抑えてちょっと前屈まえかがみになる。


晴嵐「おい艦長。正座」


風音「正座ってそんなまるでアリエイラさんみたいな・・・ここお店の中ですよ」


晴嵐「じゃあ表に出ろ。出たら正座」


 おなかをおさえてヒョコヒョコ歩きながら、入ったばっかりのショッピングモールから外に出た。

 ちょっと人目を気にして、物陰になっている所に移動して正座する。


 その前で晴嵐がヤンキー座りをして風音に目線を合わせる。


晴嵐「あのな、やっていい冗談と悪い冗談ってのがあるだろうよ」


風音「はい。あの・・・先に言っときます。パンツ見えてます」


 ミニスカートでヤンキー座りしているから、純白のパンツが全開で見えている。

 これは別に茶化ちゃかして言っている訳じゃなく、相手が怒っているからこそ、後でバレた時にもっと怒られるからだ。

 怒られている間ずっと見ていながら、気付きませんでしたは不自然過ぎる。


晴嵐「今関係無ぇだろそれは!」


 ガスッ!!


風音「痛っ!」


 しかし行動選択をミスったようだ。頭に強めのチョップを喰らう。


 頭をさすりながら思う・・・いや関係無くは無いと思うけど。

 どこを見て説教をもらえばいいんだ。

 ・・・なるべく晴嵐の顔だけを見て喋るか。


 晴嵐は気にした様子も無く、体勢を変える事無く続ける。


晴嵐「そういやそもそもなんでここに居るんだ? 今日は確か主が艦長おまえに、ポンコツ製造機を試すとか言ってたけど?」


 そうそう。ポンコツ設定だった。それで言い逃れしよう。


風音「はい。 あ・・・そう。それで僕今ポンコツ状態なんです。それでこんないろんな人に悪戯いたずらを仕掛けようなんて、ふざけた行為をするに至っ・・・」


 そして再び全力チョップを頂く。


風音「痛い!」


晴嵐「嘘ついてんじゃねーよ。こっちは普段の艦長と今の違いくらい分かるっての。何も変わってねーよ」


風音「いやそんな事無いですよ? 歩けばこけるし喋れば冤罪えんざいを生みますよ」


晴嵐「で? もういいから、ここに来た目的を言って?」


 全然信じてくれない。これ本当に自分の部下なのか・・・。


風音「この悪戯をする為に、ラブレターを入れる封筒を買いに来て。・・・そしたら丁度晴嵐を見つけたから、考えるより先に行動に移ってました。はい」


晴嵐「あぁ? ラブレターを入れる封筒を買いに? 結局裸で渡したじゃねぇか。 私には封筒すら要らないってか? 軽く見られたもんだなぁおい艦長よぉ!」


 胸ぐら掴まれる。

 どんだけがら悪いんだこの部下。


風音「いやそういうんじゃないんです。本当に偶然、買う前にターゲットが居ただけで」


晴嵐「・・・それで? いろんな人に悪戯をするって事は、まさかそれ使い回すのか?」


 手紙が入った胸ポケットを指で差して聞く。


風音「え、うん。やっぱりこの悪戯は止めた方が良いです?」


晴嵐「そんな事より、その・・・一回私に渡したそれを使うのかって聞いてんだよ。私に向けて書いたもんだろそれは」


 そういう風に解釈していたのか。 ・・・そりゃそうか。

 実際は夢だから勝手に書いてあったのだが、おそらく風音の感性をもとに書かれたものだろう。


 普段周囲を気にかけているとか実は優しいとか、日頃本当に晴嵐に対して思っているような事も書いてあったし。

 書いてあった内容から考えても別に、晴嵐の為に書いたと言っても矛盾は無いか。


 というか馬鹿正直に書いた記憶が無いとか言ったら、またシバかれそうだ。


風音「そう・・・だね。じゃあこれはあげるよ」


 ポケットから手紙を取り出して、晴嵐に渡す。

 受け取ったと同時に半分に破られ、そのまま目の前の地面に置かれる。


晴嵐「で? そもそも何でこんな事をしようと思い立ったんだ?」


風音「それはちょっと・・・」


 ごまかす為に嘘を吐いて、バレたらまた怒られるだけだ。

 でもそれを説明するとなると、ここが夢の中だとかその他諸々もろもろ全部説明しないといけなくなる。


晴嵐「なぁ艦長?」


 今日初めて晴嵐が微笑む。

 そしてさっきより強めに胸ぐらをひねり掴まれる。


晴嵐「言えって」


 どう見てもキレる寸前だ。


風音「・・・じゃあ言っても良いし信じなくても良いけど、後悔はしないでね」


 全部話す。

 ルミナの機械によって、今夢の中で過去を変える体験している最中である事。

 分かり易く過去を変える為に、普段やらない事をやろうとした結果、悪戯をしようと思い立った事。

 この悪戯は風音の発案ではなく、アリエイラとの約束を守る為に、本当に今流行りのやつから選んだという事。

 断られた時はドッキリ続行で、受け容れられたら付き合うって形でいこうってなってた事。


 晴嵐が一通り聞いて。


晴嵐「なぁ艦長。 その・・・受け容れられたら付き合うって、じゃあ何か? このラブレターって、もし私がオッケーしてたら私と付き合ってたのか?」


 急に前髪をいじりだす晴嵐。


風音「まぁ・・・そうだね。 そりゃ現実ならもっと深く真面目に考えるだろうし、まして悪戯と同時進行で告白なんか絶対しないだろうけど」


 そこらへんは夢の中というのが大きい。

 どうせ無かった事になるからこそできる悪戯だなと思う。


晴嵐「へーーー・・・そ、そうなんだ~」


風音「ともかく、それでもし万が一誰かと付き合うってなったら、そこで終了かなって。いくら夢でも、付き合ってる人が居る状態で次に行っちゃ駄目でしょ。 現状晴嵐が断ったから、取り敢えずもう一人かなっていう予定」


晴嵐「ふ~~~~ん。 あ~そう。そっか。そっかそっか。うちが断ったんだったよね」


 晴嵐がさっき捨てた手紙を拾って、汚れを払ってからミニスカートのポケットに入れる。


晴嵐「まぁまぁ艦長、足崩そうよ。いつまでも正座はしんどいでしょ?」


 急に機嫌が良くなる晴嵐。風音の太ももをポンポン叩いている。

 言われた通り足をくずして、近くにあった腰掛けに座る風音。

 晴嵐にも近くに座るようにジェスチャーすると、隣に座ってくれた。

 良かった。これで目のやり場に困る事は無くなった。


晴嵐「は~・・・なるほどねぇ。でもいくつか疑問があるね。まず後悔するなって何? こっちが何を後悔する事があるの?」


風音「だって僕の言ってる事が本当なら、今僕の横に居る晴嵐は僕の夢の産物って事になるじゃないか。嫌じゃない? 普段通り普通に考えて普通に行動してるのにさ、突然今のお前は存在しないって言われたら」


 だから言いたくなかった。

 聞いた側にしたら安いホラー展開みたい。聞いた方も嫌だろうが、こっちはもっと気を遣う。


 しかし晴嵐の反応は薄い。


晴嵐「そんなの夢なんてそんなもんでしょ。現実の自分が消えるわけじゃないんだし? 艦長だって今日はそのルミナさんの機械のおかげで、特別に起きてもこの夢の内容をはっきり覚えてるんだろうけどさ。 普段夢なんて断片的にしか覚えてないし大体忘れるわけじゃん? そんな夢を見るたびに艦長は「あ~今日も夢の中の僕の事覚えてないわ~。あの時の僕は死んだのか~」って考えんの?」


風音「いや自分は別でしょ。ってまぁいいか。晴嵐がそういう風に考えてくれてる方が、僕としても助かる」


晴嵐「それよりもう一つ大きな疑問があるよ。艦長が嘘を言っているようには見えなかったんだけど、うちにとってはここが夢じゃないような気がしてる根拠が一つある」


風音「え? 何それ?」


 不思議な事を言い出した。


晴嵐「自分しか知らない情報をうちは知ってる。例えばそうだな・・・うちの脇腹わきばら見た事ある?」


風音「多分・・・一回も無いね」


晴嵐「ほら」


 晴嵐が服をめくると、場所で言えば右肋骨ろっこつ下部の辺りにピンク色の刺青いれずみの様なものが見える。


晴嵐「刺青じゃなくてシールなんだけどね。三日くらいで剥がれてくるから付け直すんだよ」


風音「それカノンのシンボルマーク? 可愛いなぁその色合いとか」


 よく見たら、風音が考えたオリジナルのマークだ。

 本当はでんぐり返ししている最中の犬をディフォルメして描いたつもりだったけど、そのデザインで発注したら業者が何の絵か分からなくて、ほぼウサギの絵にしたやつ。


晴嵐「でしょ? うちにとっては自分がカノンの一員ってのは、誇りでもあるんだよね。 でもさぁ、あのダサいカノンオリジナルの仕事ジャケットは、死んでも着たくないじゃん? だから代わりにこれを付けてるんだ♪ これ自作なんだよ」


 脇腹をポンポン叩きながら楽しそうに語る晴嵐。


 カノンオリジナルのジャケットを作った人を目の前にして散々言ってくれたが、その気持ちは嬉しい。

 まさか晴嵐がこんないい子だったとは。ただの対風音用暴言マシーンだと思っていた。


 ・・・それより確かにおかしい。


風音「じゃあおかしいね。僕が知らない情報を知ってるってのは。もちろん今の晴嵐の発言が全部、この夢だけの作り話の可能性もあるけど」


晴嵐「あぁそっか。艦長視点だとそうなるか。う~~ん、確かに起きてからじゃないと、証明は出来ないよね」


 悩む晴嵐に。


風音「一旦晴嵐の主張を信じた上で、何故なのかを別の角度から考えよう。 主張通りなら、ルミナの作品に晴嵐の記憶がインプットされている可能性があるって事になる。 晴嵐は今開催されてる大会を知ってるんだったね?」


 さっきポンコツ製造機にも言及げんきゅうしていたし。


晴嵐「風音ワングランプリでしょ? 絶望的なネーミングセンスだよね」


風音「あぁようやくまともな意見が出たよ。まぁそれは置いといて。おそらくこの大会にカノンの無関係なメンバーは関わってないと思うんだ。 でも各々おのおの実験の為に被験者が必要だったんじゃないかな? だとしたらアリエイラさんとこの子達が協力してなかった? 晴嵐がルミナの実験に付き合ってたとかそういう記憶は無い?」


 もしそうなら、データとして晴嵐の情報を機械に取り込んでいる可能性がある。

 夢の中に出てくる晴嵐には、機械の中にあるデータと同期するようになっているとか。


晴嵐「あ!! そうだ確かに! うちは協力してないけど、鞍馬くらまをルミナさんに貸し出してたわ。ついでに零武れいんをレスタさんにも」


 零武と鞍馬はアリエイラのロボット従者。

 今レスタの方に協力していた零武は関係無いので置いといて。

 鞍馬は従者四人の中で、唯一感情が無いタイプのAIを使っている。

 自我のようなものは限りなく薄く、残りの姉妹三人のデータを保存調整する存在。

 行動する際に、必要に応じて三人の今現在の人格を全てインストールし、使い分ける。

 見た目こそ違うが、彼女は息吹にも晴嵐にも零武にもなれる。


晴嵐「鞍馬は多分ルミナさんの実験の被験者になってる間、私の人格にもなってたのかな。その時にデータとして機械の中に、私達の感想や思想をいろいろ取り込んで検証してたとか? そのデータが今の私の中に入ってるのかな?」


風音「って可能性が高いのかな? ・・・あれ? じゃあさっきラブレターを渡した時の反応って、あれが晴嵐の素なのか。てっきり僕の空想の産物かと思ってたよ。なんか凄い乙女って感じの・・・」


 晴嵐の顔がボッと赤くなり、隣にいる風音の上腕三頭筋じょうわんさんとうきん辺りをまんで捻る。


晴嵐「忘れろ」


風音「は、はい」


 そして気を取り直して。


晴嵐「で? 具体的には他に誰に渡すつもり? いや別に興味無いけどさ、話の流れで聞いてあげるから」


 興味無さげに、あらぬ方向を向きながら聞く。


風音「それなんだよ。実は悩んでてね」


 頭をかかえる風音。


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