風音ワングランプリ? 二日目乃拾
廊下に出た瞬間、ルミナが真顔に戻ってアリエイラに尋ねる。
ルミナ「で? なんの用なのかな?」
アリエイラ「一つ頼みがあります。ここでは何ですから、あなたの部屋に行きましょう」
その言い草に、ルミナが不安を覚える。
ルミナ「悪い事じゃないでしょうね・・・」
不安に思いながらも、悪巧みなら断ればいいか。・・・と、一応部屋まで案内する。
ルミナの仕事部屋。
仕事用のパソコンといくつもあるモニター。
床にはそこらじゅうに機械の部品やよく分からない物が転がっている。棚には論文と思われる紙束が雑に詰め込まれている。
アリエイラ「妙にこの部屋は落ち着きますね」
アリエイラの仕事部屋も足の置き場が無いくらい散らかっているので、綺麗に片付いた部屋よりこのほうが落ち着く。
むしろこの部屋がアリエイラにとってのベスト散らかり具合だ。足の踏み場22パーセントくらいのこの感じ。自分の部屋は2パーくらいしか無いので、散らかり過ぎてて逆にイライラする時がある。
ルミナ「そう? 私はアリちゃんと違って自分の寝室はきれいに整頓してるから、あんまりここが落ち着くとは思わないけど。 見るだけで、あ~仕事しに来た~って感じになるわね」
来客用の紅茶を用意しながら、組み立て式の机と椅子を一つ持ってくる。
ルミナ「座って待ってて」
アリエイラ「どうも」
しばらく待ってから淹れ立ての紅茶を受け取る。
ルミナも自分の椅子に座って、紅茶片手に尋ねる。
ルミナ「で? 何の用なの?」
アリエイラ「今から風音さんのスパコンに侵入してください」
ルミナが紅茶を吹き出しそうになる。
そんな事をして何がしたいのよ・・・とか以前に。
ルミナ「アリちゃんさっきそれは犯罪だって言ってたよね?」
アリエイラ「必要悪です。私の技術では後でバレてしまう可能性がありますから。あなたに頼むしかないのですよ」
ルミナ「ハッキングはレスタの方が得意でしょ」
アリエイラ「レスタ君とは利害が一致しませんからね。こんな事を引き受けてくれないでしょう」
ルミナ「私も引き受けないわよ」
ゆっくりと紅茶を冷ましながら飲む。
アリエイラ「ルミナは今現在、風音さんがどの女性を一番慕っているのかご存知でしょうか?」
ルミナが顔をしかめて答える。
ルミナ「・・・どうせブラウニーでしょ」
アリエイラ「その通りです。私の目から見て、もっともポイントが高いのが彼女です。しかしルミナの想像とは少し違います。 彼のカノン在住の女性に対する愛情はほぼ横一線です。・・・正確にはブラウニーさんとセイニーさんだけほんの少し高く、癒々さんがほんの少し低いですが、微差です」
癒々は煉也と付き合っているようなものなので、あまり愛情を向けてはいけないと思っているからだろう。
低い奴の事はどうでもいい。それよりも。
ルミナ「そうなの? え? ブラウニーはともかく、セイニーってあの新人の?」
アリエイラの観察スキルは相当高い。ルミナもそれは知っているので、横一線という評価が事実ならかなりの朗報だ。
しかしセイニーが高いのがちょっと納得出来ない。あれ最近加入したばかりの新人だろう。
アリエイラ「風音さんは子供が好きだからでしょう。私はあの子の半機械の身体に興味があってよく話しかけに行きますが、あの子の性格や仕草、感性思想発想表情その他諸々。全部子供そのものです。そしてそんな彼女が新人であるという事が重要なのです。つまりセイニーさんには風音さんという例外を除き、ここカノンに仲の良い人や頼れる人がいない。 ・・・考えてもみなさいルミナ。可愛らしい無垢な小さな子供、あるいは小動物がここに居たとして。その子が他に全く興味を示さず自分にだけ懐いていたら、愛情の一つや二つ芽生えるでしょう?」
ルミナは地球の生物の中ではウサギが一番好きなので、自分にだけ甘えるウサギを想像してみる。
ルミナ「まぁ分からなくはないわね。なるほどねぇ・・・」
じゃあ喫緊の課題として、セイニーに友達を作ってやる事が重要なのか。
しかし自分が友達になろうとは思わないルミナ。
アリエイラ「そしてブラウニーの方。あっちはいわゆる友情値? とでも表現すべきものが異常に高いだけです。長年友情を育んできたであろう幼馴染達よりも、何故か高い」
ルミナ「あぁ・・・。この前レスタに聞いたけど、多分ブラウニーと出会った時の事が原因なんでしょうね」
アリエイラ「それ、私は初耳ですね。時間が無いので三分で解説お願いします」
ルミナが細かく言うと一時間はかかりそうな過去の出来事を、言われた通り三分でかいつまんで説明する。
説明を受けた後、少し考える仕草を取るアリエイラ。
アリエイラ「星の子と戦ったのですか。 星の子は・・・聞いた事はありますが、詳しく知りませんね。災厄の象徴ですよね?」
ルミナ「いわゆる「出会ったら星ごと終わり」で有名なあれ」
そんなのと戦ったのだ。相手にもならない程の負け戦だったらしいが、いずれにせよ二人は生き延びた。
いかに幼馴染といた時間が長かろうと、死に直面する絶望的な出来事を一緒に体験した事なんて無いのだろう。
風音にとってブラウニーとは、生まれて初めて本当の死線をくぐった間柄だ。
互いに死にそうな所を助け助けられ、そのうえ風音は過信から敵と一緒にブラウニーを殺しかけ、それをブラウニーは笑って許した。
これで友情が芽生えない方がおかしい。
しかしルミナは不満な様子。
ルミナ「私だってその場に居たら同じ事をしたわよ。ブラウニーだけが特別な訳じゃないわ」
アリエイラ「でしょうね。風音さんも内心それが分かっているのではないでしょうか。だからそれほどの体験を共にしたブラウニーさんとも、我々とは愛情値にそこまで大きな差は無いのです」
そこでアリエイラが一口紅茶を飲んで、結論を言う。
アリエイラ「さて、ここまで聞いて理解出来たと思いますが。つまりはっきり言って一番慕われているのは私であり、私以外は全員雑魚だという事です。 それを今回証明しようと思いまして」
ルミナ「はぁ?」
どう聞いたらその結論になるんだ。紅茶ぶっかけてやろうか。
アリエイラ「これから風音さんには夢の中で、カノンの女性に告白して頂きます。いわゆる告白ドッキリですね。実はそんな気も無いのにラブレターを送り、真剣に答えに来た相手に「嘘でした」と言う、下劣でくだらないあれをやってもらおうと思います」
ルミナが首をひねる。
ルミナ「そんな悪戯初めて聞いたわ。ただの嫌がらせじゃない。冗談で済むのそれ?」
アリエイラ「冗談では済みません。そんなのはドッキリとか悪戯とか言う次元ではありません。ただの宣戦布告です。私なら発覚直後に命を奪いに行きます」
ルミナ「じゃあ駄目じゃない、そんな事させちゃ」
やれやれと首を振るアリエイラ。
アリエイラ「分かってないですねぇルミナ。 おそらく風音さんも同じ事を考えます。しかし風音さんはあれで相当律儀な人です、約束した手前やらなければいけないと思うでしょう。 手紙を誰に出すのか厳選するでしょうね。さてルミナ、風音さんはどんな人を対象に手紙を出すと思いますか?」
アリエイラお得意の質問だ。
彼女と喋っていると、大体会話の途中で質問が入る。
ルミナが考えながら答える。
ルミナ「そりゃまぁ・・・夢だから誰でもいいやってなるかも。・・・いやそれは無いか。夢でも相手が不快だと思う事はしたくない人だろうし。 そうね・・・。多分、酷い冗談でも許してくれそうな人? 私ですらその悪戯は許せないし・・・せいぜいセイニーとかフィリコヨーテとかかな」
アリエイラ「素晴らしい。 全然違います」
満面の笑顔で言う。




